世界征服
2019.09.08 3話投稿(2/3)
マンションに戻ってからまた屋上で皆と情報を共有した。
状況から考えてあのショッピングモールが黒幕のいるシェルターと言うことだ。おそらくだけど、ショッピングモールは隠れ蓑で地下にシェルターがあるのだろう。
それにラファエルちゃん達に確認すると、場所や名前は知らないけど、たくさんのお店がある建物、という回答を得られた。それにマコトちゃんがネットでショッピングモール内部の写真を見せたら、ここで間違いないと言っていた。
これであそこにいることが確定したわけだ。
そこまではいい。知っておくことは重要だ。
ただ、問題はそれを知った俺達はどうするべきか、と言うことだ。
ミカエルが帰ってこないところを見ると、お父様とやらを殺すことに失敗した可能性が高い。死んでしまった可能性もあるだろう。ラファエルちゃん達の手前、そんなことは言えないが。でも生きているなら助けてやりたい。
それにこんなことをした黒幕に落とし前を付けさせてたいと言う気持ちはある。どうしてもやりたいってわけじゃないが、このパンデミック以上のことをする可能性はあるのだから、今のうちに殺しておくべきだろう。
……うん、俺の気持ちは決まったな。
「みんな聞いて欲しい。俺はあのショッピングモールへ乗り込んで黒幕を殺すつもりだ。なにか反対意見とかはあるかな?」
……とくに反対意見はないようだ。
皆もいい感じにサイコパスだね。人を殺すって言ってるのに誰も止めなかった。まあ、こんな状況だし、相手が相手だ。反対する理由もないだろう。
「分かった。なら明日、もう一度ショッピングモールへ行ってくる。そして黒幕を殺してくるから。中にいる生存者は殺さないけど、攻撃されたら殺すかな……」
「中にはお父様以外の生存者はいないよ。あ、でも、お姉ちゃん達が帰って来てるんだっけ? お姉ちゃん達は殺さないで」
ラファエルちゃんがそんなことを言い出した。ちょっと衝撃的な発言なんだけど?
「お父様、つまり黒幕以外の生存者がいない? それは本当の話?」
「うん、お父様が皆ゾンビにしちゃった。みんな馬鹿だから不要なんだって。料理が得意な人もいたし、私はそんなことないと思うんだけど、お父様はそう言ってシェルター内の人を皆ゾンビにしちゃったよ?」
訳が分からなくなってきた。
お父様とやらはZパンデミックの計画者なのでは? シェルター内に優秀な人を集めて、世界がゾンビだけになったら再建を行う感じの計画だったはずなのに、シェルター内の人間もゾンビにしたら意味がないだろう。
……レンカを助けずに着信拒否にしたのもそういう理由なのか? 警察署でも見捨てられた人がいた。それはシェルターの中にいる生存者も同じで、最初から助ける気はなかった? この計画は黒幕だけが生き残る計画なのか?
だが、一人生き残って何をしたいのだろう?
この考えが正しければ、黒幕は最終的にたった一人の人間になるわけだ……いや、ミカエルちゃん達がいるのか。それともミカエルちゃん達も最終的には殺してしまう計画なのだろうか?
「あの、センジュさん、どうされました? さっきから黙ってますけど?」
「ああ、いや、ちょっとね。黒幕の考えがよく分からないんだよ」
とりあえず皆に俺の考えを説明した。何をしたいのか分からないけど、自分一人だけ生き残る計画なのかもしれないという旨の話だ。
その話をしたら、みんな考え込んでしまった。
そんな時でも明るいのがサクラちゃんだ。勢いよく手をあげてニコニコしてる。
「わかりました! その黒幕は世界征服したいんですよ!」
「お姉ちゃんは黙って」
「まあ、モミジも聞いてよ。その黒幕ってゾンビに命令できるんでしょ? 皆がゾンビになったらその黒幕に従うしかないんだから世界を征服していると言ってもいいんじゃないかな!」
「ゾンビだらけの世界を征服してどうするの。結局その人だって寿命で死んじゃうんだよ? そうしたら何も残らないじゃない。人間と言う種が終わっちゃうよ」
「たぶん、世界を征服することに意義があるんだよ。自分が死んだ後のことなんかどうでもいいんじゃないの?」
世界征服ねぇ。そんなことを考えるような人間なのだろうか?
