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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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女王様

2019.06.16 3話投稿(1/3)

 

 一時間ほどかけて、研究棟からすべてのゾンビを外に出した。


 エルちゃんが指摘した通り、ここには男のゾンビしかいない。しかも明らかに学生でない歳の男性も一緒だ。おそらくこの学校に避難してきた人達だと思うんだけど、なんでこんなことになっているのだろう?


 そんなことを考えていたら、モミジちゃんがそばに寄ってきた。


「センジュさん、皆が研究棟にある物資を取りに行くって言ってますけど、もう大丈夫ですか?」


「えっと、そうだね。もう構わないけど、食べ物とかに手を出さないようにしてもらえる? この人達がなんでゾンビになったか分からないからね。もしかしたら警察署のようなことが起きてるかもしれないから」


「はい、わかりました。外に持ち出すだけで、食べたりはしないようにしますので」


 モミジちゃんがそういうと、ハッピートリガーの皆に指示をだした。どうやら男性チームが中へ入って、サクラちゃんとモミジちゃんはここに残るようだ。


「二人は行かないのかい?」


「実は学部が違うのでこの中って良く知らないんですよ。あと、お姉ちゃんを中に入れるとなんでも口にしそうなので中へは入れずに監視してます」


「センジュさん、最近モミジが生意気なんですけどどうすればいいですかね? 小さい頃はあんなに可愛かったのに……」


「俺って一人っ子だからそういうのはちょっと」


 危ない。「ちゃんとしたら?」と思わず口にしそうになってしまった。


「ちゃんとしたらどうですかね?」


 エルちゃん……せっかく俺が言うのをとどめたのに。


「エルちゃんもモミジと一緒で結構厳しいよね。でも、私にも良いところはあるんだよ!」


「お姉ちゃんの場合、その良いところも悪いところですべて帳消しになってるの!」


 そのまま二人で言い争いが続いているけど、険悪な雰囲気ではないからいつものことなんだろう。あわてんぼうの姉としっかり者の妹か。サバイバルゲームを一緒にしているわけだし、仲はいいんだろう。


 ……そうだ、皆に確認しておかないといけないな。


「サクラちゃん、モミジちゃん、それにマコトちゃんもちょっといいかい?」


 エルちゃんを含めた四人が俺のほうを見た。


 こういうことはちゃんと聞いておかないとな。研究棟にいる皆にも後で聞こう。


「君達のご家族はどうしているんだい? その、もしかしたら思い出したくないことかもしれないけど」


「私の親は放任主義だったから、どうなってるか知らないかな。ハッキングで手に入れたお金をあげてから会ってないよ。正直、どうでもいいかな。向こうも同じだと思う」


 マコトちゃんは結構クールだ。無理をしているってわけじゃなさそうだけど、そんなんでいいのかな?


「うちの両親もどうなってるか分からないかな。サバイバル場から逃げ出すときにスマホとか置いてきちゃったし。親のスマホ番号とか覚えてないから連絡もできなくて……」


「たぶん、どこかの避難所にいるとは思うんですけど、正直期待はしてないです」


 サクラちゃんも、モミジちゃんも気丈には振舞っているけど、何となく辛そうにしている。そりゃそうだよな。


「なら、マコトちゃんはともかく、サクラちゃん達のご両親を探そうか?」


 二人はこっちに期待した目を向けた。でも、それは一瞬だけで、二人は同時に顔を横に振った。


「いえ、探すにしてもまずは自分たちの生活基盤を何とかしないと。私たちが両親のところに合流するにしても、こっちに呼ぶにしても生活できないんじゃ意味がないですからね」


 モミジちゃんの言葉にサクラちゃんが頷く。


 自分とそれほど年齢は変わらないのにしっかりしているな。本当ならすぐにでも探しに行きたいだろうに。それともほかの皆に遠慮しているのかな?


 でも、確かにモミジちゃんの言う通りか。まずは生活基盤をしっかりしないと意味がない。ならまずはあのマンションで安全な生活ができるようにしないと――考えていて思った。俺は何を考えているんだろう?


