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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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お隣さん

 

 エルちゃんと二人で部屋をでた。これからマンション内の探索だ。


 マンションにはゾンビがいる可能性があるし、もしかしたら生存者がいるかもしれない。正直なところを言うと、ゾンビも生存者もいないで欲しい。ゾンビ映画だと生存者同士が問題を起こしてバッドエンドになることが多い。むしろゾンビよりも生存者のほうが危険ということだ。


 まず、このマンションの構造を考えよう。このマンションは11階、1階につき4部屋の構造だ。1階はエントランスになっているから部屋は2階から。4×10で40部屋あるわけだ。上から一つ一つ調べて行こう。


 まずは隣。そういえば隣の人とは数回挨拶をしただけだな。男性だった気がする。俺が先に住んでいて、引っ越してきたときに引っ越しそばを貰ったっけ。家にお鍋すらないからゆでられないし、上司にあげてしまったけど。


「センジュさん、お隣さんはどんな人なんですか?」


「いや、交流はないから全然知らないね。20代前半くらいの男性かな。真面目そうな人だったと思うよ」


「男性ですか。もし私が住むなら女性の部屋のほうがいいんですけどね。あ、女性の部屋で着替えとか貰ってもいいですよね?」


「部屋を奪おうとしてるんだから、何を貰ってもいいんじゃない?」


 俺も冷蔵庫があったら貰おうかな。


「おお、なんだか楽しみですね。レッツ略奪ですよ!」


 俺の中でエルちゃんのサイコパス指数が上がった。


 それはともかくとして、まずは普通にドアを開けてみよう。鍵をかけずに避難所へ行った状態なら開いている可能性はある。それに避難所まで行ったのなら帰ってくることもないだろう。パンデミックが収束しない限り、戻るとは思えない。


 扉を開けようとしたが、開かなかった。残念、鍵がかかっている。


「開いていないみたいですね」


「そうだね。でも、このマンションにはまだまだ部屋がある。ひとつくらいは鍵の開いた部屋もあるだろうから、頑張って探そう」


「そうですね、大きなマンションですから1部屋くらい開いてますよね」


 あと38部屋はあるから、どこかは開いているだろう。




 30分ほど経ってすべての部屋を確認した。


 どこも開いてない。戸締りが完璧だ。ゴミ出しをするときに鍵をかけないとか、そういうズボラさはないのだろうか。俺は良くやるんだけど。


「どこも開いてませんね。このままだと、私、センジュさんの部屋に――」


「その時は俺がマンションの廊下で寝るから安心していいよ。あまり同じ部屋にいないほうがいいだろうからね。もう春先だし、毛布でもあれば十分だから」


 段ボールがあれば最高なんだけどな。あれと新聞紙はあったかい。ビルの屋上から狙撃するときはよくあれにくるまってる。


「そうですか……分かりました。その時はお礼にポップコーンを渡しますね。カレー味ですよ。おすすめです」


「……ありがとう」


 別に一緒の部屋でもいいですよ、とか言って欲しかったんだけど、そういうのはないようだ。まあ、俺のほうから、あまり近寄るなって言ったし、仕方ないな。それにカレー味のポップコーンは食べたい。


「ちなみにですけど、このマンションに管理人室みたいのがあって、そこにマスターキーがあったりしませんか?」


「たとえあったとしても、どの部屋も鍵がかかっていたからね、結局マスターキーを手に入れられないよ。それにもしあるとすれば、不動産屋さんじゃないかな?」


「このマンションの契約はどこの不動産屋でやったんですか? そこまでいけば、鍵があるかもしれないんですよね?」


「隣の駅に行かないとダメだね。歩いても行けない距離じゃないけど、ゾンビがうろついているからそこまで行くのは難しいかも」


 全然ゾンビを見てないけど、いるところにはいるんだろう。コンビニまでは500mくらいだけど、隣の駅までは5kmくらいあると思うから絶対に会うと思う。


「でも、センジュさんはもうゾンビにならないですよね? ゾンビがいてもガンガン行けますよ!」


「ゾンビにならなくても噛まれたくないからね?」


 俺の中でエルちゃんのサイコパス指数がどんどん上がっていくんだけど、演技だと思いたい。


 仕方ないな。あまりやりたくないけど、別の方法で部屋に入るか。


「通路側のドアから入るのは無理そうだから、ベランダ側の窓から入ろう。そうすれば、中へ入れる。窓を割るしかないけど、シャッター型の雨戸は閉まるから、雨風はしのげると思うよ」


「ベランダ側の窓から? 隣の部屋のベランダへ飛び移るとかそういうことですか? それは危ないんじゃ?」


「いやいや、このマンションはベランダがその階で共有なんだよ。お隣さんとは薄い板で仕切られているだけでね、力を込めて押せば板はすぐ壊れて、隣へ行けるんだ」


 このマンションは防災のためにベランダから隣へ行けるようになっている。


 俺の部屋の前にあるベランダには下の階へ行くための避難ハッチがある。普段、避難ハッチは閉じているが、開けると下の階までハシゴが伸びる仕組みだ。以前、マンションの管理会社の人が点検に来てたから間違いない。


