表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/93

心地いい生活

2019.06.23 3話投稿(1/3)

 

 高天原農業大学に物資を取りに行ってから三日経った。


 目を覚ましたばかりだけど、いい匂いが漂ってくるのは隣の部屋でエルちゃんが朝ご飯でも作っているのだろう。昨日の時点で結構な食糧を集められたから今日は奮発しているのかもしれない。


 少しだけぼーっとする頭で今日の予定を考えた。


 今日の午後、生存組合アマゾネスの幹部とやらがこのマンションに来ることになっている。


 大学で会ったナタリーさん達はアマゾネスに戻り、意見をまとめてからこちらに出向くそうだ。一部の幹部は男嫌いなので、俺が「女王様」を探す手伝いをするのは嫌がるかもしれないから説得すると言っていた。


 意見が決裂したら襲われたりするのだろうか。ただ、マイケル君はこっちにいるのだから、少なくともナタリーさんはこっちの味方だろう。マイケル君は裏切りそうにないし、大丈夫だとは思う。


 ただ、俺、嫌だとは言わなかったけど、やる、とも言ってないんだけどな。ナタリーさんは、もちろんタダじゃないとも言っていた。集めた物資を報酬としてくれるそうだ。おそらく報酬についても意見をまとめる内容に含まれているのだろう。


 俺一人だけなら色々強気に出れるが、エルちゃん達がいる。あまり乗り気はしないが、アマゾネスは結構大きな組合だ。仲良くしておくのは悪くないかもしれない。いつかエルちゃん達がそこにお世話になる可能性だってある。出来るだけ恩を売っておこう。


 でも、エルちゃんは俺と一緒に田舎に行くって言ってたな。軽い感じにそれを聞いてみたら、俺が何をいってるのか分からない、って感じの顔をされた。


 エルちゃんの中では色々なことが決定事項になっている。ちょっと、いや、かなり怖い。すでに後戻りできない感じになっている気がする。完全なサイコパス……いや、ストーカーかな?


 どうしたらいいのか良く分からない。むしろ俺が田舎に行かないでここにいたほうが、多くの人に関われて、エルちゃんはまともになれそうな気がする……そして俺も。


 自分の不幸な人生や殺し屋をやっているということで、極力、人との関りを絶っていた。それはそれで良かったが、今の他人との関りのある生活というのが、とても心地いい。


 改めて考えると、殺し屋の仕事は他人のためじゃなく、自分のためにしてたと思う。自分の不幸を他人にも味あわせたくて、悪人を殺していたにすぎない。つまり八つ当たりだ。


 仕事を辞めて、今みたいに人に頼られたり、頼ったりする生活をすると、あの頃の自分が恥ずかしくなる。歪んでたな、と。


 こんな状態から、また人との関りを絶って生きていけるだろうか? 心地よいぬるま湯のようなところにどっぷりつかっているこの状態から、すべてを捨てられるほどの精神力は今の俺に――ふいにインターホンが鳴った。


 そしてドアの向こうからエルちゃんの元気な声が聞こえてくる。


「センジュさん、おはようございます。朝ごはんが出来ましたよ! 芸術的な感じなんで、急いで起きてください! 皆ももう集まってますよ!」


 身だしなみを確認してからドアを開けて廊下へ出た。


「エルちゃん、おはよう……芸術的な朝ごはんって何?」


「ご飯にお味噌汁、お漬物にのり、生卵に納豆です。ネギもありますよ」


「それは芸術的だね」


「焼き魚がないのは悔やまれますが、生魚は危なそうなので止めました。でも、生卵は新鮮ですよ!」


 たぶん、大学の研究棟から持ってきた鶏の卵かな。


 まあ、それは後だ。まずは朝食を頂こう。色々考えるのはその後だな。




 皆で食べる食事というのはいい。おかずの取り合いになるけど。昨日の唐揚げは、殺し屋の俺より速く動けていた人もいた。


 さすがにマンションに食堂はないので、じいさんの部屋を食堂みたいに変えて、今はそこで全員が食べるようにしている。じいさんは病院から帰ってこないから別に構わないだろう。


