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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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アマノガワ

2019.08.04 3話投稿(2/3)

 

 ビルへ足を踏み入れた。


 おそらく複数の会社が入っているオフィスビルなのだろう。エレベーターホールに入る手前の案内板に多くの会社名と階数が書かれている。


 ラファエルちゃん達に留守番するように言われた場所は屋上だそうだ。最上階までエレベーターで行って、そこから非常階段を使わないと屋上へは出れないらしい。


 エレベーターの一つが最上階で止まっていた。


 誰かがいる可能性が高いな。単独か複数かわからないが、少なくともラファエルちゃん達が屋上にいるのを知っているのだろう。でも知っているならミカエルから情報を聞き出さないといけないはずだ。どんな方法で聞き出したのだろう?


 ふと思ったが、ミカエルが誰かに車を運転させたということもあり得るのか?


 ミカエルがいて、ラファエルちゃん達がいない状況をどう思うかな? それはそれで危険だ。話を聞いてくれるといいんだけど。


 エレベーターで最上階まで向かうのは危険なので、その手前までにしておこう。エレベーターを出たと同時に何かされたら困るし密室だから危ない。


 非常階段ならその手前の階にもあるだろうし、そこから屋上へ出れば問題ないだろう。


 早速エレベーターで移動する。そして最上階の一つ手前で降りた。ここからは徒歩だ。


 非常階段を見つけて、2階ほどあがり、屋上へのドアを見つける。ドアは開いていて、そこから声が聞こえてきた。


「あの、誰もいませんけど。えっと、すごろくみたいなものは置いてありますね……え、ビルを探検しているだろうから探せ? 探し出すまで帰ってくるな? ちょ――あ、切られた。ここ、何階あると思ってるんだ? もう、逃げちゃおうかな……」


 中性的な声と言うのだろうか。男か女かよく分からない声だな。声に哀愁が混じっている気はするけど。


 でも、声の内容でなんとなくわかった。おそらく電話をしていたのだろう。相手は分からないが、屋上にいる人物はラファエルちゃん達を探していると思う。


 さて、どうしたものかな……捕まえてどういう状況かを聞き出すのが手っ取り早いか。


「良かったら、貴方も探すのを手伝ってくれないか? それとも何か知っているのかな?」


 ――驚いたな。気配を消していたのに俺に気づいているのか。バレているなら仕方ない。どんな奴か見ておこう。


 ドアを開けて屋上へでた。10メートル先に驚くほどきれいな顔立ちの女性がいる……女性だよな? 黒いスラックスに同じく黒で丈の短いジャケット、そして白いシャツ。髪は黒でショートカットにしている。ちょっと気怠そうな顔つきがずいぶんと魅力的だ。


 あれ? もしかしてコイツ……?


 おもむろにスマホを取り出して写真を撮った。


 突然のことで相手は驚いているが、向こうも何かに気づいたようで、俺をスマホで撮った。


 やっぱりだ。殺し屋アマノガワ。通称クイーン。ジュンさんが探している女王だ……でも、男だぞ。残念なことに魅力的だと思ってしまったが。


 そしてアマノガワのほうも俺を検索したのだろう。相当驚いている。


「待って欲しい。声をかけてしまったが、貴方とやりあうつもりはない。ここは見逃してくれないか?」


「ああ、もちろんだ。別にアンタを殺しに来たわけじゃない。だが、話はさせてくれないか。実を言うとアマゾネスの人を知っていてるんだ。アンタ、女王だろ?」


 あれ? なんで顔が引きつるんだ? 元々あの組合にいたんだよな?


「わ、私をアマゾネスに引き渡すつもりか!」


「引き渡す? 何を言ってるんだ? アンタがいなくなって皆探しているんだぞ?」


「もう女王と言われて崇められるのはごめんだ!」


 ああ、そういう。そもそも男だしな。詳しい経緯は知らないが、おそらく男なのに女として崇められたのだろう。でも、コイツには知ってもらわないといけないことがある。


 アマゾネスはレンカのせいでほとんど壊滅した。残っているメンバーはジュンさんやナタリーさんを含めても数人だ。事情を説明してマンションに連れて行くべきだろう。


「聞いてくれ。アマゾネスの人たちはそのほとんどがゾンビになった」


「……え?」


「生き残っているのはごく僅かだ。アンタにはアンタの事情があると思うが――」


「貴様がやったのか……?」


「なに?」


 アマノガワが俺のほうを冷たい眼差しで見つめている。まさかとは思うが、俺がアマゾネスのメンバーをゾンビにした――いや、殺したと思っているのか?


