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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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白い少女たち

2019.07.14 3話投稿(2/3)

 

 可能な限り必要と思われるものを持ってきた。


 ほとんど略奪されてしまっていたから見つけるのに苦労したな。見つけられたのは結構郊外のほうまで行ったからだろう。とあるコンビニは完全にそのままの状態を保っていた。店の中にはゾンビもいなかったし、だれもそのコンビニまで来れなかったんだと思う。


 それとドライブインが狙い目だったな。そんなに物資はなかったけど、自動販売機にアイスがあった。お土産用のお菓子とかも手つかずで残っていたから根こそぎ持ってきた。ウィスキーみたいのも見つけたし、おやっさんも文句はないだろう。


 医療用のクーラーボックスに保冷剤みたいなものもあったから、それでアイスを運んでいる。おそらく溶けていないはずだ。溶けていても文句は受け付けない方向で行こう。


 随分と遅くなってしまったが、あれから連絡もないし問題はないだろう。急いで白い女の子たちにお菓子をあげないとな。あげないでいて暴れたりされたら困る。


 不意を突かれたとはいえ、あんなに小さい子に噛まれた。身体能力は相当なものなのだろう。ロープで縛ってあるとはいえ、皆のことが心配だ。


 救急車を下りてマンションの周りを警戒しているゾンビに荷物を運ぶようにお願いする。


 あとはオートロックを内側から開けてもらおう。


 部屋番号を押してしばらく待つ。テレビゲームをしているとか言ってたからマコトちゃんの部屋だと思うんだが。


「あ、センジュさん、おかえりなさい」


 インターホンからエルちゃんの声が聞こえた。予想通りマコトちゃんの部屋にいたか。でも、エルちゃんの声の背後で、ちょっと騒がしい声も混じっているようだ。どうしたんだろう?


「ただいま。騒がしいみたいだけど、白い子たちが暴れてるわけじゃないよね?」


「大丈夫ですよ。テレビゲームが盛り上がっているだけです」


「あ、そうなんだ。えっと、オートロックの扉を開けてもらっていいかな?」


「はい、すぐに開けますね」


 盛り上がるのは別にいいんだけど、何しに来たんだ? 本当にお菓子を貰いに来ただけ? なにか別の意図があって来たと思ったんだが。


 そんなことを考えていたら、ガラスの自動ドアが開いた。


 とりあえず、クーラーボックスだけ持ってマコトちゃんの部屋に行こう。




 部屋では、三人の白い子たちとマコトちゃんの四人でレースのゲームをしていた。それをエルちゃんやサクラちゃん、それにジュンさんが見ている。


「マコトはずるい。なんでそういう車があるの? スピードが違いすぎる。チートはよくない」


「ずるくない。速いぶん、ブレーキが効かないの仕様なの。むしろハンデをあげてる感じだからね」


「あ! ウリエル、車で体当たりしないでよ! 大体、周回遅れなんだから今更邪魔しても意味ないでしょ!」


「他人の邪魔をすることが我が生きがい。足を引っ張るのが信条。邪魔はされたくないけど、邪魔したいお年頃」


 三人がゲームしているのはいいけど、なんでマコトちゃんも一緒になって仲良くゲームしてるんだ? 年齢が近いと言えば近いんだろうけど……精神年齢的なものが近いのかな?


 話しかけていいのだろうか……とりあえず、ゲームが終わるまで待つか。


 そう思ったら、ジュンさんが近寄ってきた。


「センジュさん、おかえりなさい。一応、首尾を教えてもらえる?」


「ああ、レンカは殺したよ。ただ、あんなのでも一応俺の従妹でね。火葬にして埋葬してきた。場所は……言わなくてもいいよね」


「そう……ありがとう。皆の代わりにお礼を言っておくわ。これで皆の恨みも少しは晴らせたと思う。それじゃ、ここは頼んでいいかしら? ナタリー達にそのことを伝えてくるわ」


