色々な事実
2019.09.15 3話投稿(1/3)
あれから一時間くらい経っただろうか。
黒幕のクローンがいた部屋を色々と調査したのだがようやく一通り調べ終わった。皆で調べた限りでは色々と裏付けになる資料が出てきたようだ。
まず、黒幕のいるシェルター。これは間違いなくあのショッピングモールだ。というか、あの施設の出資者がブラックホーネットになっていた。
ショッピングモールが出来たのは10年くらい前だ。だが、今回のために用意していたのではなく、結構昔から避難用のシェルターを各地に準備していて、その一つを使ったにすぎないらしい。
正直なところ、殺し屋の派遣会社が身を守るためのシェルターを作るってどういうことなんだろう? やるかやられるかの世界なんだから、そんなダサい真似はしてほしくなかった。
大体、殺し屋は毎日まともに寝れないくらいに同業者から襲われるのに、幹部達は安全な場所で寝れるところを作っておくなんておかしいだろうが。
お金に振り込みやターゲットの情報精度に関しては助かっていたけど、なんだかモヤっとするな。
それはもういいとして、ウィルスやワクチンについて。
残念ながらワクチンはない。製法もなかった。ただ、ウィルスに関しては結構な情報があったらしい。ゾンビになったじいさんに聞いてみたが、これがあればワクチンを作る手掛かりになりそう、ということだ。
それに黒幕のクローンにも聞いてみたが、自身もワクチンを作る予定だったとか。だが、ミカエル達に裏切られて作る前にゾンビになってしまったらしい。
その裏切ったラファエルちゃん達が目の前にいるが、怒ってはいても何もできないそうだ。そもそもゾンビ達は適合者を襲えない。そしてラファエルちゃん達は適合者だ。ゾンビに意志があろうとも命令されない限りは襲えないらしい。
そして色々分かったこと。
まずミカエル達は黒幕の娘のクローンだそうだ。名前はそのままミカエル。クローン達とは違って黒髪らしい。そしてもうこの世にはいない。
そのミカエルは不老不死の研究をしていたらしい。そしてその研究を完成させるには、致死のウィルスに侵されながらも意志を保てる人間、つまり適合者が必要だった。
その適合者を作るために自らのクローンにウィルスを注入したらしい。それで適合者になれたのが今の白い髪をしたミカエル達だ。だが、クローンの適合者では研究が上手くいかなかったとのこと。
むしろ不老不死どころか、クローンの適合者を使って自分自身に実験をしたオリジナルのミカエルはあっという間に死んでしまったそうだ。
危険なのは分かっていたのにそれでも自分自身で実験をしたのは、一番最初の不老不死になりたかったんじゃないか、と黒幕のクローンは思っているらしい。
誰かで実験してそいつが不老不死になったら嫌だ、ということだろうな。こういうことを考えられる天才って後先考えないよね。自分の理論に絶対の自信があるんだろうな。
聞けたのはこれくらいだ。
ここに来たのは結構よかったのかもしれない。色々な情報を得られたし、予想通り黒幕のクローンもいたからショッピングモールのシェルターにも入れるだろう。今日は無理だから早速明日にでも行ってみるか。
問題はどうやってバレずにつれていくかだな。たぶん監視カメラがあるだろうし、俺一人ならともかく、二人で地下に近づくのは難しいかもしれない。
この辺りはマンションに帰ってから考えるか。
「さて、みんなそろそろ帰ろうか? もうすることはないよね?」
マコトちゃんは何かいいパソコンを見つけたみたいでホクホク顔をしているし、ラファエルちゃん達はカメラを使って遊ぶのが飽きたみたいだ。もう帰っても問題ないと思う。
あれ? ジュンさんが随分と難しい顔をしているな? 黒幕のクローンを見ているようだが……?
「ジュンさん、何か気になることでも?」
「この人、クローンなのよね?」
「ええ、そのはずです。ミカエルがそんなことを言ってました。あの動画は殺し屋を欺くため、お父様の代わりにクローンを殺したのだとか」
ジュンさんはそれを聞くとまた考え込んでしまった。
「どうかしました? なにか問題でも?」
「……ちょっと気になるんだけど、この人、肌が汚くない?」
「なんでいきなり肌の話を? アマノガワとかと比べたら誰だって汚いですよ。大体、歳を取ればこんなもんじゃ?」
「なんでそこで僕を引き合いに出すんですか! まあ、とくに化粧水とかは使いませんけど、なぜか肌はツヤツヤですね」
「それはそれで驚きだけど、そういう話じゃなくて、この人はクローンなんでしょ? 肌の傷とか汚れまで再現できるものかしら? 詳しくは知らないけど、そういうのもクローンで再現されるわけ?」
どうなんだろうか? クローンのことをよく知らない。でも、なんでそんなことをジュンさんは気にするのだろうか?