 おそらく11階で避難用のハシゴがあるのは俺の部屋のベランダだけなのだろう。だからベランダを通って来れるようになってるんだと思う。今回はその薄い板を壊して隣の部屋へ行くわけだ。


 それに避難ハッチを使えば、下の階へも行ける。今日は無理だけど、明日、それで全部の部屋へ行ってみよう。


「そうなんですか。ハイテクですね!」


「どこにもハイテクな要素はないよ。まあ、そういうことだから、まずは部屋に戻ろう」


 エルちゃんと一緒に一度部屋に戻り、ベランダに出る。


 ベランダは狭く、1mの幅もない感じだ。人が一人通れる程度。なにかあったらまずいのでエルちゃんは部屋で待っていてもらおう。


「それじゃ、隣の部屋に行ってみるから、エルちゃんは部屋で待ってて」


「私も行きますよ? 連れて行かないのはあれですか? お宝を独り占めみたいな?」


「いやいや、ベランダが狭いからね、エルちゃんが後ろにいると、いざという時に逃げられないからだよ。どちらかといえば、俺の安全確保が理由かな」


「ああ、そういうことでしたか。なら部屋で待ってます。部屋に入れたら声をかけてくださいね」


「うん、よろしくね」


 逃げ道確保は間違ってないけど、いざというときは殺しの技を使うからだ。もしかしたら部屋の中にゾンビがいるかもしれないし、生存者がいるかもしれない。相手の出方しだいだけど、いざとなったら躊躇なく殺さないと。でも、そんな姿をエルちゃんに見られたくない。


 さて、さっそく隣へ行くか。


 ベランダにある防災時に突き破っていい薄い板。


 軽く押してみると、本当に脆そうだ。さらに力を入れると、バキっと音がして穴が開いてしまった。もうちょっと通りやすくしてほしい。脆いけど壊すのに時間がかかるな。災害時にこれじゃまずいような気がする。


 力をいれて丁寧に板を壊していくと、ようやく通れるようになった。破片がベランダに散らばっているが、問題はないだろう。


 隣の部屋は雨戸になっていないようだ。そういえば、雨戸って外から開けられたっけ? 普段使わないから分からない。雨戸が閉まっていたら入れなかったのかも。さすが、俺は運がいい。


 テラス窓から中を覗いてみる。


 ……人がいる。いや、あれはゾンビか?


 後ろ姿なので何とも言えないが、立ったままゆらゆらしていてゾンビっぽい。着ているのは白いシャツとスーツの黒いズボンだけか。スーツの上着はベッドに脱ぎ捨てられているようだ。


 でも、なんで鍵のかかった密室でゾンビに? まさかとは思うが、俺と同じように外で噛まれて部屋に戻り、そのままゾンビになった? よく見ると、右腕のシャツがちょっと赤いから、その可能性は高いな。


 さて、どうしたものか。たぶん、脳を破壊すればやれると思う。ネットの情報にもそんなことが書かれていた。問題はどうやるか、だ。


 エルちゃんはバットを貸してくれないだろうし、クローゼットから銃を取ってくるのはエルちゃんに見られるから論外。そもそも、この間の仕事で酷い使い方をしたから暴発する危険性があるし使えないだろう。となると接近戦か。


 素手でやるのはどう考えても無理だな。首を折ったとしても脳が無事なら意味がなさそうだし、ナイフとかは持ってない。となると、突き落とす、かな。ここから突き落とせば間違いなくゾンビは助からない。いや、すでに死んでるけど。


 でもなぁ、ゾンビとはいえ、元は普通の人だ。殺し屋にだってルールはある。ターゲット以外は殺さないとか、殺す相手には敬意を払えとか。突き落とすという殺し方は可哀想な気がする。


 そんなことを考えていたら、お隣さんがこちらへ振り向いた。


 ゾンビを間近で見るのは初めてだ。目がうつろで口は開きっぱなし、こちらを捕まえようとしているのか両手を伸ばして近寄ってくる。歩くというよりは足を引きずっている感じだ。最近流行の走るゾンビではないようだな。


 近寄ってきたお隣さんはテラス窓にべったりとくっついて、ゴン、ゴンと頭を打ち付けている。俺を噛もうとしているのだろうか。


 あれ? でも、この人……?


 スマホを取り出して、写真を撮った。その顔写真を会社のデータベースへ送り、問い合わせる。


 検索結果を待つこと数秒、ピコンと音が鳴った。


 結果は黒。つまり――コイツも殺し屋だ。


 よし、突き落とそう。


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