 ジュンさんはそう言うと部屋を出て行った。


 俺の言うことを疑いもなく信じたな。それくらいの信頼はあるのか。それにここを任せるということは、いままで白い子たちを見張っていたのかな。いつも難しい顔をしてはいるけど面倒見がいいのだろう。


 さて、次はサクラちゃんと話をしてみようか。なんでそんなことになっているか知りたいし。


「サクラちゃんは何をやってるの? というか、どうしてロープで縛られてベッドの上に転がされてるの?」


「銃を撃ちたかったので籠城したら罰として縛られました。この部屋で何かあった時のためのいけにえになってます」


「援軍もないのになんで籠城したの……」


 どうやらおやっさんなら自分の気持ちを分かってくれると思ったらしい。でも、残念。おやっさんは元殺し屋だけど常識があるタイプだった。おやっさんが銃を撃たせてやると言ったので、元気よく部屋から出てたら捕まったらしい。


 勉強しないんだな、この子は。それに俺がホテルへ行ってる間に、何やってんだ?


 ……いや、俺がここを出るとき、マンションの皆は暗い状況だった。なんとか明るい状況を作るためにわざとそんなことをしたのか? 考えすぎかな?


 それはともかく、おやっさんはいい仕事をした。持ってきたお酒をやろう。ウィスキーがメインだけどビールもあったからたぶん気に入ると思う。


 サクラちゃんはもういいとして、エルちゃんは白い女の子たちを見ているだけだ。一瞬だけ俺のほうをみて微笑んでくれたけど、基本、白い女の子たちから目を離してはいない。バットを持っているから、何かあった時のためにここで待機しているのだろう。


 でも、見張りならじいさんのほうがいいと思うんだが。


「エルちゃん、じいさんはまだ来ていないのかい?」


「いえ、来てますよ。ついさっきまでここで見張りをしてくれていたんです。今は交代中でして」


 エルちゃんはこっちを見ずにそう言った。どうやら本気で女の子たちを監視しているんだな。


 自分の意志で相手をゾンビに出来る子たちだ。たとえロープで縛っていても危険であることは変わりない。マコトちゃんは全く警戒していないみたいだけど。


 だからエルちゃんが警戒しているのかな? マコトちゃんのすぐ後ろにいるし、襲い掛かったらすぐにでも対応できるようにしているのかもしれない。


「あー、また負けた! マコトは大人げない! 子供に勝たせようとは思わないの!?」


「勝負の世界は厳しいの」


「もう一回! もう一回!」


 でも、見た限りずいぶんと仲がいいな。ゾンビにしようとは全く思ってない感じがする。


 おっと、丁度ゲームが終わったみたいだし、アイスをあげよう。


「えっと、君達、ちょっといいかな? アイスを持ってきたんだけど……食べる? チョコレート単品のお菓子はなかったけど、チョコレートアイスはあるよ?」


 三人の女の子がクワッと目を見開いてこっちを見た。


「えっと、1人、1個までね」


 そう言ってクーラーボックスを開けた。中には色々な種類のアイスが入っている。それを見てエルちゃん以外が目を輝かせた。なぜかサクラちゃんも。マコトちゃんはともかく、君にあげるとは言ってないんだが。


 女の子たちはロープに縛られたまま、器用に手でアイスを取ろうとしている。


 でも、それをエルちゃんがバットで遮った。


「はい、みんな。まずはお礼でしょ。センジュさんに、ありがとう、は?」


 エルちゃんがそういうと、白い女の子たちはこっちを見て、ありがとう、とちゃんとお礼を言った。


 ちょっとだけ意外だ。女の子たちがエルちゃんに従うのも、エルちゃんがそういうことを言うことにも……おっと、まずは反応しないとアイスを食べられないのか。


「どういたしまして。どれでも好きなのを食べていいからね」


 そういうと、皆がクーラーボックスの中を覗き込みながら、どれにするか話し合いを始めた。マコトちゃんはともかく、サクラちゃんも普通にその輪に入って話をしているのがちょっとあれなんだけど。


 こう見ると普通の女の子に見えるな。食べ終わったら色々話を聞いてみるか。


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