表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/93

ピースメーカー

2019.08.18 3話投稿(2/3)

 

 シェルターの場所が分からないのは仕方ない。別の方法でなんとか探ろう。マコトちゃんあたりなら調べる方法を何か知っているかもしれない。マンションに戻って確認してみるか。


 さて、そうなるとこの場所にはもう用事がない。アマノガワは怪我をしているし、早めに救急車へ戻ってちゃんとした治療をしたほうがいいだろう。とっととマンションに帰るか。


「みんな、そろそろ帰ろうか。ミカエルとは敵対しなかったしもうここには用はない。早く帰ってお昼ご飯にしよう」


 そう言うと全員が賛同してくれた。どうやらみんなお腹がすいたみたいだな。


 部屋を出て通路を歩く。アマノガワに関しては秘書に肩を貸す形で運ばせた。これくらいやらせても問題はないだろう。


 長い通路を歩き、搬入用の通路まで戻ってきた。


 ……通路の奥に大量の人がいる。一番先頭にいる奴はずいぶんとにこやかな顔をしているが、歓迎しているようには見えないな。むしろ、きらびやかな衣装とその笑顔がかなり胡散臭い。何かの教祖なのだろうか。


 その男が一歩前に出て頭を下げた。


「貴方が適合者のセンジュ様ですね? お待ちしておりました。そしてその後ろにいる可愛らしい子供たちは天使ミカエル様の妹様ですね? なんと素晴らしい。このピースメーカーにご降臨されるとは……!」


 なにかヤバい感じがするくらいに演技がかった動作をしている。どう考えても気持ち悪い。


 同じように思ったのだろう。じいさんがラファエルちゃん達の前に庇うように立った。


 とりあえず話をしてみるか。胡散臭いとは言え、話が通じないほどではないと思う。


「俺達に何か用かな?」


「もちろんございます! センジュ様は適合者、この荒廃した世界の救世主なのです! 貴方が私たちを導くのは自然の理のようなものなのですよ!」


 救世主ときた。俺の中でいままでで一番くらいの警報が鳴っている。素でそういうことを言う奴に碌な奴がいないのは経験済みだ。そういうターゲットも多かった。


「悪いが別の適合者を当たってくれ。俺はそんな大した者じゃないよ」


「ご謙遜を。数万人に一人の割合でしか適合者にはなれないのです。まさに貴方は選ばれし者。どうか我々ピースメーカーでミカエル様と一緒に哀れな子羊たちを導いてください!」


 男がそう言って頭を下げると、その後ろにいた奴らも頭を下げてきた。


 ミカエルと一緒にと言っているが、ミカエルがここに残るとは思えないな。そもそも適合者を見つけるためだけにピースメーカーを利用していただけだろうし、俺がミカエルの呪縛的な物を解いてやったからもうこの組合はミカエルにとって不要なはずだ。


 そして俺もそんなことをするつもりはない。こんな世の中で大変だとは思うが、構っていられないな。それに目の前の男がどうにも信用できない。これは勘みたいなものだが、殺し屋には必須の能力だ。


「済まないがここに残るつもりはない。悪いね」


「では、我々を見捨てると? 毎日ゾンビにおびえながら生きて行けと言うのですか? 適合者の力があれば、より多くの者達が助かるのですよ? 心が痛まないのですか?」


 よく言う。人の命よりゾンビを優先しているとアマノガワが言っていた。実際にそれを見た訳じゃないが、前の適合者にアマノガワを差し出したくらいだ。人の命なんてコイツには軽いのだろう。


 それにゾンビにおびえて? そんな組合じゃないだろうが。


「ピースメーカーはゾンビとの共存を図る組織じゃないのか?」


「ご存知でしたか。その通りです。ですが、それはあくまでも適合者がゾンビに命令を出せるのが前提です。残念ながら前任の適合者はミカエル様に殺されました。そしてゾンビに命令できるミカエル様はご多忙。ですので、センジュ様にゾンビと共に生きるユートピアの象徴になってもらいたいのです」


