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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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ビル

2019.08.04 3話投稿(1/3)

 

 宴会をした翌日。とあるビルを目指して救急車を走らせている。ラファエルちゃん達がミカエルに待っているように言われていた場所だ。


 ラファエルちゃん達はあのままマンションで待っていてもミカエルは来ると言っていたが、それはそれで危険な気がする。出来るだけ誤解がないようにしておきたい。


 じいさんの話ではミカエルは相当強いとのことだ。まず、一般人では太刀打ちできないらしい。そんなミカエルが、ラファエルちゃん達を俺達がさらったなんて誤解をしたら、相当な被害を出すとじいさんは思っているようだ。


 助手席で眠そうにしている爺さんをちらりと見た。


「じいさんはミカエルと面識があるんだよな?」


「そうじゃな、以前話をした通りだが、ミカエルは適合者を探して病院に来ていたようでな、その時に会った」


「話は通じるんだよな? 危険そうだからじいさん以外は連れてこなかったけど」


「大丈夫じゃろう。ラファエル達もミカエルを説得してくれると約束してくれたではないか」


 今回は俺とじいさん、それにラファエルちゃん達3人しかいない。ほかの皆はマンションに残している。今のところあの周辺には敵対的な組合もないし、おやっさん達もいるから防衛は問題ないだろう。


 救急車の後部をちらりと見る。三人は昨日の宴会で遅くまではしゃいでいたせいか、車に乗るとすぐに寝てしまったようだ。


 そんなラファエルちゃん達を見て、じいさんは少し微笑んでいる。


「じいさんの目が孫を見る目だぞ」


「……そう言う気持ちがないとは言えんな。儂はこんな歳になるまで生きてこれたが、その人生の大半が自分の思い通りにはならんかった。何かのきっかけがあれば違う人生があったかもしれんと思うことがある。伴侶を持ち、子を育て、その子が孫を育てる……もしかしたら、そんな人生があったかもしれないとたまに頭に浮かぶんじゃ」


「……誰だってそうだろう?」


「そうじゃな。だが、決して、もしかしたら、などという人生はない。人生でどうしようもないことなんてなかったはずなんじゃ。どうにかすれば殺し屋なんてことから足を洗って別の人生を歩めたはず。だが、それをせずにいたということは、なるべくしてなったのではないかと思う」


 殺し屋から足を洗う、か。


 俺はそこまでは考えられなかったかな。いつか誰かに殺されるかもしれないと人生を諦めていたくらいか。少なくとも人並みの幸せを得るのは無理だろうと思っていた――いや現在進行形で思っているな。


「このまま野垂死ぬのも仕方ないとは思っていたんじゃが……」


「思ていたんじゃが……なんだ?」


「お主らのおかげで、いままでの人生が変わりそうな気がした。今からでも違う人生を歩むべきじゃと思えるようになったのう。儂に伴侶はいないし、子供もおらん。だが、お主を含め、あのマンションにいる皆を子供や孫と思うくらいはしても罰は当たらんだろうと思っとる」


「ラファエルちゃん達もか?」


「そうじゃな。儂の孫だと思っても別に構わんじゃろう?」


「俺も孫枠か?」


「なかなかの問題児じゃがな」


 問題児は他にいると思うぞ。俺はかなりマシなほうだと自負してる。


「のう、センジュ」


「なんだ?」


「世界がこんなになったのはチャンスじゃと思うぞ?」


「チャンス?」


「わかっておるじゃろ? マンションにいる皆や、ほかでも生き延びている者たちが大勢いる。だが、ゾンビの騒動が減ればいつかは世界の再建が始まるじゃろう。田舎に引きこもるのではなく、それに手を貸してくれんか。殺し屋だった過去などすべてをうやむやに出来る。皆と再出発するべきじゃと思うのだがな?」


 じいさんの言っていることは分かる。そうするべきなのが一番なのも頭では理解できるつもりだ。


「でもなぁ、じいさん。罪はうやむやに出来るかもしれないが、人を殺していた事実は変わらないぞ? 殺し屋を辞めるとはいっても、いままで殺してきた人たちが生き返るわけじゃない。そんな奴が幸せになっちゃいけないと思わないか? ああ、もちろん、それを強要するわけじゃないぞ。じいさんが幸せになりたいと言うなら、それに文句をつける気はない。あくまでも自分自身のことだ」


