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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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コミカライズ公開記念エピソード その3

TOブックス様の公式漫画サイトでスローライフ・オブ・ザ・デッドの第五話が公開されました。


エルを助けるために闘技場での戦いに参加するセンジュ。そこでドラゴンファングの頭であるリュウガと戦うが――という第五話です。ぜひ、見てください!

 

「マコト、こっちはほとんど終わったわ。後処理をしたら帰るから」


「お疲れ。ラファエルたちは今日、こっちに泊まるって……ミカエル、聞いてる?」


「こ、これで勝ったと思わないで……!」


「私と何の勝負をしているわけ? 三人は単に夜更かししたいだけだから勝ち負けなんかないよ。それじゃ気を付けて」


 マコトはそう言うとスマホの通話を切った。


 なんだか悔しいわ。確かにあの子達にはちょっと厳しいときもあるけど、それでも優しくしてきたつもりなのに姉よりも友達を取るなんて。夜更かし……やっぱり九時就寝は早いのかしら。いえ、なんかの本に寝る子は育つと書いてあった。子供の内はできるだけ眠ってもらった方が良いはず。たまになら夜更かしもいいけど。


 それに私はゲームと苦手だからマコトには勝てないわね。私としては車のゲームで三人が動きに合わせて身体を左右に振っているのを見るだけで満足なんだけど。ここはマコトに教えてもらうべきかしら……なにか、負けたような気がするけど、背に腹は代えられないわ。


 まあ、いいわ。明日は遊園地にでも連れて行って私に対する好感度を上げないと。それに今日もろくでもない奴らを消したからストレスが上限を振り切りそう。あれから一年経つけど、いつになったらスローライフを始められるのかしらね。誰もいない無人島で妹たちと一緒に農業でもやって暮らす……あと十年くらいは必要かしら?


 さて、仕事中に余計なことを考えていちゃいけないわ。このシェルターにいた奴らは始末したけど、後処理は終わったかしら?


「ミカエル姉様、残されているデータはどうしよう?」


 私よりも二歳年下の妹――カマエルがそんなことを言ってきた。ふと思ったんだけど、最近、サクラたちに影響されているのか、迷彩服を着ていることが多い。まあ、動きやすい服はいいわよね、私なんかあまり前に出るなって妹たちに言われてパンツルックのスーツを着せられているけど。


 あらいけない。そんなことを考えるよりも返事をしないと。


「全部消し去って。もう二度と私達みたいな姉妹を作り出せないようにしないと」


「うん。でも、ミカエル姉様、ここではクローンの実験以外もされていたけど、そのデータも消して大丈夫かな?」


「クローン以外? 一応聞くけど、どんな実験?」


「生物兵器を遺伝子操作で創り出す実験っぽい。良いところまで行ってたみたいだけど資金源が底をついたみたい」


「……もし実験で生まれた可哀想な子達がいるならとどめを刺してあげて」


「うん、分かった。それじゃ皆、聞いた通りデータは消去、それに可哀想な子がいたら天国へ送ってあげて」


 何人もいる妹たちはその言葉に頷くと、改めてこのシェルターの中を確認しにいった。最終的にここは爆破する予定ではあるけれど、それでも目での確認は必要よね。


 それにしても科学者ってのは……人類のために頑張ろうとしていた科学者もいるだろうけど、大抵は自分自身のためか、知的好奇心を満たすためだけにやっているわね。私達もお父様に――いえ、あの男の私利私欲のために作られた不完全な存在。この手で殺してやれたことだけは満足しているけど、いまだに怒りが収まらないわ。


 ああ、でも、あの時のことが動画にされて拡散されたことは良かったわね。一緒に踊りましょうなんて得意げに言って、私の黒歴史でもあるけれど、私達がクローンであの男の命令に従うしかなかったことも拡散されて、どちらかと言えば同情されている。今は見た目の良い子達もいるから別の意味で応援されている子もいるけど。というか、世界が終わりそうでも動画を見ている人間って強いわね。


