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適合者

 

 ノートパソコンの電源を入れる。


 まずはゾンビのことを調べよう。エルちゃんが言ってたことが正しいかを確認するべきだ。それに組合とかの生存者たちのこと、あとは避難所なんかも調べておくべきか。


 そして自分のことだ。ゾンビに噛まれたのにゾンビ化していない。それもちゃんと調べないと。このことはエルちゃんに言うべきだろうか。言ったとたんにバットで殴られそうだけど。


 まあいい、それは後で考えよう。まずは検索サイトで調査だ。


 ……ゾンビに関してはエルちゃんが言っていた通りのことが書かれていた。


 ゾンビに見つかったら、隠れて音をださないことが一番いいらしい。もしくは、隠れてから別の場所で音を出す。ただ、見られている間は、どんなに激しい音がしても追ってくるそうだ。


 なるほど、ゾンビの視界に収まっている間は気が抜けないってわけだな。


 ゾンビ数体なら一人でも相手をすることが出来る。だが、大量にいる場合は無理だ。囲まれたらアウト。そうならないように、移動中はすぐに隠れられる場所を探しておかないとな。


 次は生存者たちのことを調べよう。


 調べた限りだと、生き残りが集まった集団、それを生存組合とかクラン、もしくはコミュニティと言っているようだ。主に避難所が拠点になっているらしい。


 そして資源の取り合いをしたり、共存関係を保っていたりしていると。パンデミックから1週間しか経ってないのにみんな逞しいな。


 そういえば、エルちゃんが言ってた組合があったな。たしか、ドラゴンファングだったっけ? それも調べてみよう。


 ……なるほど。暴走族のメンバーで構成されている組織か。ドラゴンファングというのはその暴走族の名前だったと。ゾンビがあふれる前から結構はっちゃけてたみたいだ。集会があるときはいつも警察のお世話になっているとか。


 それにこんな世界になってからも評判は良くない。色々なところで略奪を繰り返しているみたいだ。100人程度の規模で、リーダーは裏格闘技界のチャンプらしい……裏格闘技界のチャンプ?


 いきなりうさん臭いな。確かにそういう地下組織はあるけど、ネットに情報が載るような下手はしていない。もしかして素人がやっているのだろうか。


 素人だからこそ暴力に頼って、自由気ままに生きているんだろうな。でも、情報がネットに書かれている時点ですでに終わっているような気がする。こんなの潰してくれって言っているようなもんだ。もっと大きな組織というか、組合に狙われたら終わりじゃないだろうか。なにかの隠れミノということも考えられるけど。


 さて、次は別の組合を調べよう。エルちゃんが言ってたのは、アスクレピオスだったかな。


 ……医療関係者の組織か。よく考えたら、すぐそこの総合病院のことだ。確かそんな名前の病院だった気がする。アスクレピオス記念病院。由来は医療の神様の名前だったかな。病院の名前としてはどうなんだろう。


 食料を渡すことで治療をしたり、薬を出してくれたりするわけか。ゾンビがあふれかえっている世界じゃ、医者は貴重だからな。医療技術や処方薬で他の誰よりもアドバンテージを得られるわけだ。


 ほかにも色々と組合があるようだが、どこも怪しい感じしかしない。女性生存者だけのアマゾネス、サバイバルゲーマー達のハッピートリガー、車やバイクの違法改造を行うアイアンボルト、ハッカー集団のクラックラック、ゾンビの人権保護団体ピースメーカー。


 どれもこれもあまり近寄りたくないな。唯一、アイアンボルトだけは気になる。車の調達ができるかもしれない。キャンピングカーをくれないかな。


 さて、次はゾンビにならない件の調査だ。俺はなんで無事なのか。これが分からないと不安だ。いつかゾンビになってしまうのはまだいい。だけど、エルちゃんを危険にさらしたくない。事情が分からないと一緒にいるのが不安だ。


 そんなことを考えていたら、背後でドアが開く音がした。


 後ろを振り向くと、エルちゃんが立っている。あずき色のジャージ姿で。どこに持ってた。いや、そうか、あのスポーツバックか。パンパンだったのは、食料を入れてた訳じゃないんだな。俺のワイシャツ作戦が。