 そう言うと、爺さんはこれ見よがしにため息をついた。


「面倒くさい奴じゃのう。煮え切らんと言うか……殺した奴らが生き返らないなら、もうどうしようもないだろうが。死んだ人間のことよりも、今を生きている人間のことを考えてやらんか」


「面倒くさいって言うな」


「エルの嬢ちゃんにも愛想をつかされるぞ? 悪い気はしておらんのじゃろ?」


 今度は俺が溜息をついた。


「じいさん、その話題はやめてくれ。昨日あれだけいじられたから、今日はお腹いっぱいだ。胸焼けする」


 宴会での話はなぜか俺の本命と対抗、そして大穴の話がメインになった。女性は恋バナが好きと言うが本当だな。最終的にはどうやってエルちゃんの責任を取るのかという話にまでなってた。どっから責任の話になったんだ。


 今までが今までだったから日常的な話題に飢えているのだろうが、俺じゃなくてナタリーさんとマイケル君の話をすればいいのに。


「殺し屋をそんなにいじる理由を知っておくべきじゃぞ? あのマンションにいる皆はセンジュのことを殺し屋だと思ってはいるが、恐れてはおらん。それはお主を信頼しているからだぞ?」


「……まあ、そうかもな。でもそれはじいさんも一緒だろ?」


「そうじゃ。だから皆の期待には応えたいと思っとる……のう、センジュ。人生は一度きりだ。そして、お主は儂と違ってまだ若い。いくらでもやり直しがきく。老いぼれからの助言としてしっかり考えて欲しいんじゃ。若いもんが儂のような人生を送るのは忍びない」


 運転中だから顔は前を見ている。ほんのちょっとだけじいさんを視界へ入れると、かなり真面目な顔をしていた。真面目な助言なら聞かないわけにもいかないよな。


「じいさんの言っていることは分かった。どういう結果になるかは分からないが、ちゃんと真面目に考える。すぐにどこかへ行くという訳でもないからな」


「それでよい……そうそう、どういう結果になったとしても、エルの嬢ちゃんを泣かすんじゃないぞ? それは儂の孫を泣かせたと同罪じゃからな?」


「まだ言うか……まあ、それもちゃんと考えるよ。さて、そろそろラファエルちゃん達が言ってたビルに着く。じいさんもそろそろ切り替えてくれよ?」


「分かっとるわい」


 マコトちゃんがバージョンアップさせたカーナビのおかげで、車が放置されて通れなくなった道は回避された。どういう仕組みでそうなっているのか全く分からないけど。道によっては結構な遠回りをしたが、まったく迷うことなく目的のビルに着いたようだ。


 だが、気になることがある。ビルの入口に高級そうな車が停めてある。あれは元からあった車なのだろうか。それともミカエルはあの車で移動している?


 ラファエルちゃん達に確認してもらおうか。


 救急車の後部へ移動して、3人を優しく揺すった。皆、目をこすりながら「んー」とか「あと5分」とか「良きに計らえ」とか言ってる。起きてんのか?


「早く目を覚まして。あの車なんだけど、ミカエルって子が乗っている車なのかい?」


 そう言うと、3人はくわっと目を見開いた。なんだ? いきなりシャキッとしたな?


 3人は車の運転席のほうへ移動してから外にある車を見た。答えは3人とも同じで、知らない、だった。というよりも、全員、徒歩での移動で車は使っていないようだ。そもそもミカエルが車を運転するところを見たことがないとか。


 つまり、ミカエル以外の誰かがあのビルにいるってことだろう。でも、それはどういう状況なんだ?


 ミカエルが誰かにラファエルちゃん達のことを任せるとは思えないんだが。


「じいさん、どう思う?」


「わからん。じゃが、この子達と一緒に行くのは危険かもしれん。様子を見に行ってくれるか?」


「そうだな。ラファエルちゃん達が負けるとは思わないが、怪我でもされたら大変だ。それじゃ行ってくる。こっちは任せるからよろしく頼むぞ」


「うむ、任されよう」


 じいさんがいるなら安心だろう。さて、俺はビルを調べてみようか。


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