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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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凶報

2019.08.04 3話投稿(3/3)

 

「いやー、助かったよ。この子達があのビルにいなくて途方に暮れてたんだよね。しかもビル内を探せとか言われちゃって。しかも探すまで帰ってくるなって言われたんですよねー」


 今、救急車に乗ってピースメーカーの本拠地へ向かっている。アマノガワの話では、そこにミカエルがいるらしい。


 どうやらアマノガワはミカエルにラファエルちゃん達を迎えに行くように命令されていたようだ。


 だが、ビルの屋上には誰もおらず、やりかけのすごろくが置いてあるだけだった。ミカエルにスマホで連絡したところ、探してこいと言われたらしい。


 おそらく屋上で聞こえた内容はこのことだったのだろう。


 そしてアマノガワにラファエルちゃん達を連れていることを話したらかなり感謝された。そして俺もミカエルに会いたいという話をしたら、一緒に向かおうという話になり、救急車で向かっているところだ。


 ラファエルちゃん達も最初はアマノガワを訝し気に見ていたが、アマノガワが持っていたスマホでミカエルと話をしたらすぐに信じたようだ。すぐにピースメーカーへ向かおうということになった。


 それはいいとして、ちょっと気になることがある。


「ずいぶんと砕けた話し方になったな?」


「ああ、もともとこっちが素の俺だよ。普段は口調を変えているから色々面倒でね。ここなら別にどんな話し方でも構わないだろ?」


「それは構わないけど、マンションにいるナタリーさん達の前ではどうするんだ? ピースメーカーでミカエルにこの子達を渡したら、一緒にマンションへ来るんだろ?」


 皆の前では女王として振舞うのだろうか?


「そっちにも正直に話すよ。幻滅されるかもしれないし、嘘つきと罵られるかもしれないけど、こんな状況になったならすべて正直に話さないとね……それに俺が外に出なければアマゾネスの皆もまだ生きている可能性があった。ゾンビになった皆にも謝らないとな……」


 アマノガワはそう言うと車の外を見た。別に景色を見ているわけではないだろう。アマゾネスにいたころを思い出しているのかもしれない。


 色々な事情が重なって今があるわけだから、アマノガワだけのせいじゃないだろう。屋上で話をした時もそうだが、俺のせいでもあるわけだし。だから、もし、なんてことを考えても仕方ない。でも、頭では理解しててもその考えがちらつくよな。


 未来が分かる訳じゃないんだから何が最善の選択なのかはその時には分からないんだ。俺が殺し屋として生きていたのも、このパンデミックを生き残るための技術を磨いていたと思えば、そう悪くないのかもしれないわけだし。


 ……まあ、ラファエルちゃんに速攻で噛まれたけど。


 でも、最善の選択、か。俺はどうするべきなんだろう? 一人で田舎に行くべきなのか、それともここへ残って皆と暮らすべきなのだろうか。どんな行動が正解なのか分からない。


 まあ、時間はある。しっかり考えよう……それに今度エルちゃんとちゃんと話をしてみようかな。エルちゃんはどうしたいんだろう? 俺にどうしてほしいんだろう? 俺が人殺しで、しかも適合者という感染者でも構わないのだろうか?


 もし、エルちゃんが、俺がどんな奴でも構わないというなら――


「センジュ、ちょっと良いか?」


 急に救急車の後部からじいさんに話しかけられた。


「ああ、どうした?」


「アマノガワの話ではミカエルがそこにいた適合者を殺したそうだ。お主もそうなる可能性があるのではないか?」


「確かにその通りだが、そもそも適合者を殺すことが目的なのかな? ラファエルちゃん達がそのことを知らないという可能性はあるけど、俺のことを襲わないようだから別の理由があると思うんだけどね」


「ふむ、そうかもしれんな。だが、警戒は怠るなよ?」


「ああ、分かってる」


 ミカエルはピースメーカーに適合者を探すように命令しているらしい。ピースメーカーもゾンビに命令できる適合者を探しているようなので利害は一致しているようだ。ミカエルは探してこいとしか言っていないらしいから、本当に利害が一致しているかどうかは分からないけど。


 まあ、会ってみればわかるかな。じいさんもいるし、いきなり殺されるようなことにはならないだろう。それにラファエルちゃん達が説得してくれるはずだ。そのためにプレゼントもあげたんだから、俺が人畜無害なのをしっかりと説明してほしい。


 そういえば、ラファエルちゃん達はミカエルに俺のことは言わなかった。なんでもサプライズでびっくりさせたいとか。


「それじゃ、アマノガワ、お主に聞きたいんじゃが、ピースメーカーとはどんな組織じゃ? ゾンビの人権保護団体とかいう組合じゃろう? 本当にそんなことを考えておるのか?」


