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感染拡大の理由

 

 今、エルちゃんと一緒にコタツへ入り食事をしている。食事と言っても食べているものはサラミとかサキイカとか酒のつまみ。エルちゃんのチョイスはちょっとだけ微妙だ。嫌いじゃないけど。


 それはいいとして、だ。


 さっきからエルちゃんの視線が熱い。俺がゾンビにならない適合者というやつだからだろう。正直、嫌な視線だが、警戒心は減ったような気がする。それだけはありがたいかな。


 エルちゃんを見ると、目が合った。まぶしいくらいの笑顔でこちらを見つめてくる。


「すごいですよね、センジュさん。10連ガチャで全部スーパーレアを引いたくらいの運ですよ!」


「微妙にすごくない気がするのは気のせいかな?」


 10万円のターゲットガチャを引いて、報酬が数十憶のターゲットを引く様なものか。数万分の一なわけだから、運はいいと思うけど、あまり嬉しくない。だって選ばれし者って。もっと言い方があると思う。


 呼び方は嫌だが、あの動画で色々な情報が得られたのは良かった気がする。


 このパンデミックは人工的なウィルスによるものだ。なら、ワクチンを作れるのかもしれない。ゾンビから人に戻せるかどうかは分からないが、ゾンビ化しないためのワクチンを作れる可能性はあるだろう。これが創作にでてくる世界の改変みたいな状況だったらどうしようもないからな。人類も少しは希望が持てるだろう。


 そして、もうひとつ分かったことは、俺は適合者であると同時にウィルスの保菌者ということだ。色白の彼女たちがそうだったように、俺が爪でひっかいたり噛んだりしたら相手はゾンビになる。これは気を付けないと。


 とりあえず、仕事で使っているぴったりフィットの手袋を付けておいた。何かの拍子でエルちゃんをひっかいたら大変だ。さすがに何かの拍子で噛むことはないと思うから口には何もつけていないけど。あとでマスクとか探したほうがいいかな。


 他の感染経路に関しては良く分からない。汗とかつばとかでも感染するのだろうか。でも、気を付けたほうがいいよな。出来るだけエルちゃんには近寄らないほうがいいだろう。


「エルちゃん、食事の前にも言ったけど、出来るだけ俺には近寄らないようにしてね。噛む、ひっかく以外でも感染する可能性はあるから。あと俺が触った物は極力触れないほうがいいと思う。手袋はしてるけど、気を付けて」


「大丈夫だと思いますけどね。噛むとひっかく以外の方法で感染するなら、最初からその方法でウィルスを撒いてますよ。それにゾンビに触って感染したなんて話は聞きませんからね。センジュさんもあの動画に出てた子に噛まれて感染したんですよね?」


「その通りだけど、あの博士って人、もしかして馬鹿なのかもしれないし」


 ゾンビにこだわりがあるタイプの博士なのかもしれないけど。


「あー、確かに残念な天才って感じはしましたね。そういう散布方法に気づかなかったって可能性はありそうです。あ、話は変わるんですけど、あの動画で、適合者は強靭な肉体を得るって言ってましたよね? どんな感じになるんですか?」


 確かにそんなことを言っていた。でも、握力が増えたとか筋肉が付いたとかそういう感じはしない。ゾンビパンデミックが起きる前と何も変わらないと思う。体の調子はいいような気がするけど。


 ただ、体の調子がいいのは良く寝たからなのかもしれない。コタツにうつ伏せという変な姿勢だったとは思うが、あんなに無防備で深く眠ったのはいつ以来だろう。普段は仕事も多いし、他の同業者に狙われていたから、いつも半分だけ寝てるって感じだし。


「センジュさん?」


「あ、ごめんごめん。いや、実はあまり変わらないんだよ。特に変化はないかな?」


「そうなんですか……目からビームとか出ません?」


「それ、強靭な肉体とか関係ないよね?」


 そんなのは人間じゃない。まあ、ゾンビも人間じゃないけど、ゾンビだって人間の範疇ではある。ゾンビが目からビームとか出したら嫌だな。


 よく考えたら、ゾンビたちは力が強くなってたりするのだろうか。動きが鈍い感じなのに感染は拡大していると思う。他国の軍隊とか、自衛隊とかで対処できると思っていたんだけど。それとも、ミカエルって子達が頑張ってウィルスを振りまいたのか?


