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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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調査依頼

2019.06.02 3話投稿(3/3)

 

 救急車に乗ってアスクレピオス記念病院まで戻ってきた。


 行きとは違い、帰りは十人だったから救急車は結構狭かったけど、特に何の問題もなく帰って来れた。


「それじゃ俺はじいさんのところへ行ってくる。エルちゃんとマコトちゃんは、サクラちゃん達に食事でもさせてあげて。ああ、あと洗濯機もどこかにあったはずだから案内を頼むよ」


 サクラちゃん達が雄たけびをあげたけど、食べ物のほうなのか、それとも洗濯のほうなのか。まあ、どっちでもいいけど。


 さて、じいさんはどこかな。




 スマホで確認したら、じいさんがいるのはおやっさんたちの病室だった。


 警察署から持ってきたウィルスと思わしき液体が入った注射器と、そこにあった食料、それに武器である銃を一丁だけ持ってきた。銃に関してはおやっさんが目覚めたら見てもらおう。


 警察署のゾンビはそのまま警察署を警備してもらった。ほかに誰かが来て余計なことをするかもしれないから、そのための警備だ。結構な数がいるからあそこへ突撃しようと思う奴はいないだろう。


 しかし、食べ物の量がそろそろ危ないはずだ。ゾンビたちにお願いはしているけど、自分でも何とか調達しないとな。


 そんなことを考えていたら、病室の前に到着した。


 一応ノックしてから中に入る。


「じいさん、ちょっと調べてもらいたいものがあるんだが――おやっさん」


 おやっさん達が上半身だけ起こして、ベッドに腰かけていた。いまだに点滴はしているようだし、包帯で巻かれている箇所も多いが、その顔は笑顔だ。


「よお、センジュ。おかげさまでちょっとは元気になったぜ」


「そりゃよかった。でも、すまない。俺がアイアンボルトの名前を出したからこんな目にあわせてしまった」


「なあに、別に構いやしないさ。俺達は殺し屋の仕事を手伝っていたんだぜ? 不可侵条約はあったが、いつだって襲われる可能性はあったんだ。まあ、気にしてるって言うなら、俺達が田舎へ行くときの物資集めを手伝って貰おうか」


「それは俺も集めないといけないから、もちろん協力させてもらうよ。そうそう、もらえる予定の車があったはずだけど、まだ有効か? できればトラックがいいんだが」


「うちのガレージにはないが、そんなもんはその辺の道路にいくらでも転がっているからな。壊れていても動くようにしてやるよ。でも、怪我が治るまでは無理だからちょっと待ってくれ。まあ、ビールを持ってきてくれたらすぐに取り掛かってもいいぜ?」


 そう言っておやっさん達は笑い出した。


 おやっさん達はどうやら俺のせいで襲撃されたのを気にしていないみたいだ。いや、気にしていないわけじゃなくて、気にしていないように振舞ってくれているんだろう。


 それにおやっさんはあの傭兵に俺のことを何も話さなかった。デカい借りが出来てしまったな。


「お主らの傷は完全にふさがっていないんじゃから、あまり大きな声を出すな。あと、ビールなんてダメに決まっておろうが。まさかとは思うが、ビールが欲しくてナースコールのボタンを押したんじゃないだろうな?」


 じいさんがそう言うと、おやっさん達は顔を横にそむけた。


「おやっさん……」


「ま、まあ、いいじゃねぇか。ああいう物を飲んだ方が早く治りそうだろ? あ、そうだ。センジュ、悪いと思ってるなら、どこかでビールを持って来てくれよ、それでチャラだ」


「探しておくから、入院中は安静にしてろよ。退院したらたらふく飲ませてやるから」


「おお、話せるな! なら、すぐに退院してやるぜ!」


「だからお主ら大声を出すなと言うに。それで開いた傷は治さんぞ?」


 じいさんからしたら困った患者なんだろうな。とはいえ、確かに安静にはしていてほしい。


 ここで爺さんに警察署での話をしようかと思ったが、俺がここにいるとおやっさん達も安静にしていられないか。


「それじゃ、おやっさん、じいさんを連れて行くぞ。ビールなら探しておくからちゃんと安静にしていろよ」


「おう、もちろんだ。それじゃひと眠りするか。ゾンビに怯えずに寝れるのは悪くないしな!」


「ああ、ゆっくり寝てくれ」


 そう言ってからじいさんと病室を出た。


 思ったよりも元気そうだった。怪我はあるだろうが、それほど長く入院する必要もなさそうだ。快気祝いにはビールを渡してやりたいから、そろそろ資材の調達に行こう。近場ならあの救急車でも大丈夫だろう。


