表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/93

黒幕の最後

2019.10.06 2話投稿(1/2)

 

 ホテルのような通路の奥にある扉を開けると、中はSF映画に出てくる研究所みたいな場所だった。


 大量に置かれている円柱のケースには薄い緑色の水が満たされており、中には形容しがたい生物が浮かんでいる。何かしらの動物だとは思うが、こんな動物は知らない。一体何をやっているのやら。


 そしてこの部屋には俺を見つめる大量の目がある。物陰に隠れているようだが、気配でバレバレだ。もしかするとミカエルの姉妹達かもしれない。


 今のところ襲って来る様子はないようだが、黒幕の命令があればすぐにでも襲って来るのだろう。ミカエルと同じように俺の命令を聞いてくれるだろうか。


 奥に目をやると革張りの豪華な椅子に座っている男がいた。


 上司と戦った部屋で殺した男と瓜二つだ。兄弟ってことじゃないだろう。あっちもクローンだったんだろうな。


 何も言わずに部屋を歩いて男のほうへ近づく。


 そして10メートルほど手前で立ち止まった。


「どうやって死にたいか決めたか? 出来るだけ要望には応えるぞ。面倒だったら銃で撃つが」


「素晴らしいよ、センジュ君。人間にしてはやる方だ。しかし、話を聞いてくれないのは良くないね。取引しようと持ち掛けたのに全く取り合ってくれないじゃないか」


 廊下での会話とは違ってずいぶんと余裕ぶっているが……虚勢だな、額の汗を隠しきれていない。


「魅力のある提案がなかっただけだ。それに取引したいなら信用が必要だぞ。残念ながらアンタは信用できない」


「まあ、そうだろうね。僕も取引に応じるとは思っていなかったよ。単に時間を稼ごうと思っていただけだからね。だが、必要なかったようだ。僕の娘たちが全員到着してくれたからね」


 装置の影から白い少女たちが現れる。


 ミカエルほどではないが、ラファエルちゃん達くらいの子から高校生くらいの子まで、総勢百人くらいか。全員が表情のない目でこちらを見ている。


 どうやらミカエルはいないようだ。ほかの子達のことは知らないが、ミカエルがいたら結構厳しいと思っていた。いないのはありがたいな。それともこの部屋に向かっているのだろうか。


「ミカエルはいないのか?」


「おや、ミカエルを知っているのかい? ああ、あの動画か。どうやらミカエルは反抗期でね、どうも僕の命令を聞かなくなってしまったんだよ。今は別の部屋で説教中さ」


「そうか。ラファエルちゃん達にちゃんと連れ帰るって言って来たから無事なら丁度いい。悪いが娘さんは貰っていくぞ。あと、ここにいる子達もできるだけ無事に保護する」


「……まさかとは思うが、君がミカエルに変なことを吹き込んだのか?」


「吹き込んだというよりは、自由にしていいと命令しただけだ。ミカエルはそもそもアンタを嫌いだったそうだぞ。ミカエルの姉妹達を何人も殺したそうじゃないか」


「まあ、そうだね。やったのはオリジナルのミカエルだが、その方法をやろうとしたのは僕が進言してあげたからかな」


 オリジナルのミカエルと言うのは、あの男の娘ってことだよな? だが、自分が進言したなんてことを悪びれることもなくこの場で言うなんて。ここにいるミカエルの妹たちがどう思うとか気にしなかったのだろうか。


 だが、予想に反して周囲の子達は何の感情も見せていないようだ。ミカエルと違ってそういう自我がないのか?


 ……いや、ヘリポートで話をしているのを聞いたときは普通にしていたはずだ。どこにでもいるような普通の子の会話。そんな印象を受けた。おそらくこの男に感情をなくすように命令されているのだろう。


「彼女たちが怒らないのが不思議かい?」


 男が笑顔でそんなことを言った。殺したいな。もう撃っちまおう。


 懐から銃を取り出して男の心臓と頭にそれぞれ二発ずつ撃ち込んだ……だが、その手前で弾が弾かれる。まさか防弾ガラスか?


