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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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警察署

2019.05.26 3話投稿(1/3)

 

 あの医者が死んだ翌日、俺はエルちゃん、マコトちゃんと救急車に乗ってドライブをしている。


 行先は警察署。そこにある物資、そして銃器を取りに向かっているわけだ。


 じいさんが病院で捕まっていた人達から聞いた話だと、警察署は略奪されていないらしい。ただ、ゾンビが多くて近寄れない。入口は閉まっているようだが、誰かが籠城しているかどうかも分からない。でも、警察署になら銃器があるはず。籠城しているならゾンビたちが倒れているはずだが、そういうことはなかった。


 つまり誰もいないんじゃないかって話だ。


 そこで、爺さんになんでもいいからあるものをすべて持って来てくれと頼まれた。銃器を渡すつもりはないが、非常食などがあれば、多少はこの病院も持ち直すだろうとのことだ。


 なんで俺が行くんだと聞いたら「お主以外に誰が行けるんじゃ?」と返された。出来る出来ないの話じゃなくて、俺がそうしなくてはいけない理由を聞いたのに。


 とはいえ、アスクレピオスは今混乱状態に陥っていて、以前のように機能していないらしい。その原因を俺が作ったわけで、機能が回復するまでは助けてやってくれないかと言われた。


 それにおやっさんたちの治療をほかの医者にもやらせるつもりだから、ギブアンドテイクということで頼むと頭を下げられた。そもそも襲ったのが病院側なんだけど、それを言っても仕方ないので了承した。


 エルちゃんとマコトちゃんを連れてきたのは、俺と一緒のほうが安全だから、とじいさんに言われたからだ。こんな世界で周囲のゾンビを鎮静化できるのは強い。つまり一番安全だ、という理屈だ。


 それにエルちゃんはともかく、マコトちゃんのハッキング能力は必ず役に立つと言われた。病院でも結構な活躍だったらしい。そんなわけで、二人を連れてきた。


 でも色々と釈然としない。


 これからもずっと何かを依頼されるのだろうか。黙ってどこかへ行ってしまいたいな。しかし――


 エルちゃんとマコトちゃんをバックミラーでちらっと見ると、二人で一袋のお菓子を食べていた。


 食料事情が厳しくなっている。お菓子は結構あるのだが、あれは非常食としたい。メインで食べるものはちゃんとしたものを食べさせてやりたいからな。それに俺も米を食いたい。


 面倒だけど、仕方ない。病院にいる奴らに関しては悪い奴らじゃないとはいえ、積極的に助けてやりたいとは思ってない。でも、二人は別だ。一応、俺が面倒を見ているわけだし、俺がいる間は出来るだけひもじい思いはさせたくない。


 警察署で食料を見つけたら最初に食べさせてしまおう。味までは保証しないが、お腹は膨れるはずだ。そして二人や俺、そしてじいさんの食料は確保しておこう。


 あとは病院にいたゾンビ達に期待だな。


 食料の量販店にゾンビ達を送った。賞味期限切れ以外の食べ物を持ってくるようにお願いしているが、ちゃんと持って来てくれるだろうか。それ以外にも色々探索させているから、なにかしらの食料は集まってくると思うんだけど。


「すみません、センジュさん。センジュさんもお菓子を食べますよね?」


 エルちゃんが開いたお菓子の袋をこちらに見せながら微笑んでいる。


「いや、いいよ。二人で食べて」


「そうですか、センジュさんはコンソメ派ですか。のり塩も悪くないと思うのですが」


「そういう意味じゃなくて、食料は少ないんだから、二人で食べてっていう意味でいったの。ちなみに俺はうすしお派」


「なるほど。敵でしたか」


「なんで?」


 そんなどうでもいい会話をしながら救急車を走らせた。


 結構な距離を運転してきたわけだが、意外と道路は問題ない。確かに壊れた車とかが道ぞいにあるけど、走れないほどではないな。もしかするとドラゴンファングの奴らがバイクを走らせるために整備したのかも。


『100メートル先、交差点を右折です』


 なんか普通の車にはない感じのごついカーナビがアナウンスしてきた。普通のカーナビにはない色々な機能がありそうだけど、目的地を指定しただけだ。患者の症状をいれたら対応法までいいそう。


 それに救急車というのは色々ボタンがあって嫌だ。普通の車にはない色々な機能がありそうだけど、俺は小心者だから使わない。だいたい、音が鳴ったらゾンビがこの救急車に集まってきそう。下手に変なボタンを押さないように注意しないと。