 じいさん、今度はアマノガワに質問している。確かにそれは俺も知りたいな。


 風景を見ていたアマノガワがゆっくりとじいさんのほうを見た。


「残念だけど、俺も詳しくは知らないよ。俺はピースメーカーに捕まっていただけだからね。あの女好きの適合者に献上させられそうになっただけ。ただ――」


 アマノガワは両手を組み思い出すようなしぐさをしている。


「ゾンビを大事にしようとしている組合というのは間違いないね。その代わり、人間はあまり大事にしていないかな。あくまでもトップの男の考えなんだろうけど」


「人間を大事にしていないってどういう意味だ?」


「説明が難しいんだけど、ゾンビを殺すくらいなら、ゾンビになれって言う感じ。人間とゾンビの共存を目指しているようだけど、実際はゾンビが主体の世界を作りたい感じかな? だいたい、俺を監禁してたわけだし、ゾンビよりも扱いがひどかった」


 訳の分からない組合だな。ゾンビを大事にするのは俺だってやってる。でも優先するのは生きている人間だ。ゾンビは二の次、余裕があるときだけ大事にしているというスタンスだ。


「そうそう、ゾンビを操れる適合者に関してはそれこそ王のように扱っていたね。救世主とも呼んでいたかな? それに適合者の人格はまったく考慮されていなかったね。組織にいた美人をあてがっていたし、俺もゾンビにされる手前だったよ。その時にミカエルが現れてあっという間に殺しちゃったけどね。その点ではミカエルって子に感謝しているよ」


「ほう、そうじゃったのか。まあ、そんな男は死んで構わんな。センジュはそんな男になるんじゃないぞ?」


「そんなことする訳ないだろ」


 こんな世の中だから仕方ないけど、ずいぶんと問題のある組合のようだ。しかし適合者を救世主ね。確かにそうかもしれないけど、そんな風に崇められるのは嫌だな。


「センジュも適合者ってばれたら、組織に残るように言われるんじゃないかな?」


「そんな面倒なことはごめんだな。それにその組合と俺の考えは違う。死者に敬意は払うけど、優先するべきは生きている人間だ。ゾンビを優先する組合なんかに所属したくない」


「そりゃそうだ。それにしても、センジュは実質1位の殺し屋なのにまともだな。勝手にものすごいサイコパスだと思ってたよ」


「ものすごいサイコパスはランキング1位の奴だぞ」


「ああ、センジュの上司なんだっけ? 確か毒の入ったソバを食べて入院していたとか聞いたけど、こんな状況じゃまともに治療なんて受けられないし、もう死んだかな?」


「へえ、そんなことになっていたのか。それは知らなかった……毒の入ったソバ?」


「毒の治療で入院じゃと?」


 ……なんだか思い当たることがあるな?


 いや、そうだ、俺のお隣さんは毒を使う殺し屋だった。そして俺はそのお隣さんから引っ越しソバを貰った。それを上司にそのまま渡したわけだ。


 ……やべぇ。もしかして俺が上司に毒入りのソバを渡したってことなのか?


 あれ、待てよ? じいさんは病院で毒を食らった患者を治療していたとか言わなかったか?


「じいさんが病院で治療していた患者って女性か? 名前は?」


「30代くらいの女性だな。だが、名前は知らん。そもそも院長主導の患者じゃったからの。だが、確かに毒入りのソバを食べたとは聞いておる。なるほどのう、あれがランキング1位の殺し屋か……」


「たしかその患者って――」


「病院からはいなくなっておったな。状況的に見て、毒は抜けきっていないはずじゃが」


 それは朗報なんだろうか。いや、思いつく限り最悪の凶報だ。俺の命が相当ヤバくなってる。罵倒メールを送っても返信がなかったのは入院中だったからか。


 いや、すでに目を覚ましているならメールに返信するなり、俺を襲って来るなりするはずだ。それが出来ないってことは、おそらく毒が抜けていない状態で町をさまよい、ゾンビに襲われたんだと思う――そう思いたい。


「ずいぶんと汗をかいているようだけど、大丈夫かい?」


「あ、ああ、大丈夫。大丈夫なはず、だ」


 でもな、あの人が死ぬか? いや、死ぬわけがない。あの人は異常だ。たとえ毒が体内に残っていてもゾンビなんかに負ける訳がない。今は何らかの事情で連絡を取れず、こちらへも来れない状況なのだろう。


 こんなことをしている場合じゃなくなったな。ミカエルの件が片付いたらマンションの防衛を強化しないと。とりあえず、謝罪メールを送っておこう。


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