「さっきもそうだったが、話の途中で撃つなんてひどいじゃないか」


 声が聞こえているから目の前には何もないと思っていたが、これもスピーカーによる声か? いや、ガラスの一部に小さな穴がたくさん開いているようだ。適合者になってから、耳が良くなりすぎて気づかなかった。


「空気が読めないんでね。すこしだけ余裕が戻ったのはそのガラスのおかげか」


「まあ、そうだね。さて、それじゃ僕はこの辺りでお暇するよ。シェルター内に爆弾をセットされたらここも危ないからね。別のシェルターへ逃げるつもりだ。残念ながら君はこの場で爆発に巻き込まれて死んでくれ」


「それは困るな。将来は畳の上で大往生って決めてるんだ」


「ハハハ、君は殺し屋だろう? さっき君が言ったんじゃないか。殺し屋が望んだ死を迎えられるわけがないとね。ここで爆発に巻き込まれて惨めに死んでいくのがお似合いだよ――いや、その前に娘たちに殺されるほうがいいかな。君が死ぬところを見ておかないと安心して寝れないからね。それにしても残念だ。君のような適合者なら研究も完成したんだがね」


 研究の完成? 不老不死の研究の事か?


「それじゃお前達、その男を殺せ。無残たらしく頼むよ」


 そう言うと女の子たちがゆらりと動き出した。


「君達は自由に生きろ。その男の命令は聞かなくていい」


 そう言うと、ミカエルの妹達は動きを止めた。そして目に力が戻ってくる。


「――馬鹿な! 何をしている! その男を殺せ! 僕の命令だぞ! お前たちは僕の命令に従っていればいいんだ!」


 その命令を聞く子はいない。全員が男のほうを見て睨んでいる。


 本心では男のことを憎んでいたようだ。特に年齢の高そうな子ほど、その怒り方がすさまじい。防弾ガラスに向かって手が傷つくほど殴っている。


 だが、そんなことじゃ壊せないだろう。それにここは危険だ。すぐに逃げてもらわないと。


「君達はすぐに逃げろ。外にラファエルちゃん達や俺の仲間がいる。保護してもらうといい。これは命令だよ」


 俺がそう言うと、みんなは俺が入って来た入口の方へ走り出した。


 だが、年齢の高そうな子達が少しだけ残った。


「ミ、ミカエル姉さんを助けてください!」


 残った子達が必死にお願いしている。生きているならそんなことは当然だ。


「もちろんだ。あの男を殺してミカエルを助け出すよ。だから君達はすぐに外へ」


 なぜか「きゃー!」という黄色い悲鳴があがった。何事?


「やっぱりこの人はミカエル姉さんのいい人なのよ! 命の危険を顧みず助けにきてくれたの!」


「やっばい! 王子! 王子過ぎる!」


「ミカエル姉さんに春が来たのね――妹として応援するしかない!」


 盛大な勘違いをしているようだが、今は時間が惜しいので特に指摘はしない。早く逃げろといって追い払った。ニヤニヤしながらこっちを見ているのがちょっとイラっとするけど、それは後だ。


 ガラス越しに向こう側にいた男はすでにいない。奥の扉から逃げたんだとは思うが、シェルターからどこへ逃げるというのだろうか。それにこちらには優秀なナビゲーターがいる。


「マコトちゃん、男の行先は分かる? 案内してほしいんだけど」


「了解。調べてすぐに案内するからちょっと待って……そうそうミカエルの閉じ込められていた部屋の鍵は開けておいたよ。会ったら逃げるように命令してあげて。一応スピーカーを通して爆弾のことは教えたから勝手に逃げるとは思うけど」


「分かったよ。あと、さっきミカエルの妹達を外へ逃げるように言ったから、外に出てきたら保護してあげて」


「それも了解。エルたちに言って保護してもらうよ。それじゃ黒幕を追おう。その部屋の奥の扉を開けて進んで」


「いや、それは無理なんだ。部屋の奥へは防弾ガラスがあってね、通れない――」


 そこまで言うと、一度だけ重い物が動くような音がした。見ると防弾ガラスがシャッターのように上に向かって開こうとしている。


「さすがだ、マコトちゃん」


「もっと褒めていいよ。もしくはアイスちょうだい……真面目な話だけど、男はこの先に緊急用のエレベーターに向かってるみたい。そこからショッピングモールの屋上に出れるからそこから逃げようとしているんじゃないかな?」


「屋上か」


 防弾ガラスが人が通れるほどの高さまでになったので、それをくぐり奥の扉まで移動した。


 扉を開けるとコンクリートが打ちっぱなしの通路になっている。微かにだが走っているような足音が奥の方から聞こえた。


 銃を懐にしまって走り出す。


「マコトちゃん、エレベーターを動かさないようにするって出来るかい?」


「渡した機械を近くまでもっていってくれればなんとかなるけど、今の状態じゃ無理かな……でも、エレベーターを止めなくても逃げられないと思うよ」


「どうして?」


「屋上に出て逃げる方法なんて一つしかないよね? でも、屋上にあったヘリはおやっさん達がすでに回収しちゃったよ」


 マジか。おやっさん、ヘリコプターとか操縦できるのか? でも、どうやって屋上に?


