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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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町内で評判

2019.06.09 3話投稿(1/3)

 

 エルちゃんにマコトちゃん、そしてハッピートリガーのメンバーを連れてマンションへ戻ってきた。


 マンションに戻って来て一番驚いたのは自分だと思う。


 ものすごくゾンビがいる。


 道にあふれているというほどではないが、マンションの周りに少なくとも百体以上のゾンビがいる感じだ。


 どう考えても俺がこのマンションへ行けと命令していないゾンビもいるのだが……まさかとは思うが、ゾンビが勝手にやってきた?


 唸り声とかを出さないように命令を出していたし、音に寄ってくるようなことはないと思うのだが、どうしてこの場所へ来たのだろう?


 人を襲わないゾンビと襲うゾンビがごちゃ混ぜにいるとなったら、俺はともかく皆が大変だ。一度、人を襲うなと命令しておくべきだろう。


 それに実験しておきたいこともあった。それは救急車の拡声器を使うことだ。拡声器越しでもゾンビが俺の命令を聞いてくれるかどうか確認しておかないとな。


「あーあー、てすてす。大人しくしろ。人を襲うな」


 救急車の拡声器から俺の声が出た思う……だけど、唸っているゾンビがいるな。あの距離で聞こえなかったということはないだろう。もしかして拡声器での命令は効果がないのか?


「ダメみたいですね。センジュさんの命令を聞いてくれていません。拡声器だとなにか違いがあるんでしょうか?」


 エルちゃんの疑問にマコトちゃんが頷く。


「もしかしたら肉声の命令しか聞いてくれないのかも。拡声器とか録音した命令とかじゃゾンビは認識できないのかもね。広範囲に命令を出したいならメガホンを使うしかないんじゃない?」


 念のため、自分の声を録音した命令をマコトちゃんのドローン越しに周囲へ展開したが、ゾンビは全く命令を聞かなかった。どうやらマコトちゃんの考察通り、肉声の命令しか聞いてくれないようだ。


 意外と制限が多いな。それでも十分ではあるけれど。


 時間を掛けて周囲のゾンビたちに命令を下した。とりあえず、マンションに住んでいたゾンビ以外は目の前の大きな通りに整列さておく。


 そしてマンションに住んでいたゾンビに聞いてみた。なんでこんなにゾンビがいるのかと。そうしたら意外な答えが返ってきた。


「ここは食べ物をくれるし、ゾンビにとっていい場所だと町内で評判です。口コミで集まってます」


 そんなことが書かれた紙を渡されて、思考が止まってしまった。皆もそうだったのだろう。サクラちゃんだけは大笑いだったけど。


 町内で評判ってどういうこと? 確かにゾンビにもお菓子をあげたりしたけど。大体、口コミってなんだよ。ゾンビ同士ってどういう意志の疎通をしているんだろう。


 不思議がっていたら、モミジちゃんが何かを思い出したように手を叩いた。


「よく考えたら、ゾンビ達って映画と違って人を食べないですよね? 噛んでゾンビにしようとはしますけど、食べることはなかったかと。もしかしてお菓子を上げていれば十分?」


 そういやそうだな。そういうグロテスクなシーンを見たことはない。確かに血の跡はいくつもあるけど、捕食的なことはしていないようだ。どちらかと言うと、返り討ちにあったゾンビが倒れているくらいだ。


 ゾンビたちは仲間を増やそうとしているだけで、人間を食べようとしているわけじゃない? むしろ普段何をしているのか気になるな。生前の記憶に従って動いているという話は聞いたけど。


 気にはなるけど、まずはマンションに入って皆にくつろいでもらうか。部屋割りとかも決めないといけないしな。




 マンションに入り、マコトちゃんとハッピートリガーの面々には好きな部屋を使っていいと伝えた。


 その結果、最上階の四部屋は俺、エルちゃん、じいさん、マコトちゃんの部屋になった。


 そして一つ下の十階は、イノシカ姉妹が一部屋、残りの三部屋を五人で使う感じになるようだ。一人一部屋を使えばいいと思ったが、同じフロアにいたほうがなんとなく安心できるという理由で全員が十階に留まるらしい。


