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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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組合のリーダー

2019.06.23 3話投稿(3/3)

 

 夜中に目が覚めた。時計を見ると、今は午前2時だった。


 こんな時間に目を覚ますのは、何か危険が迫っている場合だ。おそらく殺し屋が俺を狙いに来たのだと思う。


 枕の下から銃を取り出した。残念ながら今の弾倉には一発だけだ。もう一つの弾倉をちゃんと持っておこう。


 シャッター式の雨戸を閉めているからそちらから来ることはないだろう。おそらく廊下側をよじ登ってきているんだろうな。


 音を立てずに玄関の扉を開けた。


 一瞬だけ、見事な星空に心を奪われた。それに月もきれいだ。今日は満月みたいだな。夜なのにずいぶんと明るい。


 都会のほうでも明かりがほとんどなくなれば、たくさんの星が見えるようだ。電気は生きているが、夜に明かりをつける人は稀だろう。ゾンビじゃなくて人に襲われる可能性があるからな。


 誰かが廊下側の壁にある雨どいを伝って登ってきている。なかなかのクライミング技術だ。あっという間に11階までやってきた。おそらく俺に用があるのだろう。


 非常用階段のところに身を潜めて気配を消した。雨どいを登ってきた奴は迷わずに俺の部屋のほうへ向かった。そして何やらピッキングをするような道具を取りだして鍵穴にいれている。


「動くな」


 殺し屋なら背中に銃を突きつけられていると気づくだろう。身のこなしからして一般の人じゃないことは明らかだし、分かってくれるはず。


 そいつは両手を上げた。よく見ると体つきは女か?


「待って。私は昼間に来たアマゾネスの幹部よ。お願い、話を聞いて」


 もしかしてあの不機嫌そうな女性か? 名前は知らないが、モデルのような印象を受けたが。でも、それはどうでもいい。アマゾネスの奴というだけで信用できない。


「こんな夜中に泥棒紛いのことをしている奴の話を聞く必要があるのか?」


「ごめんなさい。私たちもこんな時間に来るつもりはなかったんだけど、事情が事情でね。その、申し訳ないけど、入口にいるナタリーたちをマンションに入れてあげて欲しいの。このあたりのゾンビは人を襲わないらしいけど、夜中に外を歩くのは怖いのよ」


「俺はお前たちが怖いが? お前たちがこのマンションにいる皆を襲うという想像をしただけで、すぐに引き金を引きたくなる」


「レンカのせいで私達を信用できないのは分かってる。でも、私達が信用できそうなのは貴方達くらいなの。ナタリーとマイケルのことは知ってるでしょ? 貴方達に危害を加えたりしないわ。お願い」


 嘘には聞こえない。だが、たとえ本当だとしても、俺がその提案を受ける必要があるのだろうか。リスクを取る必要がない提案だ。そもそも俺に何のメリットもない。


「悪いが俺にとってお前たちをマンションに入れるのはリスクだけだ。アマゾネスの本拠地に帰るか、どこか別の場所へ行くんだな」


「……ならメリットを示せばいいのね? 皆を入れてくれたら、私を好きにしていい。だからお願い」


 この女性は何を言ってるんだろう? すごい溜息が出た。


「お前にそれだけの価値があると? 悪いけどその提案に何の魅力も感じないな」


 そう言ったら、いきなりエルちゃんの部屋のドアが開いた。おもわずビクっとしてしまった。


「センジュさんはジャージにしか魅力を感じない性癖なんです!」


「ちょ、エルちゃん、危ないから出てこないで。あとジャージが好きなわけじゃないから、そんなことを大きな声で言わないで。というかそんなことを言いながら出てくるってどういうこと?」


 小声で話していたから部屋まで声は届かないと思っていたんだけど。


「――く、くくくく……!」


 なんだか不機嫌そうな女性が肩を震わせて笑っている。銃を突き付けてるのは分かってるよね?