 ……いや、ジュンさんか。雨どいを伝って屋上まで行ってから縄のハシゴとかを下ろせばだれでも登れるだろう。


「それと周囲のゾンビ達はラファエル達が別の場所に移動させたよ。今は一人もいないね」


「頼りになるね。ならあの男はすでに詰んでるわけだ」


「そうだといいんだけどね。ただ、あの男って最後に何かやってたみたいなんだ。センジュが研究施設に到着する前の話だけど」


「何をやってたかは分からない?」


「残念だけど何かをやった後、情報を全部消されちゃったんだよね。削除した情報の復旧もしてるんだけどちょっと無理っぽいかな」


「そっか、分かった。なら注意するよ」


 この期に及んであの男は何をしたんだ?


 大丈夫だとは思うが気を付けないとな。


 エレベーターに向かって走っていると、スマホからメールを着信した音が聞こえた。


「爆弾の設置完了。1時間後にセット」


 上司からのメールだ。素っ気ないな。走りながらだけど返信するか。


「助かる。最後の最後で上司らしいことをしてくれたな」


 そう書いて送った。


 そのメールへの返信はないようだ。これ以上、語ることはないということだろう。


 10年近い縁だがこれで縁が切れたということか。悲しくも辛くもないが、少しだけ寂しく感じるな。気の迷いかもしれないが。


 さて、そんなことを考えている場合じゃない。とっとと追うか。


 エレベーターがある場所に到着する。現在の位置は屋上だ。どうやら男は屋上まで行ったみたいだな。念のためにマコトちゃんの機械を近くの壁に貼り付けてからエレベーターのボタンを押した。


 屋上からエレベーターが戻り、扉が開く。それに乗り込んでから屋上のボタンを押して扉を閉めた。


 地下の入口から入り、坂を下るように移動したとはいえそれほど地下じゃない。すぐに屋上に着いた。


 扉が開くと外のまぶしい光が目に入る。憎いくらいの快晴だ。


「くそ! 馬鹿な! なぜない! ヘリはどこにある!」


 男が怒りの形相でヘリを探しているようだ。余裕がなくなっているようだな。


「残念だな。ここにヘリはもうないぞ。俺の仲間がすでに回収済みだ」


 男が急に振り返り俺を確認すると顔をゆがませた。


「なぜここまで……! あの防弾ガラスは開かないはずだぞ!」


「仲間に凄腕のハッカーがいるんだよ。知ってるだろ?」


「クソが!」


 男は地面を思い切り蹴る。そして息を切らせていたが徐々に落ち着いたようだ。そしてこちらを見る。


「センジュ君、もう一度取引だ。さっき君は魅力のない提案だと言っていたが、よく考えてくれ。僕は君の望むものをあげられる。僕は優秀な科学者だ。時間さえあればどんな望みも叶えられるんだぞ?」


「へぇ、何でも?」


「そうだ! なんでもだ! もっと充実した施設があればどんな願いも思うがままだ。優秀な頭をもったゾンビに研究させることだってできる! 科学の発展を何百年も早めることだって可能なんだぞ!」


「なるほど。でも、俺の欲しい物なんて一つだけだ」


「それを言ってくれ! 絶対に叶えて見せる!」


「アンタの命」


「な、なんだと……」


「俺は殺し屋だ。殺し屋が欲しい物なんてターゲットの命だけだろ? まあ、殺し屋は一度辞めたけど、アンタのために現役復帰したんだ。アンタを殺したらまた引退するつもりだから、俺のために死んでくれ」


「き、貴様……!」


 銃を構えて撃とうとしたところで、背後でエレベーターが動く音が聞こえた。


 シェルターの中でエレベーターに乗れるのは二人だけ。一人は上司。だが、おそらく上司は来ない。このまま爆発に巻き込まれて死ぬつもりだと思う。ならこのエレベーターに乗っているのはもう一人だ。


 そうだな。俺が殺してもいいが、よりふさわしい人にやってもらうべきだろう。


「気が変わった。見逃してやるよ。さっきも言ったが、アンタのおかげで殺し屋の俺にも掛け替えのない人達に会えて、さらには人のための仕事も出来る。アンタは俺の人生を変えてくれた。感謝しているからな」