 どいつもこいつもユートピアか。それはお前にとって都合のいい世界のことだろうに。


 呆れていたら、男はさらに笑顔になった。


「いかかでしょう? 我々は最大限の誠意を持ってセンジュ様にお仕えいたします。それこそ王のように振舞ってくださっても構いません。どうか、我々に救いの手を差し伸べてくださいませんか?」


 また男とその後ろにいる人たちが頭を下げた。そしてずっとそのままでいる。


 正直、こんな話に乗る奴がいるのだろうか。どう考えても詐欺の手口だと思うんだが。おそらくこの男がピースメーカーのトップだと思うんだが、この秘書は一体どんな洗脳をしたんだ?


「センジュ」


 じいさんが小さな声で話しかけてきた。


「分かっているとは思うが――」


「当り前だ。そんな確認をしないでくれ。俺を何だと思ってるんだ」


「まあ、そうじゃな」


 一度深呼吸をしてから、男のほうを見た。


「悪いが答えは変わらない。そういうのがいいという適合者を見つけてくれ。数万人に一人の割合は人口から考えたら結構いるはずだ。そっちに期待したほうが早いぞ」


「……つまり私たちを助けてはくれないと?」


「病院のほうでワクチンを作ろうとはしている。出来るかどうかは分からないが、それに期待してくれ」


 男がピクリと体を動かした。そして頭を上げる。


「ワクチン? ゾンビ化を防ぐワクチンと言うことですか?」


「まあ、そうだ。アスクレピオス病院でゾンビに協力させながらワクチンの開発をしてもらっているよ。すぐにできるようなものではないけど可能性はあると思う」


「……もしかしてそちらにいらっしゃるお医者様のような方がワクチンの研究を?」


 男がじいさんのほうを見た。じいさんも軽く会釈をする。


「一応、研究リーダーとして頑張ってはおる。センジュが言った通り、まだまだかかりそうじゃがな」


「……それはそれは……では、センジュ様、どうあっても我々に力を貸してくださらないということですね?」


「悪いとは思うけど、救世主なんてガラじゃないから」


「そうですか、なら仕方ないですね……」


 男はそう言うと、服の中から銃を取り出した。そしてその後ろにいる奴らも銃らしきものを構えている。


「適合者であるセンジュ様、そしてミカエル様の妹君以外は殺してもいい。それに生きてさえいればどうとでもなる。手足はどうなってもいいから動けなくしろ」


 やばい! まさかここで銃を使われるとは思わなかった。この通路では単なる的だ。それに曲がり角まで戻る時間はない。


 通路の少し後方に非常用の出口があるのを見つけた。


「アマノガワとラファエルちゃん達は秘書の後ろに! じいさん、俺が時間を稼ぐからそこにある扉を開けてくれ!」


 非常口に逃げ込めばまずはなんとかなるだろう。ここにいたら撃たれるだけだ。急いで中に入らないと。


「馬鹿もん。お主が扉を開けるほうじゃろうが。あっちは儂に任せい」


 じいさんはそう言うと高速で向こうへ移動した。素人の銃なら躱せるようだ。そしてあの集団の中へ入る。確かにあの位置なら同士撃ちが怖くて撃てないだろう。なら刀を持っている爺さんのほうが有利か。


 でも、危険なことは変わりない。無理するなよ、じいさん。


 急いで非常口に近寄った。


 くそ、鍵がかかってる。非常口なのに鍵がかかってるって何だよ。


 跳弾に気を付けながらドアノブに銃弾を何発もぶち込んだ。そうすると、ロックが外れた、というか鍵の原型をとどめておけなくなり鍵の役目を果たさなくなったようだ。


 その扉を思い切り蹴り飛ばすと扉が勢いよく開いた。


「みんな、こっちだ! 急げ!」


 秘書を盾にしながらアマノガワとラファエルちゃん達が非常口の中へ入る。よし、後は俺とじいさんだけだ。


「じいさん、十分だ! 援護するから戻れ――」


 そう言いながら集団のほうを見ると、じいさんが大量の血を流しながら刀を振るっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