「何が可笑しい? いや、可笑しいことだらけだけども」


「いや、だって……! やばい、ツボった……! く、くくく……!」


 なんだか緊張感がなくなったな。


「エルちゃん、サクラちゃん達を起こしてきて。俺だけじゃ決められないから皆の意見を聞きたい。こんな夜中に悪いとは思うんだけど」


「分かりました。すぐに起こしてきますので」


 エルちゃんが非常階段を下りて行った。インターホンを何度か鳴らせば起こせるだろう。それまでに事情を聞いておくか。


「とりあえず事情を話せ。皆が来たらまた話してもらうが先に聞いておきたい」


「いいわ。まずは――」


 女の話によると、レンカがアマゾネスを乗っ取ったらしい。女王が不在と言うことで幹部たちが組合の方向性を決めていたが、今回の男に助けを借りる件や、ナタリーに彼氏がいるというところを突かれて、アマゾネスから追放されたそうだ。


 残った幹部はレンカ一人。つまりアマゾネスを一人で自由に出来る立場になった。


 そこで宣言したのが、俺の討伐。


 俺が適合者であることから、俺を殺し、その血肉を研究しようという提案をしたらしい。明日――つまり今日のことだが、アマゾネス全員でこのマンションに総攻撃をかけるそうだ。


 どう考えても適合者の部分はこじつけだな。自分の安全のためにアマゾネスを巻き込んで俺を殺す気か。


 ……嬉しいね。アイツも俺を殺したいわけだ。相思相愛ってやつだな。


 俺の本当の気持ちではアイツらを殺したかったんだろう。いつでも殺せるから、とか言って復讐心がなくなったなんて単なる言い訳だ。


 躊躇していたのは、復讐が終わったら生きる気力をなくしそうだったからだと思う。復讐が終わればもう何もすることがない。他人の命を奪ってまで生きながらえる上等な命でもないと思っていたから殺さなかっただけなような気がする。


 でも、今は違う。俺にはまだやらなきゃいけないことがある。レンカを殺しても生きる気力はなくさない。


 そんなことを考えていたら、非常階段からエルちゃん達がやってきた。いきなり起こしたから皆眠そうだ。サクラちゃんはなぜかテンションが高いけど、モミジちゃんは半分寝てる。なんで枕を抱えてきたんだろう?


 マイケル君達はしっかり目を覚ましているようだが、銃を突き付けている女性を見て、意味が分からないという顔をしているな。


 そしてマコトちゃんは自分から部屋を出てきた。どうやら今の時間もネットで調べ物をしていたらしい。廊下が騒がしいから出てきたとか。


 狭い廊下に全員が集まったけど、話をするには十分だろう。女性にもう一度話をさせて、どうするか意見を仰いだ。


 ――全員が女性の話を信じるそうだ。


「分かった。なら入口にいる人たちをマンションに入れよう。何人くらいいるのかは知らないけど、たぶん部屋には入れると思う」


「あの、センジュさん、いいんですか?」


 エルちゃんがおずおずと言う感じで確認してきた。なんで今更俺の意見を聞くんだろうか?


「ん? 皆が信じるって言ったんだよね? ならそれでいいんじゃないかな? 俺も嘘をついているようには思えなかったし」


「えっと、でも、アマゾネスと言ったらあのレンカがいた組合ですよね? そこにいた人たちをマンションに入れるのは心情的に嫌なのかな、と」


「ああ、そういうこと。最初はそう思っていたけど、もう別にいいよ。こういうのは多数決で決めることだから、俺一人が反対しても意味ないし」


「ええと、この組合のリーダーはセンジュさんですよね? 色々な決定権はセンジュさんにあると思うんですけど?」


 エルちゃんは何を言っているんだろう? そもそも組合のリーダーが俺ってどういうこと?


「何の話?」


「ですから、このマンションにいる人たちで構成されている組合ですよ。アイアンボルトの人達も合流しますし、結構な大所帯なんですから、組合とかコミュニティと考えていいかと。で、誰をリーダーにするかといえば、センジュさんしかいないじゃないですか」


 エルちゃんがそう言うと、全員が頷いた。


「え? やりたくないんだけど?」


「でも、多数決で決まりましたよ、今」


 ……さっき多数決で決めることだからと言ったから言い返せない。


 でも、まあいいか。このマンションで快適に過ごせるようになるまでは俺がリーダーと言うことで構わない。皆を守ることが今の俺の生きる目的でもあるからな。


 レンカを返り討ちにして、皆を守る。そして色々な役目を終えたら、人知れず田舎のほうへ行こう。そして殺した奴等の供養でもしながら生きていけばいいさ。


 よし、ちょっとだけやる気が出てきた。まずはアマゾネス達の撃退方法を考えないとな。


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