……いや、この男は黒幕のクローンじゃないと言っているのか?
「ジュンさんはこの男が黒幕のクローンじゃないと? つまり、シェルターの中には入れない?」
「クローンじゃないとは思っているけど、ちょっとだけニュアンスが違うわね。この人がオリジナルなんじゃない? シェルターの中にいるのがクローンなのかも」
「この男がオリジナル……? つまり、シェルターにいるのがクローンで、ミカエルはクローンに従ってオリジナルを殺したと?」
「可能性の話だし、だから何だって話だけどね。ただ、警察署にあったというZパンデミックの計画からずいぶんと変わっているみたいだし、クローンのほうがオリジナルの計画を乗っ取ったかもしれないって思っただけ」
これはちゃんと確認しておかないといけない事だろう。オリジナルかクローンなのかはどうでもいい。ただ、コイツが全く関係ない奴なら、シェルターの指紋認証で入れない可能性もある。
黒幕のクローン……と思われる初老の男を見た。
「お前はクローンか?」
男はスマホで文字を打ち込む。内容は「違う」だった。
「なら、お前にクローンはいるか?」
また男がスマホへ文字お打ち込んだ。答えは「いる」だ。
ラファエルちゃん達の話だと、記憶の埋め込みという技術があるらしい。この男がそういう記憶を埋め込まれたという可能性もあるが、確かにこの男はクローンにしては年を取り過ぎているような気がする。
それにお父様とやらは20代半ばくらいの容姿だという。成長促進の技術もあるらしいが、オリジナルより年齢を上にする必要はないはずだ。
殺し屋を欺くためなら同じくらいの年齢にするはずだし、色々とおかしいのは間違いないな。
それにもう一つ気になることがある。大体、うちの会社が黒幕に協力をしているのならなぜターゲットになっているのだろう? それすらも殺し屋たちを欺くためのものなのか?
そんなことを考えていたら、アマノガワが男をスマホで撮った。
「どうしたんだ?」
「念のためにターゲットの登録情報を確認しようと思いまして」
なるほど。それはするべきだったな。
アマノガワがスマホをいじっていると、ちょっと驚いた感じの顔になった。
「このターゲット、生きていることになってますね。任務遂行中の状態ですよ」
つまり、まだ死んではいないということだ。
会社のターゲット情報はあらゆる機関にハッキングした情報と言われている。成りすましと言う可能性もあるが、本人が生きている証拠があるとターゲットは死んだことにはならない。
おそらく動画で死んだことは確認されたが、それ以降に生きている証拠のようなものが見つかったのだろう。
「特記事項が書かれていますね。最近の更新みたいです」
「読んでみてくれないか?」
「はい、えーと、ショッピングモール『パンゲア』の地下シェルターにて生存を確認。シェルターに入るための指紋認証システムに担当者を登録した。担当者は即座に急行して対処すること」
うちの会社ってすごいな。世界がこんなになっていても仕事をさせるという意味で。本当の意味でもブラックだよ。
こういう情報をどうやってハッキングしているんだろうか。それに指紋認証に担当者を登録って……ああ、ショッピングモールのシェルターは会社の施設だったんだっけ。
でも、担当者って誰だ……?
「担当者って誰になってるんだ?」
「えーと、ちょっと待ってくださいね……ああ、この人か。この人が仕事を受けるって珍しいですね」
「どういうことだ?」
「ランキングトップの人ですよ。『殺し屋殺し』。センジュさんも似たようなものですが、この人、最近はあまり仕事を受けないですよね? 襲って来る殺し屋だけを殺す専門とか聞いた事がありますけど」
……俺の上司かよ。ほっといても黒幕って死ぬんじゃないか?
いや、でも、上司からの返信メールがないし、もしかして死んでんのかな? 殺しても死なない人だと思っていたんだが。
「へぇ、この人ってこんな名前なんですか。初めて知りましたよ」
名前? そういえば、いつも上司とか師匠としか言ってないから名前を知らないな。特に困らなかったし、興味もなかったから聞いたこともない。どうでもいいけど確認しておくか。
「なんて名前なんだ?」
「紫神炎。紫の神に炎とかいてシガミエンですね」
「あまり聞かない苗字だな」
紫神って苗字なのか。10年くらい世話になってるけど、初めて知ったよ……あれ? 紫神? どこかで……?
……?
…………?
………………!?
それって、エルちゃんの苗字じゃないか……? どういうことだ?