 そしてご飯を食べながら今日の予定を色々話す感じだ。一番仕事をしていないのは俺なのだが、どうやら荒事専門と思われているから問題ないようだ。


 それ以外だとゾンビ達への命令に問題ないか確認しているくらいかな。あと、物資のチェックとか。


 俺以外は皆でマンションをよりよく住めるように改良中だ。


 大学の研究棟にあった種とか苗とかをじいさんに確認してもらったところ、問題ないという結果になった。マンションの屋上に菜園を作ってそこに植えるみたいだ。


 それにサクラちゃんの依頼でゾンビたちにも農業をやってもらうことになった。


「ゾンビの食料はゾンビに作らせましょう!」


 そんなふうに言ってたけど、たくさん作らせて貰うつもりだと思う。こういうことがZパンデミック計画の根本だったのだろうか。しかし、ゾンビとは言え、無理やり働かせるってどうなんだろう? うちの会社は大っぴらに出来ないほうのブラックだけど、本当の意味でのブラック企業だよな。


 ゾンビの食料までこっちで作るのは無理なので、ちゃんと時間制限をした上でのお願いと言う命令をしておいた。意外と農業経験者が多いので何とかなるだろう。あと、頑張っているゾンビにはお菓子と言うボーナスを与えている。お菓子も探しておかないとな……。


 お菓子と言えば、じいさんが作ったという感染しているかどうか分かる体温計みたいなものを改良して食品などもチェックできるようになった。


 これさえあれば今後の物資補給がはかどるだろう。ただ、調べた結果、ウィルスは人間以外の動物や、水、それに食べ物に付着するようなことはないらしい。あくまでも人間専用のウィルスだとか。そのこともあって、警察署で見つけた食べ物も問題なく食べられることになった。


 ただ、ワクチンと言われていた物に関しては、確実にゾンビ化する物なので絶対に飲んだりするなとのことだ。傷口から入るのも危ないらしい。あれは全部病院の地下で厳重に管理することに決まった。危険ではあるが、あれを元にワクチンを作れるかもしれないということで、破棄はしないそうだ。いまではじいさんが主任みたいな感じになって調査を行っている。


 マコトちゃんはネットを使って色々と調べているみたいだ。特にほかの生存者や政府機関などの情報を得ようとしているらしい。それと、あのミカエルと呼ばれている色白の女の子が出ていた動画、あれの居場所を突き止めようとしているようだ。


 あの場所を見つけ出して、あの博士のゾンビに命令させようということに決まった。


 俺はどっちでも良かったけど、じいさんからも頭を下げて頼まれたのなら無下に断ることもできない。とりあえず、見つかったら命令するということになった。


 あと、この町がゾンビの中で有名になっている件は、もうどうしようもない。徐々に集まってきているようだが、ゾンビ同士は会話が出来るそうで、俺に命令されていないゾンビは近くに来させないということになっているらしい。


 ……正直、そのことが書かれていた紙を渡されたときは、意味が分からなかった。ゾンビって進化しているのだろうか。前よりもずいぶんと利口になっている気がする。


 そういえば、おやっさん達は明日にでも退院できるらしい。というか、病室で大人しくしているのが無理っぽい。それに病院に来る人が増えたから、病室を空けることになった。


 そしておやっさん達はこのマンションに来ることになっている。


 拠点が病院にいた傭兵達に荒らされたのでゾンビを防げなくなったとか。必要な物を持って来てこっちに移り住むとか言ってたな。


 俺としてもおやっさんが近くにいるのは何となくありがたい。警察署から持ってきた武器の類を管理してもらおう。約一名、銃を撃ちたくてしかたない人がいるから危険だし。


 さて、アマゾネスの幹部が来るのは夕方ごろだと連絡があったし、それまではゾンビたちの確認をしてきますか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