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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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休息も必要

 墜落した船の破片によって周囲の建物に多少なり被害は及んだものの、レクトたちや住民が奮戦した甲斐もあってか大事には至らなかった。

 とはいえ、船の破片に限らず船からの砲撃や溶岩獣の攻撃によって怪我を負った者も少なくはなかった。そのため、船の残骸が落下した地域では将軍マサムネが派遣した医療班が簡易的なキャンプを設置しており、負傷者の救護にあたっている。レクトたちはその様子を静かに眺めていた。


「こちらで応急処置を行うことができます!怪我をされた方はいらしてください!」


 医者らしき男が、怪我をした人々に向かって大声で叫んでいる。怪我の程度も人によって様々で、小さな火傷で済んだ者もいれば骨折のような重症の患者もいるようだ。

 そんな中、不意に1人の侍がレクトに声をかけてきた。


「レクト殿、あなたも怪我をされているのではないでしょうか。医療班が待機しておりますので、治療を受けてはいかがでしょう」

「いや、ほぼ無傷なんだが」


 折角の申し出ではあったものの、言葉の通りレクトはほぼ無傷だった。少なくとも治療が必要な状態ではないということは確かだ。

 だがそれとは別に、レクトとしては聞いておきたいことがあった。


「それより、例の溶岩の化け物どもはどうした?さっきから全然見かけないんだが」


 レクトが気になっていたのは、シラヌイたちがばら撒いていたマグマスライム…もとい溶岩獣のことだ。一時はあふれかえるほど街中にウジャウジャいた筈なのに、今は全くと言っていいほど視界には入ってこない。


「それが…対応にあたっていた侍からの報告によると、船の墜落と同時に一斉に活動を停止したそうです」


 原因がわからないのか、侍は不思議そうな顔をしながら答える。おそらく彼自身はそういった術の類は専門ではないので、検討もつかないのだろう。


「そうか。まあ教えてくれてサンキュー。俺は問題ないから、他の怪我人の治療に当たってやってくれよ」

「はい、わかりました」


 とりあえずレクトへの治療は必要ないとわかったからか、侍はそそくさとキャンプの方へと戻っていった。


「活動を停止したって言ってましたけど、もしかして術者が逃げたからでしょうか?」


 侍を見送った後、何となく心当たりがあるのかフィーネが1つの仮説を立てる。レクトも同じように考えていたのか、それを聞いて頷いた。


「多分そうだろう。あの手の術は大抵、使役している人間が一定以上の距離を離れてしまったら効果を失うからな」


 レクトたちの見解としては、溶岩獣をコントロールしていた術者が離れたために術が効力を失い、ただの溶岩に戻ったというものであった。


「それなら先生、例のモンスターを倒した後に残った溶岩を調べてみるのはどうですか?もしかすると何か術の痕跡とか残っているかもしれませんし」


 アイリスが的確な意見を出す。が、レクトは少し嫌そうな顔をしながら首を横に振った。


「確かにいい案だが、それはお役所の仕事だろ。そういう仕事はおサムライさん方に任せて、俺たちは宿に戻ろうぜ」


 つまるところ、面倒なのだろう。とはいえ、レクトの言うことも一理ある。そういった調査諸々は自分たちがやるべきではなく、地元の警察組織ともいえる侍たちに任せるのが一番だ。

 そんなわけで、怪我人の治療や後処理などは侍たちに任せてレクトたち一行は旅館へと戻ることにした。


 


 


 旅館に戻る道中でも、教団による襲撃の跡が見てとれた。怪我や火傷を負った人々、焦げ跡の残る壁や道、半壊した建物など多かれ少なかれ様々な被害があったようだ。

 そんな光景を目の当たりにしながら、ふとアイリスがレクトに尋ねた。


「そういえば先生。さっきは聞きそびれましたけど、あんな高所からどうやって無傷で着地したんですか?」


 それを聞いて、他のメンバーも皆思い出したようにレクトの顔を見る。確かに着地の瞬間自体はしっかりと見たが、常識的に考えればあれだけの高所から落下して無傷だという方がおかしい。


