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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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皆のやさしさ

2019.09.01 3話投稿(1/3)

 

 マンションに戻った日の翌日、マンションの屋上へやってきた。


 もともと住人が屋上へ出れるようにはなっていなかったが、皆が菜園用の畑を屋上に作ったから簡単に来れるようになっている。畑を見ると、草が生えているようだが食べ物なのか雑草なのかは分からない。


 こんな知識でよくもまあ、田舎でスローライフをしようと思ったもんだ。


 すこし苦笑してから町を眺めた。


 以前と比べたらずいぶんと落ち着いた感じになった気がする。前はどこかで火の手が上がったり、急に爆発したりするようなこともあったが、今は概ね静かになった。


 それは人が減ったからではなくて、ゾンビが人を襲わなくなったからだろう。


 この町にいるゾンビは人を襲わず、逆に人を襲うゾンビを押さえつける。そして色々な場所から食べ物を運んだり、畑で作ったりしているから、町の住人も必要以上に怖がらなくなったんだと思う。


 詳しくは知らないがネットで噂を聞いた人達がこの町へ集まってきているとの話があるらしい。しかもなぜかゾンビもこの町を目指しているんじゃないかと言う話もあるみたいだ。


 ゾンビ達に色々なことを命令して従わせているのはどうかと思うが、生きている人のほうが優先だ。Zパンデミックの計画にあったようなことをしている気はするが、生きるために仕方のないことだと割り切った。


 でも、割り切れないこともある。


 帰って来てからじいさんがゾンビになったことを皆に謝った。


 じいさんが死んだことを謝ったんじゃない。俺が提案してゾンビにしたことを謝った。


 じいさんはあのまま幸せな死を迎えられたはず。それを俺が無理やりさせなかった。じいさんの了承は得たと言っても、あれはじいさんが俺のためにそう言ってくれただけの気がする。


 手のかかる孫、つまり俺のためにゾンビになることを選んでくれたんだろう。俺のことが心残りだっただけかもしれないけど。


 そんなことを考えながら深呼吸をしたところで、背後で物音が聞こえた。


「センジュさん、こちらにいらしたんですか」


「エルちゃん、どうかしたのかな? なにか問題?」


「そういう訳じゃないんですけど……色々気にされているのかなって」


 なかなか鋭い。


 じいさんには思考力がある。生きているとは言えないが、生前と同じように考えて行動してくれているのではないかと思ってる。でも、ゾンビにしてしまったことはいまだに後悔している部分があった。


「皆さん言ってましたけど、センジュさんのせいじゃないし、同じ立場だったらみんな同じことをしたって言ってたじゃないですか」


「そうだね、皆、やさしいよね。誰も俺を責めないんだ」


「いえ、誰もってわけじゃなかったと思いますが」


「ああ、おやっさんのこと? いや、あれもおやっさんのやさしさだよ。アレのおかげでちょっとは救われた気がしたからね」


 じいさんのことを話した後、皆は仕方ないと言った。誰も俺が悪いなんて言わない。仕方ないこと、誰もがそうした、センジュさんは悪くない、そんな言葉が多かった。


 ただ、おやっさんだけは違った。無言で近づいてきて俺を殴った。その時殴られた左の頬がまだ痛い。


 俺を含めた全員がきょとんとしていると、「あん? なんだよ、殴って欲しかったんだろ?」って笑顔で言いやがった。いつの時代なのか知らないが、ずいぶんと古いやり方だと思って笑ってしまった。


 俺は何かしらのケジメが取りたかったんだと思う。おやっさんはそれを見越して俺を殴ったんだろう。あれで許されたなんて思ってない。でも、少しだけ気が楽になった気がする。


 じいさんをゾンビにしたのはいまだに後悔している。でも、もうやってしまったことだ。だから出来るだけ早くその呪縛を解いてやろう。俺が許されるとしたらその時だけだ。


 じいさんがワクチンを開発して皆を守る必要がなくなる、そうなる日を出来るだけ早く実現させよう。次こそは幸せな死を迎えられるようにしてやらないとな。


 そのためにも色々やらないと。こんなところで町を見ている場合じゃなかったな。


「さてと、それじゃマコトちゃんのところへ行くよ。昨日、色々分かったことがあるとか言ってたよね。何のことかは分からないけど聞いておかないと」


「分かりました。私も一緒に行きますね」


 エルちゃんが笑顔になる。俺のことを心配してくれていたんだろう。


 そういえば、じいさんにエルちゃんのことをちゃんと考えろって言われていたっけ。


 サイコパスな部分はあるけど、俺にはもったいないくらいいい子なんだけどな……ワクチンが出来て、俺も殺し屋から完全に足を洗えたら、そういう未来もアリなのかもしれないな。


「センジュさん、どうかしました? 私のほうをずっと見ているみたいですけど?」


「ああ、いや、ちょっと考え事をね」


「そうですか、分かりました……式場はどこにしますか? 皆に招待状を出さないといけませんから」


「エルちゃん、そういうところだからね?」


 冗談か本気か分からないくらいの真面目な顔だからな。半分以上は本気だと思うから怖い。結婚なんかしたら尻に敷かれそうだ。


「えー、アレはあり得なくない? 女性にあそこまで言わせてるのにお茶を濁したよ」


「だからあれはセンジュさんの照れ隠しなんだって。心ではもう決まってるの。お姉ちゃんの大穴ももうないからね?」


「ヘタレね」


「同じ男としてアレはないですね」


 いるのは気づいていたけど、ずっとこっちに聞き耳を立てていたのか。


 屋上の物陰からこっちを見ているやつらが四人。サクラちゃんとモミジちゃん、そしてジュンさんとアマノガワ。娯楽に飢えているとは言え、ちょっとどうかと思う。


「お前らもそういうところだぞ」


 恋人がいないのは、と続けそうになったけど、それは我慢。さすがにそんなことを言ったら、どんな目にあわされるか分かったもんじゃない。じいさんをゾンビにしたことなんてどうでも良くなるくらい怒られる気がする。


 そういえば、アマノガワは男であることをカミングアウトしていたな。


 アマゾネスの皆は快く受け入れていた。というより、男と言う事実のほうが逆にいいみたいだ。あのジュンさんも大きく息を吸ってから、ものすごく目に力を入れて「アリね!」って言ってたし。


 一部の男達はアマノガワが男と言うことで嘆いていたけど。中にはアルバムを買って握手をしたことがある奴もいたらしい。ご愁傷様としか言いようがない。


「ところで君達は俺に用事があるのかな? 俺はこれからマコトちゃんのところへ行く予定なんだけど」


「それなんだけど、私たちも一緒でいいかしら? それに今後のことも話をしておきたいし」


 ジュンさんがそう言うと皆も頷いた。


 今後のこと、か。今のところ優先的にやるべきことは何もない気がする。むしろマコトちゃんの情報から何をするか考えようとしていたくらいだ。


 一度皆で集まったほうがいいのかもしれないな。皆も色々やってるみたいだし、情報の共有は必要だろう。意外な情報からやるべきことが決まるかもしれないからな。


「分かった。それなら一度皆で話をしようか。これからどうするべきかとか、何をしたいかとか色々あるだろうしね」


 全員が頷く。


 そして午後、お昼を食べた後に話し合いをすることになった。でも、それまでは時間があるということで、なぜかここで俺とエルちゃんの話をすることになってしまった。


 馴れ初めって何だよ。コンビニか、いや、それとも施設での話か?


 エルちゃんは楽しそうだけど、俺には拷問なんだけどな。これが俺への罰だったとしたら、もうじいさんのことは許されてもいいかな?


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