「な、なに……? 何を企んでる……!」


「ああ、ちょっと言い方を間違えた。言い直すよ――()()見逃してやるよ」


「俺は……? 何を言っている?」


 俺の背後でエレベーターが開いた。念のため来た人物を確認する。


 白い少女、ミカエルだ。


 ミカエルは俺と男を見て笑顔になる。男はそれとは反対に顔を引きつらせた。


「あら? どうやらパーティには間に合ったようね? もう終わってしまったかと思っていたわ」


「始まって結構経っているけどね。まあ、最後のダンスは残っているってところかな?」


 言ってて思った。ちょっと恥ずかしいことを言ってしまった気がする。黒歴史確定だ。


 だが、ミカエルは嬉しそうに笑った。受けたのかも。


「ありがとう、センジュ。こんなに素敵なパーティを開催してくれて。でも、最後のダンスは私に任せてくれるのよね?」


 それ、続くの? さすがにこれ以上はキツイんだけど。


「えっと、どうぞ。レディファースト的なあれで譲るよ」


 ミカエルはスカートの裾を少しだけつまんで俺にお辞儀をしてきた。


「ミ、ミカエル……!」


「ごきげんよう、お父様。この服はどうかしら? お父様が選んでくれたドレスよ?」


 続くね。ミカエルってこういうやり取りが好きなのか?


 ミカエルは笑顔で白いワンピースをこれ見よがしに見せている。クルっと回転したりして結構ノリノリだ。


「ま、待て、ミカエル! 僕は――!」


「でも、このドレス、白一色と言うのは少しセンスがないように思いません? 私はもっと華やかな色が好きなんです」


「何を言ってる……?」


「この服に少し赤い模様があればもっと素敵になると思います。お父様、手伝ってくださいますよね?」


「だから何を――何を言っている!」


「あら、頭のいいお父様がこんなことも分からないなんて。ちょっと考えれば分かることですのに」


 ミカエルはそう言うや否や男のほうへ走り出した。


 そして右の手刀で男の腹部を貫く。


「が、がはっ!」


 そしてミカエルはすぐに手を引き抜いた。結構な血が飛び散り、ミカエルのワンピースを赤く染める。


「ふふ、やっぱり白一色よりもこの方が素敵だわ。お父様もそう思うでしょ? あら? なんで倒れてしまうの? 踊りましょうよ、お父様? ああいえ、こういう時はこういうのよね、Shall We Dance? お父様」


 ノリノリだな。黒歴史にならないといいけど。


「ミ、ミカ……」


「……皆の仇よ、あの世でも皆に殺されるといいわ――そうそう、ゾンビや適合者になられても困るから、ちゃんと頭は潰しておくわ。どうせロクなことを考えない頭だもの、なくてもいいわよね?」


 ミカエルは俺のほうを見てそう言った。


 なくてもいいというのは、俺に聞いているのだろうか?