「え?せんせーだから無傷だったんじゃないの?」

「それじゃ説明になんないわよ」


 とぼけたようなニナの発言に、リリアがツッコミを入れる。

 一応、1ヶ月ほど前にカリダの魔法で数百メートルほどブッ飛ばされたレクトが、何事もなかったかのようにピンピンしていたのはS組メンバーも知っている。とはいえ、あの時は命に別状がなかっただけで身なり自体はボロボロになっていたので、やはり落下によるダメージは多少なりあったのだろう。

 ところが今回は違っていた。身なりが全くボロボロになっていないどころか、着地の瞬間だってメンバー全員が見ていた。着地の際に大きな音はしたが、とても上空から飛び降りたような衝撃であったとは言い難い。

 そんな疑問に対するレクトの答えは、皆が思っているよりも現実的であった。

 

「落下する途中でバルーンに掴まって減速したんだよ。ある程度まで速度が落ちれば、あとは普通に着地しても足に負担はかからないからな」

「それでも普通の人には無理ですって」


 ごく当たり前のようにレクトは語るが、当然のようにフィーネから指摘が入る。そうは言っても、レクトの行動自体が常識外れなのは今に始まったことではない。

 相変わらず無茶苦茶なレクトの行動力を、S組メンバーは改めて実感したのだった。


 


 


 幸いな事に、旅館はほぼ無傷であった。塀の一部に焼け跡などが残っているものの、建物自体には被害が出なかったのか完全な形を保っている。

 旅館へと戻ったレクトは、部屋で魔導船の上で何が起こったのかを生徒たちとサクラに説明することにした。


「ってなわけで、残念ながら奴らは取り逃がしちまった」


 自分としても敵を取り逃がしてしまったことが少し悔しいのだろうか、あぐらをかきながらも不満そうな様子でレクトは語っている。


「えー?逃げられちゃったのぉ?」

「こら!ニナ!」


 これまた率直に不満を漏らすニナを見て、すぐさまフィーネが注意をする。ところがあくまでも自分の責任だと思っているのか、珍しくレクトの方は特に反発する様子もない。


「いや、こればっかりは我ながら情けないわ。まさか向こうさんが空を飛ぶなんて思ってなかったからよ」


 右手で頭を押さえながら、レクトはため息交じりに呟いた。

 とはいえ、思い通りの展開にならなくて少し気落ちしているレクトの姿は、普段から傲慢とも言えるほどに自信満々の様子を見慣れているS組メンバーからすればある意味でとても新鮮に映っていた。