「そのうち、電気も水道も使えなくなると思うけど、しばらくは持つと思うから自由に使って。ただ、問題は食料。はっきり言って、この人数だと、2日で尽きるね」


 これは早急になんとかしないとな。おやっさんのくれるトラックを待っている場合じゃない。それに俺が一人で食料を調達してくるという状況もダメだろう。


 俺はいつかいなくなる。それまでにほかの皆にも色々出来るようになってもらわないと。


「このマンションで安全は提供できるけど、それ以外は自分たちで頑張ってもらいたい。危険だけど、食料確保を手伝って貰うからよろしくね」


 ……よかった。皆が頷いてくれた。こういう時に何もしない奴とか出てくると内部抗争が勃発するからな。映画で良くあるから注意しないと。


「それでさっそく相談なんだけど、この辺りで食料を手に入れられるところってあるかな? 郊外にあるショッピングセンターとホームセンター以外で」


 そこへ行くにはちょっと危険だ。最初の防衛で失敗してゾンビだらけみたいだし、行くなら俺とじいさんくらいだろう。残念ながらじいさんは病院で色々やってるから俺だけだな。それにトラックがまだない。物資がたくさんあっても持って来れないんじゃ意味がないからな。


 しばらく皆は唸っていたが、モミジちゃんが手をあげた。


「この辺りじゃないんですけど、私たちの通っている大学はどうでしょう?」


「大学……? 大学に食料があるかな? ああ、学食的な?」


「いえ、私たちが通ってる大学って農業とか畜産系なんですけど、勉強用や研究用に色々とあるんですよ。それにこのマンションに住むなら屋上に菜園を作るのもアリかな、と。土や肥料、それに種とか苗を運び込まないといけませんけど」


「それはいい案だね。屋上はそんなに広くないけど、野菜とかつくれたら多少は食料の心配がなくなる。それに牛や豚は難しいだろうけど、鶏なら飼えそうな気がするからね」


 ハッピートリガーの皆はそういう勉強をしているので、色々やれるそうだ。なんて頼もしい。


「あのー、それはやるとして、センジュさんがゾンビを操ればこのマンションで籠城的なことをしなくても済むんじゃないですか? この町一帯のゾンビに人を襲うなと命令を下せばそれで安全は確保できると思うんですけど?」


 サクラちゃんがそんなことを言い出した。皆も俺を見つめているようだ。


 このマンション周辺だけじゃなくて町全体か。でも、ゾンビがどれだけいるか分からないし、安全な場所な範囲が広くなればそれに伴って人も増える。それは逆に危険な気もするな。


 それにさっきみたいに安全なゾンビに危険なゾンビが紛れ込む可能性がある。なぜかこの辺りは町で評判の場所らしいし。


 第一、俺はここにずっといる訳じゃない。


「それは確かにそうなんだけど、ちょっと危険かな。安全地帯と言うのが分かれば、その場所に人が増える。人が増えれば色々と問題も起きるものだ。小さいコミュニティでいた方が何かと安全だと思うよ。それに――」


 言っておこう。俺は田舎のほうへ行くつもりだと。


「センジュさんは私と田舎のほうへ行くのでずっとゾンビに命令しておくのは難しいんですよ」


 俺の言葉をエルちゃんが代わりに言ってくれた。でも、おかしいよね? 俺自身が初耳なことがあるんだけど?


「えっと、エルちゃん? 概ね間違いじゃないんだけど、一点だけおかしいところがあるよね?」


「田舎じゃなくて首都へ行くんですか?」


「そこじゃなくて、エルちゃんも一緒に行くの?」


 エルちゃんが本当に不思議そうな顔をした。口には出してないけど「何言ってるんですか?」みたいな顔をしている。それは俺がやるべき顔だよね?


「あの、センジュさん。言いにくいのですが、未成年との、その、そういうことは、文明がちょっと崩壊気味でもやめておいた方がいいかと。あと、二年待ちましょうよ。あっという間ですから」


「サクラちゃん、ちょっと黙ろうか? そういうんじゃないし」


 まだロリコン疑惑があるのだろうか。高校生くらいはもう大人だとは思うけど、確かに法律上はまだ子供だ。その法律ももう機能していない状況ではあるんだけど。


 仕方ない、とりあえず色々と説明しておこう。そしてエルちゃんとの意識のずれも修正しておかないとな。


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