 確かにコイツの頭脳は役に立つからゾンビにしようかと思っていたけど、オリジナルがいるんだしそんなことはしなくてもいいか。それに適合者になったら困る。


「別に構わないよ。えっと、俺が銃で撃とうか?」


「ならそうしてもらえるかしら? 足で潰したら、靴が汚れちゃうし」


 服は汚れても靴が汚れるのは嫌か。なにかこだわりがあるのだろうか。まあいいや。まずは仕事だ。


 ミカエルのそばに倒れている男に近寄った。地面が血であふれ一目で助からないと分かる。


「必要以上に苦しめるつもりはない。じゃあな」


 そう言って銃を取り出し、頭に一発撃ち込んだ。男は一瞬何かを言いかけたが、何も言えずにそのまま動かなくなった。


 これで終わりだ。


 さて、爆弾のこともある。とっととこの場所を離れよう。


「マコトちゃん、黒幕は殺したよ。シェルターの中には誰もいないかな?」


「はい、おつかれー。シェルターの中には一人だけいるけど、これはセンジュの上司かな? それはいいんだよね」


「そうだね、そもそもゾンビになるわけだし、いても構わないよ」


「ならほかにはいないかな。もとからシェルターにいたゾンビ達もミカエルの妹たちが外に連れ出したみたいだし」


 そんなことをしていたのか。放っておいてもいいと思うが、もう助けたのなら別にいいや。


「了解、それじゃミカエルと一緒に帰るよ。それじゃミカエル――」


 ミカエルは膝を抱えて座り込んでいた。


「私はここに残るわ」


「ええと、なんで?」


「お父様の命令だとはいえ、私達はたくさんの人を殺した。それは許されることじゃない。誰かが罪を償わないと」


「それが自分だと?」


「ええ、だからお願い、私がすべての罪を背負って死ぬから、妹達だけは助けてあげて。みんないい子なのよ。みんなの罪が許されるなら私一つの命なんて安い物よ」


「ああそう。それじゃミカエル、一緒に帰るよ。みんなが待ってるからね。そうそう、これは命令ね」


「ちょ……!」


「ラファエルちゃん達にミカエルを連れて帰るって約束したんだよ。それに死んで許される罪なんてない。罪は罪。生きている限り償っていくもんだ――俺もそうするしね」


 殺し屋の俺が殺し屋を辞めたとしても今までの罪が許されるわけじゃない。だからこれからは出来るだけ人を救おう。まあ、たかが知れてるけど、何にもしないで死んでしまうよりははるかにマシだろう。


「はいはい、それじゃそっちにある雨どいから下に降りるよ。危険だから早くして」


 ミカエルに手を差し出すと、ミカエルはなぜか顔を背けてから手を差し出した。


「死のうとした私に生きるようにいったんだから責任を取ってもらうわよ?」


「何の責任か知らないけど、お手柔らかにね」


 俺とミカエルはショッピングモールの屋上から雨どいを伝って下に降りようとしたが、ヘリコプターが飛んできた。


 操縦席にはおやっさんがいるようだ。そして隣にはエルちゃんも乗っている。


 屋上スレスレでホバリングしているヘリコプターからエルちゃんが降りた。ヘリコプターの音と風で良く聞こえないが、ヘリに乗って逃げましょうと言っているようだ。


 その言葉に頷いてから急いでヘリに乗った。


「おう、ちゃんと掴まってろよ。落ちても知らねぇからな!」


 おやっさんがそう言うとヘリコプターが動き出す。


「時間にまだ余裕はあるよな? どうしてヘリで?」


 普通に雨どいを伝って下に降りてからも十分間に合うと思うんだが。


「なんか結構な威力の爆弾があるらしいぞ。出来るだけ遠くに離れたほうがいいってマコトが言ってたぜ?」


「そうなのか? 上司はミカエルが持ってきたとか言ってたが?」


「ものすごく奮発したわ。確実に殺すつもりだったから」


 ああそう。そんな危険なものを持っていったわけだ。


「それはいいんですけど、ちょっといいですか、センジュさん」


 エルちゃんがなぜか笑顔でこっちを見ている。ただ、その笑顔はすごく威圧的だ。


「えっと、もちろんいいけど……何かな?」


「どうしてさっきからミカエルと手を繋いでいるんですか? ヘリで迎えにいったときからずっと繋いでますよね?」


 おう。怒りの笑顔だった。


「これはミカエルが座っていたから手を貸しただけで――なんで離してくれないのかな?」


 ミカエルは笑顔で俺の手を握りしめた。ちょっと痛い。


「だって責任を取ってもらわないと。ねぇ?」


 何の責任? でも、それは後だ。まずはエルちゃんにいい訳をしないと。


「いや、違うんだよ、エルちゃん。ミカエルが死ぬなんて言うから死なないように命令しただけで――」


「なるほど、つまり私自らが殺せ、と」


「そんなこと一言も言ってないよね?」


「お前ら暴れんな。ヘリの操縦は久しぶりだから危ないんだよ」


 なんかシェルター以外でも爆発しそうなところがありそうだ。こっちは爆発しないように俺が何とかしないとな。




 ショッピングモールからかなり離れた場所に皆が集まった。


 みんなも、ミカエルの妹達も、ゾンビ達もいる。


 みんながショッピングモールの方を見ていると直後に爆発が起きた。地下で爆発したのに爆風がここまで来るとは驚きだ。よほど奮発した爆弾だったのだろう。どうやって持ってきたのかは分からないが。


 とりあえずこれで黒幕は死んだし、大きな問題は片付いた。


 これからは復興作業がメインになるだろう。


 いや、その前にワクチンとかが必要か。じいさんや黒幕のオリジナルに頑張ってもらわないといけないかな。


 やることはたくさんある。でも、今日くらいはゆっくりしたい。


「それじゃみんな帰ろうか。今日はもうゆっくり休んで何かやるにしても明日からにしよう」


 俺がそう言うとみんなが同意してくれた。


 ……しかしずいぶんと大所帯になったな。食料足りるかな……?


「えっと、ごめん、やっぱり帰る最中に食べ物探してもらえるかな。食料が足りないかも」


 ちょっとブーイングが出たけどみんなは従ってくれるみたいだ。


 さて、それじゃ食べ物を探しながら帰るとするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