「でも、船の破壊を優先したのは正解だったのでは?それこそ、あのまま墜落していたら大惨事になっていたのは間違いないですし」

「そうですよ。一応、敵の目論見自体は阻止できたんですから」


 そんなレクトをフォローするように、エレナとアイリスが声をかける。だがアイリスの言葉を聞いた瞬間、レクトは何かを思い出したように急に声のトーンが変わった。


「そういえば、その点についてなんだがな、実は少し気になる事があるんだよ」

「「気になる事?」」


 レクトの様子が変わったのを見て、数名が疑問の声を上げる。レクトの言う気になる事とは、他でもないシラヌイの発したセリフであった。


「あぁ。奴は船の動力を切って脱出する時、“目的は達成した”とか言ってやがった」

「目的は達成した…?確かに変ですね」


 そんなレクトの言う“気になる事”にいち早く気付いたルーチェは、顎に手を当てて何かを考えている。しかし、皆が皆レクトの言いたいことを理解しているわけではなかった。


「それのどこがおかしいんだ?奴らは最初っから船を落とすつもりだったんじゃないのか?」


 論点がいまいちよくわかっていないのか、ベロニカは腕を組みながら難しそうな顔を浮かべている。そんなベロニカを見て、ルーチェが少し呆れた様子で冷静に指摘した。


「教団の目的はあくまでも姫巫女の筈でしょ。だったらなんで船を落として目的達成、ってことになるのよ」

「そりゃあ、船を落として全員潰れてしまえー、みたいな…」


 ベロニカは話を続けようとするが、そんな彼女の言葉を途中で遮るように今度はリリアが口を開いた。


「仮にターゲットが街の中にいたとしても、それが船の真下かどうかなんてわからないわよ。船を落としても落下地点にターゲットがいなければ、完全に無駄骨で終わるじゃないの」

「あっ、それもそうか…」


 自身の意見をすぐさまリリアに論破され、ベロニカは少ししゅんとなった。

 とはいえ、ルーチェとリリアの意見はもっともである。教団の狙いが姫巫女のサクラであるならば、船を落として目的が達成されるというのは明らかにおかしい。その点について、アイリスが言及する。


「もしかしたら今回の襲撃は、サクラさん以外にも他に何か目的があったのでしょうか?」


 もしサクラ以外にも別の目的があったのであれば、船を落とすのが目的だったとしてもある程度は辻褄が合う。しかし、肝心の目的自体はわからないままだ。


「今の段階で言えるのは無きにしもあらず、ってところだろう。取り逃がしちまった以上、確認する術がないからな」

「そうですね…」


 残念そうに語るレクトを見て、アイリスが小さな声を漏らす。レクトを責めるわけにもいかないが、結局のところ手詰まりになってしまっているのが現状だ。

 数秒の沈黙の後、唐突に扉の開かれる音が部屋に響いた。


「失礼します」


 少し困惑したような様子で部屋に入ってきたのは、若い女の従業員であった。従業員はレクトたちの顔を見渡しながら、おずおずと用件を述べる。


「あの…あんな事件の後で皆様お疲れでしょうが、夕食の方はどういたしましょうか?」


 従業員のその一言で、それまで張り詰めていた空気が少しほぐれた。


「そっか、そういえば夕食まだだったわね」


 壁にかかっている時計を見上げながら、リリアが言った。時刻はまもなく9時になるところだ。本来の予定通りであればとっくに夕食など済ませている時間帯であるが、先の事件のことで皆それどころではなかったのも事実だ。


「もちろん食べる!絶対食べる!」


 皆の意見を聞く前に、ニナが真っ先に答えた。それを見たS組メンバーは、いつもの事かとでも言わんばかりの呆れ顔をしている。

 とはいえ、空腹なのは皆同じであった。


「そうね。とりあえず今の私たちにできることは無いし、休める時にしっかり休んでおかないと後で苦労するかもしれないもの」


 エレナがもっともなことを言う。口には出さないがどうやら他のメンバーも同じ意見のようだ。

 皆の意見もまとまったところで、代表してフィーネがレクトに確認する。


「先生、とりあえず食事にするってことでいいでしょうか?」

「いいんじゃねえの。みんなも異論はねえだろ」


 レクトは即答すると、すっくと立ち上がる。そしてそのまま、今度は従業員の方へ顔を向けた。


「悪いが、今すぐに食べられるか?冷めてても構いやしねえからよ」


 皆の考えを汲み取ったのか、レクトが尋ねる。元々の夕食の時間からはかなり経過しているので、レクトの言うように料理が冷めてしまっているのも致し方ないだろう。

 しかし意外なことに、従業員まるで想定の範囲内だとでも言わんばかりに笑顔で答えた。


「それでしたらご安心ください。今夜の主菜は、お客様の前で温める料理ですので」

「客の前で?」


 従業員の言葉を聞いて、リリアが疑問の声を上げる。客の前で直接調理するなど、彼女たちにとってはあまり馴染みがなかったからだ。

 そんな小さな謎を残しながら、レクトたちは夕食の用意されている宴会場へと向かった。

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