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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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ゾンビの心

2019.08.25 3話投稿(2/3)

 

 皆で救急車に乗ってマンションへ向かっている。


 乗っているのは、俺、アマノガワ、ラファエルちゃん達、そしてゾンビになったじいさんだ。おそらく後30分くらいで到着するだろう。


 救急車の後方に座っているじいさんをちらりと見た。


 やはりというか当然というか、じいさんは適合者にならずに普通のゾンビになった。実際にゾンビになったじいさんを見て後悔した。自分はなんてことを提案してしまったのだろうと。


 ゾンビにすることを甘く考えていた。今までは知り合いでも何でもないゾンビだったから気にしなかったが、生前からの知り合いがゾンビになるのを見ると、異様に心が苦しい。


 死んでいるのに動いている。それは嫌悪さえ感じる。俺がじいさんに提案したことなのに。


 じいさんがゾンビになった直後、アマノガワを襲おうとした時も気分が悪かった。じいさんならゾンビになっても俺達のことを覚えてくれているんじゃないか、俺が命令しなくても襲ったりしないんじゃないか、そんな風に思っていたからだろう。


 だが、じいさんも例外なく人間であるアマノガワを襲おうとした。


 その時、俺の提案は間違っていたんだろうと思った。そして止まるように命令した後、じいさんの頭に銃口を当てた。ゾンビになったじいさんを見ていられなかったからだ。


 でも、撃てなかった。


 じいさんは死んだ。ただ、動けるだけ。だからもう一度殺す……つもりだったんだけど、やっぱり撃てなかった。撃てるわけがないじゃないか。


 ピースメーカーの教祖が俺を希望だと言ったが、こんなものが希望なのだろうか。相手がどんな姿になっても生きていてほしいを思うのは分かる。俺だってそうだ。じいさんに生きていてほしいと思ってゾンビにした。


 でも、ゾンビとなったじいさんを見て、こんなことは許されないと感じた。こっちの都合でゾンビのままにさせるのは間違っている。あのまま死なせた方がじいさんのためだっただろう。俺はそれをじいさんにさせなかったわけだ。


「あの、センジュさん! 前見てください、前! 危ないですって!」


 助手席に座っているアマノガワの声に反応して前を見たら何かにぶつかりそうだった。慌ててそれを躱す。おそらくゾンビだったのだろう。危ない危ない。


「すまん、ちょっと考えごとをしてた」


「おじいさんをゾンビにしたことを後悔してるんですか?」


「なかなかの洞察力だ。そうだよ、後悔してる。余計な提案してしまった。あの行為は俺が生きている間ずっと後悔していかないといけないだろう。人を殺したとしても後悔なんかしてないのにな」


「後悔する必要はないと思いますよ?」


「……その心は?」


「ラファエルちゃん達が言ってたじゃないですか。ゾンビになったおじいさんは感謝してるって」


 確かに言った。


 ゾンビになったじいさんを撃てなかったが、その後、ラファエルちゃん達がじいさんに近寄った。そしてうんうんと頷いた後、俺に向かってこう言った。


「じいちゃんはセンジュにお礼を言ってるよ。感謝してるんだって」


 どうやらラファエルちゃん達はゾンビと意思疎通ができるらしい。じいさんの言葉を俺に伝えてくれた。一応、じいさんにスマホを打たせたが、同じ答えだった。


 ゾンビにとって適合者の命令は絶対だ。質問に嘘をつくことはないだろう。つまり本心でそう思っている。だが、あのじいさんだ。俺に気を使わせないように心を偽っているくらいやれそうなんだよな。


 それにその気持ちというか心は誰の心だ? おそらくじいさんの心や気持ちなんだとは思う。でも、ゾンビは死んでいるんだ。ゾンビになった人間は本当に元の人間と同じなのだろうか。


 ゾンビは生前の記憶があり、生前の行動を繰り返すという話を聞いたことがある。それは脳に残った記憶の一部を使っているだけであって、いま、この瞬間に思考があるのかどうかは分からない。


 ゾンビは生前の記憶だけで動いているのか、それともちゃんと思考があるのか。


 命令には従ってくれる。それは記憶が残っているからだと思う。プログラムのように言われたことをするだけならそれでも可能な気がする。でも、ゾンビにこれから知識を与えることは出来るのだろうか? できない事はできないままなんじゃないか? つまり成長しない気がする。