「さっぱりしました。ありがとうございます」


「それは何より。えっと、それは学校指定のジャージかなにか? ずいぶんとブカブカだけど?」


「ええ、そうですね。ほら、今って成長期なのでちょっと大きめのジャージを用意しておいたんですよ。いいですよ、ジャージ。このまま寝てもいいし、運動してもいい優れものです。汎用性の高い一品」


 汎用性は高いと思うけど、高校生なら見た目とかも気にするものじゃないかな? いや、個人的には悪くないけど。


「あの、それとですね、脱衣所にあった洗濯機を使ってもいいですか? 色々と洗いたいのですが」


「どうぞ。ただ、乾燥機はないんだ。浴室が乾燥機代わりになるから、乾かすときは浴室に干してから浴室の外にあるパネルで乾燥ボタンを押して。ちょっと時間はかかるけどそれで乾くと思うよ」


「ああ、あの浴室にあった邪魔な棒は物干し竿でしたか。ハイテクですね! それじゃさっそく洗濯機を借ります!」


 ハイテクかな? それはいいとして、心なしかエルちゃんは興奮している感じだ。久しぶりのお風呂でテンションが上がったのかも。


 気持ちは分かる。俺もターゲットを暗殺するのに1週間くらい飲まず食わずで隠れている時があるし。仕事が終わった後のお風呂は格別なものがある。


 さて、エルちゃんは洗濯をするみたいだし、こっちはまた調べ物をするか。ノートパソコンへ向き直ってから、検索文字を打ち込む。


 ゾンビ化しない、とかで検索すればいいかな?


「センジュさん……」


 なんだ? 背後からエルちゃんの声が聞こえたけど、ずいぶんと低いというか重い声だ。こちらに敵意があるようにも感じられる。もしかしてバットも振りかぶってる?


 とりあえず、両手を上げよう。敵対したりセクハラしたりする意志はない。


「えっと、なにかな? 言っとくけど、覗いたりしてないよ?」


「そうじゃありません。ゴミ箱にあるものですけど、納得のいく説明をしてもらえますか?」


「ゴミ箱?」


 ゴミ箱になにかあったっけ?


「ええと、ゴミ箱になにがあるか分からないから、振り向いてもいいかな? ゆっくり振り向くから」


「はい、ゆっくりとこっちを見てください」


 まず、コタツから出る。そして立ち上がって、ゆっくりと振り向いた。


 エルちゃんはバットを構えたままこちらを見ている。敵意というよりも、怯えだろうか。バットが微妙に震えている。俺のことをものすごく疑っている目だ。


 ゴミ箱になにかあったとか言ってたな。いったいなんのことだろう?


 クローゼットの近くにあるゴミ箱に視線を移す。


 黒いゴミ箱のフチに血の付いた袖の切れ端が引っかかっていた。止血したときに巻いていたアレだ。


 やっちまった。そういえば、そこへ捨てたんだっけ。血が付いた袖をみて、俺が噛まれたと思っているのだろう。事実噛まれてはいるんだけど。でも、どうやって弁明すればいいのだろうか。とりあえず、正直に話をするか。


「えーと、説明してもいいかい?」


「はい、お願いします」


 まず、右腕の袖をまくった。そして噛まれた跡を見せる。


「騙すつもりはなかったんだけど、実は俺って一度噛まれているんだよ。でも、それは1週間前だ。その服に付いてる血もずいぶんと乾いているでしょ? 自分でも不思議なんだけど、なぜかゾンビにならないんだよね。いまからそれを調べようとしているんだけど、ゾンビにならない可能性のことを何か知ってたりする?」


 エルちゃんはものすごく目を見開いている。そして俺の右腕を凝視した。


「本当だ、噛まれてる……1週間前、つまりパンデミックがあった日ですね?」


「そうだね。実はマンションの中で噛まれたんだ。外へ出て、戻ったらなぜかエレベーターの中にゾンビがいてね。そうそう、俺を噛んだ幼女はマンションの外へ放り投げたからもうマンションにはいないと思うよ」


「噛まれた……幼女……ゾンビ化しない……? あ! もしかして、センジュさんは適合者なんですか!?」


 適合者ってなんだ?


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