 でも、その前に爺さんに報告だな。


「じいさん、スマホでも説明したが――どうかしたのか?」


 じいさんが廊下の一点を見つめている。あの医者が死んだ場所か?


「お主らが警察署へ行っている間に、ここで天使にあったんじゃ」


「……お迎えが来たという話か? そういうときは死神だぞ?」


「違うわい。動画に出ていた天使じゃよ。ほれ、あの博士とやらを噛んだ色白のお嬢ちゃんじゃ」


 確かミカエルとか言われていた子か。その子がここにいた?


「それは驚きだが、なんでまた?」


「理由は知らんが、どうやら適合者を探しているようじゃった……無論、お主のことは言わなかったぞ。だが、これからお主に接触してくる可能性はあるかもしれん。気を付けるんじゃな」


「気を付けるって、何に気を付けるんだ?」


「それはわからん。じゃが、あの子は相当強い。儂の本気を初見で躱しおった」


 じいさんの本気? もしかして腰にぶら下げている刀か? じいさんの本気がどれほどの物かは知らないが、俺の見立てではそうとうな手練れだろう。その攻撃を躱した、か。


 なるほど。そんな子が適合者、つまり俺を探している。理由は分からないが、確かに気を付けたほうがいいのかもしれないな。


「わかった。気を付けよう……ちなみにその刀ってどうしたんだ? 白衣に刀って似合わないけど」


「これは儂の刀じゃ。ここを追い出されたときに部屋に置いてきてしまってな。それを取りに来たんじゃよ。これがないと安心できないからの」


「そんな理由で病院についてきたのかよ」


「もちろん、それだけじゃない。儂の診ていた患者がいたんじゃ。残念ながらいなくなっておったがな」


 爺さんの患者? ということは殺し屋か?


「いなくなったって、死んだって意味なのか?」


「いや、昏睡状態だったんじゃが、儂がいない時に目を覚まして出て行ってしまったようじゃ。毒を食らって生死をさまよっていたんじゃがな」


「毒を食らうような殺し屋か……3流だな」


「そうじゃのう。巧妙に毒を仕込まれたか、よほど信頼している相手に盛られたのか、状況は分からんがな。それに治療したと言っても毒が完全に抜けたわけじゃないはずじゃ。それなのに外へ行ってしまうとは、よほどやらなくてはいけないことがあるのか……まあ、それはもうどうでもいいわい。で、話とはなんじゃ? スマホでも一応聞いてはおるが」


「ああ、これとこれだ」


 スーツの内ポケットからワクチンと言う名のウィルスが入った瓶、それに同じ倉庫にあった非常用の食料を取り出した。


「警察署で見つけたんだが、どうやらこれをワクチンだと思って注射したらしい。そうしたらゾンビになったそうだ。そしてそんな場所にあった食料だ。それも怪しいと思ってこれだけ持ち帰った。この薬と食料を調べてもらえないか?」


「なるほどのう。なら調べてみるか。ウィルスの薬品があるなら、そこから本物のワクチンが作れるかもしれないからのう。食料に関しても、ちゃんと調べておこう」


「よろしく頼む。それじゃ俺はマンションに帰る。連れ帰ってきた子たちの面倒はよろしく頼むよ」


「何言っとるんじゃ。お主が連れてきたんだからお主が面倒を見るべきじゃろう? 大体、この病院は結構な患者が来ていて、ほかの者の面倒を見ている暇はない。マンションへ帰るなら、全員連れ帰ってくれ。儂は患者の面倒を見ないといけないし、ウィルスや食料の調査もあるから帰れないがの」


 あのマンション、人もゾンビもどんどん増えていくんだけど、どうしたものかな。


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