 記憶と思考。ゾンビがどういう理屈で行動しているのかはよく分からない。じいさんも生前の記憶から俺に感謝していると言っただけであって今の状態を本当に感謝しているのか……そこが良く分からないな。


 大きくため息をついてしまった。


「何を悩んでいるのか知りませんけど、そんなことよりも自分は皆に男だって言うべきですかね? それとも女で通したほうがいいのかな? センジュさん、どう思います?」


「俺の悩みをそんなこと呼ばわりするな。大体、お前の悩みこそ、そんなことだろうが。嘘をついて何のメリットがあるんだ。とっとと男だと言って悩みから解消されろ」


「いえ、自分から女なんて嘘を吐いたことは一度だってないんですよ? 皆が勝手に勘違いしていただけで」


「お前、アイドルやってんだろうが。見た目はどう考えても女なんだから嘘をついているも同然なんだよ」


「それはそうなんですけどね……センジュさんって男に当たりが強くないですか? 男嫌いですか?」


「そんなことはないが、ちょっとイラっとしてるな。いい加減覚悟を決めろ。もうマンションには連絡してあるんだから、この状態から逃げるなよ? それに俺だって皆になんて言ってじいさんのことを謝ろうか考えているんだ。お前のことに構っている暇はない」


 救急車に乗る前、エルちゃんに連絡した。


 ミカエルと会話して敵対関係にはならなかったこと、アマノガワを見つけたこと、そしてじいさんが死んでゾンビになったことの三つだ。


 じいさんがゾンビになったことはエルちゃんもショックを受けていたな。電話でしきりに俺のせいじゃないと言ってはくれていたが、それでも俺の独断でじいさんをゾンビにしたのは謝らないとな。


 そしてアマノガワを見つけたことに関しては、アマゾネスの皆が喜んだらしい。性別に関しては伏せておいた。アマノガワがそうお願いしてきたからだ。


 マンションに着くまでにどういう回答をするか決めるつもりらしい……が、いまだに決まっていないようだ。もうちょっとでマンションに着くんだけど。


「ねーねー、センジュ」


「ラファエルちゃん? どうかした?」


「おじいちゃんが言ってるんだけど、自分のことを皆に謝るなら皆の好きな物でも持って帰ったらどうかって。つまり、ご機嫌取りだね!」


「え?」


「ちなみに私はアイスが好き。くれたら何でも許すよ?」


「そ、そう、ありがとう」


 じいさんは今の俺の状況を判断してアドバイスをくれたのか? 理解した上で、そのように助言した? 俺がいまどうやって謝ろうかと考えているのは、じいさんの生前の記憶からじゃ分からないだろう。今、この場で俺を見てじいさんが判断したんだと思う。


 本当のところはゾンビにならないと分からない。でも、状況から考えてゾンビになっても生前の記憶だけで行動しているわけじゃないような気がする。ゾンビになってからも何かを記憶したり考えたりできる思考がある……そう思いたい。


 いや、そう信じよう。じいさんはゾンビになっても思考がある。姿形はゾンビだが、生前と同じように皆のことを考えてくれるはずだ。


「ありがとうな、じいさん。アドバイスに従ってちょっと寄り道をしてお土産を持って帰ることにするよ。飲食店かスーパーでも寄ってみるか。なにがあるかは分からないけどな」


「いいですね! 自分も男と言うことに決めたんで皆の機嫌を取らないと。皆の場合はやっぱり肉かな?」


「アイスを持って帰ろう。ストロベリーとチョコ、それに抹茶の三段重ねをやりたい」


「私はお花でもいいと思う。女の子はお花を持っていくと喜ぶってミカエルお姉ちゃんが言ってた」


「宝石や貴金属という手もあるとだけ言っておく。でも、私はそんなんじゃなびかないんだからね!」


「皆、自分が欲しいものを言ってるだけじゃないの? というか、ウリエルちゃんはツンデレの真似かい?」


 とりあえず皆の要望を叶えるならデパートとかかな。カーナビで探してちょっと寄ってみるか。


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