 そんなことを考えていたら、アマノガワがゆらりと動いた。そしていつの間にかアマノガワの右手から水がしたたり落ちている。


 おそらくアレは毒だろう。アマノガワはお隣さんのように毒薬で遠隔的な殺しを行う方法ではなく、直接相手に毒を塗り込むタイプの殺し屋。あの毒に触れたらアウトだ。


 半分くらいゾンビの俺に効くかどうかは分からないが、わざわざ試す必要はない。でも、殺さずに相手を無力化させるって難しいな。できるだけ説得しよう。


 いつの間にか接近していたアマノガワの手刀を躱す。詳しくは知らないが、意識の途切れとか集中力の途切れ、を突くような動きがあるらしい。おそらくアマノガワは相手の一瞬の空白を突くのが上手いのだろう。動きは遅い感じなのにいつの間にか接近を許している。


「待て! 勘違いをしている! やったのは俺じゃない!」


「信じられるか! あの組合から逃げたいとは思っていたが、死んでほしいなんて思ってはいない! なら皆の仇を討つ!」


 俺を信じてないなら、アマゾネスの皆が死んだということも信じないで欲しいんだが。思い込みが激しいのかな?


 仕方ない。ちょっと痛い目に合わせて話を聞いてもらおう。


 幸い俺は手袋をしている。相手を手を掴んでも問題はないだろう。気を付けるのは俺の頭や首部分だけだ。アマノガワが狙っているのもそこだけのようだし、そこさえ注意していれば問題はないだろう。


「悪いがちょっとだけ痛い目に合わせるぞ」


 アマノガワが接近してきて手刀を放つ。それを躱しつつ、その腕をつかんだ。そして一本背負い。地面に叩きつけた。苦しんでいるところをうつ伏せにして両腕を背中側に回して押さえ込む。


「く、くそ!」


「落ち着け、俺は敵じゃないし、アマゾネスの皆も殺してなんかいない。まずは話を聞いてくれ」


 アマノガワにアマゾネスで起きたことを全部話した。レンカがやったことを全部だ。


 思うところがあったのか、アマノガワから徐々に抵抗する力がなくなってくる。とりあえず最後まで俺の話を聞いてくれたようだ。


「……レンカが暴走したのはお前のせいなのか……?」


「そうだな。直接やったのはレンカだが、俺がそうさせてしまったんだろうな」


 確かにそういう捉え方もできる。俺がレンカにそうさせるきっかけを作ってしまったのは間違いない。あの時、俺がレンカを見てもスルーすることができれば、また違った未来があったかもしれない。


 可能性の話でしかないが、俺さえ耐えていればアマゾネスの皆はゾンビになることもなかっただろう。間接的に俺が殺してしまったと言っても過言ではない。


「すまないな。直接ではないにしろ、俺がアマゾネスを壊滅させるきっかけを作ったのは間違いないだろう。そこは否定しないよ」


「……わかった。もう暴れない。手を離してくれ」


「もう襲わないということか?」


「もちろんだ、偽善者。よく考えたらお前が極悪人以外を殺すわけがないからな。レンカにきっかけを与えたとは思うが、遅かれ早かれアマゾネスという組織は壊滅していただろう。それに追い出された皆を受け入れてくれたんだろう? その分を救ってくれたとも言えるからな」


 ジュンさんやナタリーさん達のことか。あれは俺の意志だけじゃないけどな。ほとんど多数決だ。


 このまま拘束を解くのは甘いかもしれないが、コイツの言っていることは嘘じゃないと思う。何の根拠もないが、しいて言えば目かな。なんとなく信用できそうだ。


 押さえ込んでいる手を放して距離をとった。


 アマノガワは立ち上がり、少しだけ手首を振るとこちらを見つめてくる。


「知っているみたいだが、俺は天ノ川凛(アマノガワリン)だ……不本意ながら、殺し屋とアイドルをしている」


「ええと、八卦千住(ハッケセンジュ)だ。俺も不本意ながら殺し屋をしているな」


 お互い自己紹介したが、少しだけ笑ってしまった。


 さて、それはいいとして、今度はそっちの事情を聞いてみるか。そもそもなんでここにいるんだ?


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