 色々どうでもいいと思っていても、そこまで非情になり切れないのは俺が甘いのだろうか。エルちゃん以外にそこまでする必要はないと思いつつも、なんとなく助けてやりたくなってしまう。


 本来であれば、皆とは関り合うこともない間柄だ。でも、世界がこんなことになって何の因果かこんなことになっている。俺はその縁は大事にしようと思っているのかな?


 それとも本当は俺が皆と一緒にいたいのか? 皆と一緒にいたい理由を探しているという可能性も否定は出来ない。それともご両親を探してあげるという理由を付けて田舎へ行くのを遅らせている?


 ……自分が良く分からない。どれも俺の本心のような気がする。田舎に行って誰とも関わりたくないと思っている反面、皆と一緒にいたいとも思っている気がする。


 こんな状況ではあるけれど、こんなに普通の人と関わったのは殺し屋になってからは初めてだからな。自分でも知らぬうちに喜んでいるのかもしれない。


「あの、センジュさん、どうかされました?」


「あ……ちょっと考え事をね」


 いかんいかん。エルちゃんが俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。いつの間にか結構考え込んでしまったようだ。


 考えていたことは保留にしよう。マンションの基盤が整ってから考えればいい。今は余計なことを考えている状況でもないしな。


「さて、結構時間が経ったと思うけど、皆はまだ戻ってきてないのかな?」


「そうですね。結構広い施設なので時間がかかっているのかも――あれ?」


 モミジちゃんが不思議そうな顔をして周囲を見渡した。


「どうかしたのかい?」


「いえ、今、ヒヒーンって馬のいななき声が聞こえませんでした?」


「モミジったら何を言ってるのよ。馬なんているわけ……ああ、ここって畜産的なこともしてるからもしかしているの? 馬刺しいっちゃう?」


 馬のいななきから馬刺しを連想するってすごいな。


 それはいいとして、確かになにか蹄の音が近づいてきているような?


「あ、あれじゃないですか?」


 エルちゃんが指したほうを見ると、確かに馬がこちらへ向かって走ってきている。でも、誰かが乗ってないか? それに馬の蹄の音が結構多い。相当な数がいるように思える。


 ……危険かもしれないな。


「皆、研究棟へ逃げて」


 そう言ったが、間に合わない。最初に見えた馬がすぐそこまで来ている。


 近くで見ると、馬には女性が乗っていた。いわゆるウェスタン的な服装をしている女性だ。服装もそうだけど、一番気になるのはリボルバー式の銃が腰にあることか。


 とりあえず、皆の前に壁として立ち塞がる。


 馬が目の前で止まり、ヒヒーンと前足を上げて立ち上がるポーズをする。近くで見ると相当な迫力だ。こんなのに踏まれたら確実に死ぬ。


 そして馬上の女性は腰の銃を抜き、銃口をこちらに向けた。


「見つけたぞ、適合者! 言え! 女王様をどこに隠した! 言えば苦しまずに殺してやろう!」


 何を言っているのか分からないところもあるが、俺が適合者であることを知っているのか? それにこの女性は一体誰だ……?


 女性はみたまんまカウボーイ……いや、カウガールか? ウェスタン的な格好をしている。見た目は20代前半くらい。それにウェーブのかかった髪が金髪だ。顔立ちからみても外国の人なのだろう。その割にはずいぶんとこの国の言葉が上手いけど。


 いや、それはどうでもいい。俺のことを疑いもなく適合者と言った。そして女王様はどこだと言い出したわけだが、そもそも女王様ってなんだ?


 とりあえず、色々情報を聞き出さないといけないな。あの銃はたぶん本物だが、女王様とやらを探しているならいきなり攻撃してくるようなことはしないだろう。


「えっと、適合者って俺のことかい? 俺はそんなんじゃない。それに君は何者だい?」


 とりあえず嘘をつく。相手もはったりの可能性がある。出来るだけ手札は見せないほうがいい。


「なに……? いや、そんなはずはない! この大学で女を侍らせている男が適合者だという情報を得ている! 見た限りお前の周りには女しかいないではないか! お前が適合者で間違いない!」


 何を言っているのだろう? 俺の周りにはハッピートリガーの皆も……いないね。そういえば、研究棟で物資の調達をしていたっけ。タイミングが悪いな。


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