 そういえばジュンが妹たちにアイドルをやらないとか声をかけていた。まんざらでもない子達がいることにちょっと驚きを隠せないけど、最近はそういうのも悪くないと思えてきた。アマゾネスの子達がそんな活動をしているけど、復興支援ということで色々なところに物資の支給を行っているからパンデミック前に戻ったみたいと喜んでくれているとか。


 いつか――いつか私達にもやることが無くなってスローライフを始めることができたなら、あの子達がやりたいことをやらせてあげたいわ。アイドルでもいいし、ハッカーでもいいし、サバイバルゲーマーでもいいけど、何らかの夢が出来たなら応援してあげないと。不完全な存在だとしても夢くらいあったっていいわよね。


 私の夢は――違う違う、私はそんな夢を見ない。大体、あのエルって子には勝てないような気がする。あの子、センジュ以外なら誰でも躊躇なくやれそうだし。ああいうサイコパスとは事を構えない。物理的に負けないと思うんだけど、なぜか勝てるイメージもないのよね、良くて相打ち。なんだか不思議な子。


 ……いやいや、だから違うんだって。私がセンジュとどうこうなんてないのよ。私の夢は妹たちが幸せになること。ただ、それだけ。そしてそのためにならどんなことでもする。私は姉として妹たちを守っていかなくちゃいけない。義務や責任じゃない、私がそうしてあげたいって思ってる。あの子達には幸せになってもらわないと――死んでしまった妹たちのためにも。


「ミカエル姉様、ちょっと困ったことがあるんだけど」


「え? あ、なに?」


 いけない、やることが無かったとはいえ、ぼんやりと考え事をしてしまったわ。このシェルター内の掃討は終わったとしても注意しなくちゃいけないことは多い。つまらないミスで命を落とすなんてもってのほか。天国で妹たちに失笑されちゃうわ。


「この子達なんだけど……」


「……子犬?」


 カマエルが両手で五匹の子犬が入った籠を大事そうに持っている。なんかふわふわな毛の白い子犬。眠っているのか、目を閉じたままだ。息はしているようでお腹が膨れたりしぼんだりしている。カマエルの後ろから妹たちが覗き込むように籠の中の子犬の方を見ているけど、この子犬たちがこのシェルターにいたのかしら?


「この子犬たちは何? このシェルターで飼われていたの?」


「実験に使われていた子達みたい……」


「……そう」


「親犬は実験中だったのか、ちょっと変異して死にかけていたけどこの子達を守ろうとして……ごめんなさい、助けられないと判断して……」


「謝る必要はないわ」


 死にかけていても親が子を守るなんてね。あの男はそんなことしなかった。そもそも娘だとも思っていなかっただろうけど。誰にだって事情があるから親子の関係なんてこれが正解なんてものはないだろうけど、すくなくともこの子犬たちは親に守られたわけね。


「ミ、ミカエル姉様! こ、この子達は――」


「かわいい子達ね」


「――え?」


「親犬に敬意を払いましょう。私達が親犬を殺してしまったのなら、この子たちの面倒は私達が見るのが当然よ。それとその親犬には立派な墓を作ってあげましょうね」


 妹たちから歓声が上がった。泣いて喜んでいる子もいるわね。私も嬉しい。生まれも育ちも最悪なのに、妹たちは本当に優しい気持ちを持って育ってくれた。時には冷酷になることも必要だろうけど、優しさは必要――言い方はあれだけど、エルみたいなサイコパスになられても困るし。


 たぶん、私は優しさを持っていたとしてもそれは妹たち限定。だからたぶん、私という個人に幸せは来ない。でも、それでいい。妹たちが幸せに暮らせて行けるなら、それが私の幸せなのだから。欲をいえば、海の音でも聞きながら、妹たちに囲まれて生をまっとうできるだけで充分――いえ、それが考え得る最高の幸せね。


 そのためにもまだまだやることは残っている。まだまだ遊んでいる暇はないわ


「さあ、ここでの仕事を終わらせるわよ。その後、ペットショップに寄って色々物色しましょう。それに名前を付けてあげないとね」


 妹たちが嬉々として作業に取り掛かった。


 この世界はまだまだやらなくてはいけないことが多い。でも、いつかは終わるはず。その日が来るまで頑張りましょう。だって、その後に私の幸せ――妹たちの幸せがあるんだから。



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