「エルちゃん、この1週間で感染がかなり広がっていると思うんだけど、どんな事情があってこうなったか知ってる? 数日もすればパンデミックは収束すると思ってたんだけど」


「ネットで得た情報ですが、サラリーマンの人が大量に感染したみたいなんですよ。それが原因で収束どころか拡大しちゃったみたいです」


「サラリーマン? なんでまた? 確かに大半の人はサラリーマンだろうけど」


「ほら、体調不良でも出勤しないとダメじゃないですか。ちょっとくらい噛まれてても電車に乗ったみたいで、満員電車の内でゾンビ化したみたいです。電車内じゃ逃げられないし、駅に着いてからも乗る人がたくさん並んでいますからね。それで多くのサラリーマンがゾンビになってしまったみたいですよ」


 なんだろう。涙が出てくる。うちの会社は違う意味でブラックだけど、ほかの会社もブラックなんだな。噛まれた時くらいは家でゾンビ化してほしい。


「そういえば、センジュさん、お仕事はなにを? 平日なのに満員電車には乗ってなかったんですよね?」


 さすがに殺し屋ですとは言えない。まあ、言っても信じないだろうけど。


「守秘義務があって詳しくは言えないけど、請負の仕事って言えばいいかな。何でも屋みたいなものだよ」


「へー、そういう仕事があるんですね。それと、センジュさんは本当にこの部屋に住んでるんですか? 部屋を見た限り、コタツとベッドとノートパソコンしかないですよね?」


「何もないのは、家に余計なものを置きたくない主義だからかな」


 実はクローゼットの中に銃とかしまってある。カモフラージュの壁があるからバレないとは思うけど、見つかったらモデルガンで通そう。部屋に誰かを連れてくる予定は全くなかったけど、ちゃんと隠しておいて良かった。


「余計なものを置きたくないって……冷蔵庫もなさそうなんですけど、生活できるものなんですか?」


「食事はコンビニか外食だけだから冷蔵庫はいらないんだよね。温めもコンビニでやってもらうからレンジも不要かな」


「コンビニのバイト店員がいうのもなんですけど、コンビニ弁当ばかりだと栄養が偏りますよ? 新鮮な野菜も食べましょう! 食材があれば私が作ってあげてもよかったんですけど、あのコンビニにはもう食材はないんですよね」


 料理が出来るのはポイント高いな。それにしても高校生の女の子が作った手料理か。レアだな。ぜひとも食べたい。


「まあ、いちおう気にしながら食べてたから大丈夫だと思うよ。今はそんなこと言ってられないけどね。そういえば、エルちゃんはいつからあのコンビニで籠城してたんだい?」


「え、えーと、パンデミックの初日からですね」


「そりゃ大変だったね。店内は略奪されていたみたいだから、ロッカールームへ逃げ込んだのかな? なかなかの英断だったね」


「ええ、まあ、ありがとうございます」


 平静を装っている感じだけど、なにか言いたくないことがあるのだろうか。


 さっき、満員電車で多くの人がゾンビ化したとか言ってたから、通勤通学の時間に爆発的なパンデミックがあったのだろう。エルちゃんが朝からコンビニにいるのはおかしいと思うんだが。買い物に寄っただけかもしれないし、学校から逃げてきたのかもしれないけど、避難するとはいえ、セクハラがひどかった店長がいるコンビニへ行くものかな?


「あ、センジュさん。そろそろマンションを調査しませんか? 明るいうちにやったほうがいいですよね?」


 露骨に話題を変えたな。まあいいか。隠そうとしているなら必要以上に聞く必要もないだろう。


「そうだね。暗くなると色々と面倒だ。今のうちにやっておこう」


 さて、ゾンビの除去、それにエルちゃんの部屋になりそうなところを探すか。


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