それによく考えたらゾンビだらけというのはちょっと違うのかもしれない。ミカエルちゃん達のようなクローンを作れるような技術者でもあるわけだし、DNAさえあればいくらでも人間を作れるということなのかも。
詳しくは知らないが、ゾンビからだってDNAは採取できるだろう。それに洗脳的な技術も持っているだろう。自分の都合のいい人間を作ることはたやすいはずだ。
そう考えると、サクラちゃんの考えも間違ってはいないのかもしれないな。
気になるのは適合者を探している理由か。生きている適合者が黒幕の進化のために必要らしいがそもそも進化って何を指しているんだろう?
――いや、そうだな。そんなことはどうでもいいか。いいことを思いついた。
「俺から話を振ったけど、よく考えたらどうでもいいことだったよ」
皆が俺を見つめる。どういう意味か分からなかったんだろう。
「さっき、黒幕を殺すって言ったけど、ちょっと変えるよ。黒幕はゾンビにする。その方が色々と有用そうだ。ゾンビ化の知識なんかはワクチンを作るために必要だろうからね。それにこんなことをしでかした理由なんかもゾンビにして説明させればいい」
この答えで皆は納得してくれたようだ。
これで大体の方針は決まったな。
ショッピングセンターへ行って黒幕をゾンビ化させる。そしてミカエルを救う。ラファエルちゃん達の姉が邪魔してくるだろうけど、たぶん俺の命令を聞いてくれるだろう。ミカエルと同じように自由に生きろと言えばいいはずだ。
あとは出来るだけ準備をしておくか。
色々と曖昧だけどラファエルちゃん達にあそこがどういう場所なのか聞いておこうかな。
「ラファエルちゃん達はあの中へ入ったことがあるんだよね? どこがシェルターなのかな? やっぱり地下?」
「そうだよ。地下へ行く道があってね、その奥に大きな扉があるんだ。そこに指紋認証とか言うのがあって手をかざすと開くようになってるの」
「指紋認証……?」
「指紋登録している人なら入れるよ。ミカエル姉ちゃんが登録したから、それで皆の指紋も登録されたんだって」
ミカエルが登録したから皆の指紋も登録された……?
ああ、そういうことか。詳しくは知らないが、クローンだから同じ指紋なのだろう。でも、手の大きさが違っても大丈夫なのだろうか?
それに入るためにはラファエルちゃん達が必要ってことか? それはちょっと危険な気がするな。
マコトちゃんを連れて行けば、ハッキング出来るだろうけど、ラファエルちゃん達と同じ理由で連れてはいけない。それにセキュリティが厳しいから確実にハッキング出来るとい訳でもないのだろう。
なら、なにか別の指紋が必要か。
おそらくレンカも指紋登録はしているだろうが墓を掘り返すような真似はしたくないな。アイツはあそこでゆっくりさせてやりたい。
となるとほかには――ピースメーカーにいたあの秘書か?
いや、ダメだ。あの秘書はシェルターに入れる資格がないとか言っていた。おそらく指紋登録はしていないだろう。
くそ、どうする?
「センジュさん、さっきから定期的に黙りこみますけど、どうかしましたか? もしかして指紋認証のことを気にされてます?」
エルちゃんが俺を覗き込んでいる。いかんいかん。なんでも一人でやろうとするのは悪い癖だな。今はこんなに頼りがいがある皆がいるのに。
「うん、そうなんだ。ラファエルちゃん達やマコトちゃんを連れて行くのは危険すぎると思ってね。何か代案がないか考えていたんだ。皆も何か意見はないかな?」
レンカや秘書の話は出たが、考えていた理由を説明した。その後も皆は色々考えてくれているようだ。
「おそらくだけど登録されている人を知っているわ。と言うよりも登録されていないとおかしいって人ね」
ジュンさんがそんなことを言い出した。
誰のことだろう?
「それは誰です?」
「もちろん黒幕本人よ。自分がシェルターに入れないなんてことになったら大変でしょ?」
「それはそうですけど、その黒幕がシェルターの中にいる訳でして――いや、そうか」
ジュンさんがニヤリと笑った。俺が気づいてくれると思ったんだろう。だからあえて答えは言わなかった。ちょっとだけ面倒な人だなと思ってしまった。最初から答えを言って欲しい。
「えっと、どういう意味です?」
エルちゃん、というか、皆は気づいていないようだ。まあ、一昨日に情報共有しただけだし、特に大事な事じゃないと思ったんだろう。
「黒幕のクローンがいる。ミカエル達の出ている動画があるだろう? あれは黒幕のクローンらしい。ならばソイツを連れて行けばシェルターの中に入れるってわけだよ」
どうやらシェルターへ行く前に動画の撮影場所に行く必要があるようだな。