「センジュは車の運転が上手いね。私、車酔いが結構激しいんだけど、いまのところ快適だよ」


 今度はマコトちゃんが話しかけてきた。


「そりゃどうも。とはいえ、ほかに車なんて走ってないから当然といえば当然だと思うけど。制限速度も守ってるし」


「ああ、そうなんだ……というか、殺し屋って運転免許証を持ってるの?」


「そりゃまあ持ってるよ。路上試験中に殺し屋が襲ってきたから何回か落ちたけど」


「……それ、殺し屋のジョーク?」


「いや? 本当のことだけど?」


 あの時の教官には悪いことをしてしまった。まだ元気――生きているだろうか。


 そんなことを考えていたら、警察署が見えてきた。


 ……なんかすごいな。入口付近に大量のゾンビがいる。なんでこんなにいるんだろう?


 とりあえず、駐車場の端っこに停めてから中へ入ってみるか。


 駐車場に車を止めている間に何体かゾンビがこちらに気づいて近寄ってきた。救急車を出てからゾンビたちに人を襲うな、と命令する。あと、ここで救急車を守れとも命令した。


「二人とも、もう大丈夫だよ」


 救急車を下りて周囲を確認してから、二人に声を掛けた。


「ずいぶんとたくさんのゾンビがいますね?」


 エルちゃんが警察署の入口を見ながらそう言った。


「そうだね。ゾンビが欲しい物でもあるのかな? ドラゴンファングみたいに誰かを吊るしてはいないようだけど」


 確かに多い。100体くらいはいるような気がする。しかし、なんでこんなにいるのかね。ゾンビは人を見れば襲って来るけど、見失ったらどこかへ行ってしまうという話なんだが。


「あれ? なんか聞こえない?」


 マコトちゃんがそんなことを言いながら、周囲をキョロキョロしている。確かにゾンビのうめき声の中に、普通の人の声が混じっている気がする。でも、どこから?


 そう思った瞬間、嫌な気配を感じた。二人を両腕に抱えて救急車の影に隠れる。


「え、ちょ、センジュさん、何です? いえ、嫌ってわけじゃないんですけど、初めてはちゃんとした場所で――」


「エルちゃん、ちょっと黙って」


 今、狙撃されなかったか? 殺意がなかったから気付くのが遅れた。それに威力もない? かすかに音が聞こえただけで、銃の音ではないと思う。ただ、正確に俺の頭を狙ってきたから腕は確かだと思うが。


 狙撃できるポイントから考えて、上か? 警察署の屋上?


 救急車の影に隠れながら、持っている小さな鏡を反射させて屋上のほうを見た。


 ……どうやら迷彩服を着た奴らがいるようだ。そして手にはライフルのような持っている。こっちを狙っているようだ。


 こっちはこんな距離を正確に当てられるような銃じゃない。それに弾もあとわずかだ。ゾンビを狙わずに俺を狙ってきたということは、この警察署に近づけさせないための攻撃だろう。


 一度目はいつでもやれるぞと警告して、次からが本番か。


 ここで無理をする必要は全くないのだが、売られた喧嘩は買うべきか? でも、エルちゃん達がいるからな。危険なことに巻き込みたくないという気持ちもある。今更ではあるけど。


 仕方ない。ここは一度引き上げよう。武器の類や食料が手に入らないのは痛手だが、あるかどうか分からないし、必須というわけでもない。それに俺一人の時に出直すという手もある。


「どうやらここに籠城している奴らがいるらしい。屋上に迷彩服の奴らがいるし、さっき狙撃されたから危険だ。一旦引き返そう」


 そう言うと、エルちゃんは不思議そうな顔をした。


「はあ。でも、狙撃ってBB弾ですよね? あれって軍隊っていうかサバイバルゲームをする人たちでは?」


 エルちゃんはそう言って小さな球をいくつか見せてくれた。いつの間に拾ったんだろう? というか、いくつも落ちてる?


「えっと、そうなのかな?」


「たぶん、ですけど」


 あれ? ちょっと恥ずかしい勘違いをしている?


「あれって助けを求めてるんじゃないかな? 入口にゾンビが多すぎて逃げられないんじゃない? 籠城してるんじゃなくて、出られないんだよ」


 マコトちゃんに言われて耳を澄ますと、「助けて」「行かないで」「でも、ロリコンっぽいよ!」とか聞こえてくる。


 本当だ。助けを求めている。もしかして俺を狙ったのは気づいてもらうためか? 確かに声はしたけど、屋上に人がいるのは気づかなかった。


 殺し屋をやってる弊害だな。こんな簡単なことに気づかないなんて。


 なら助けてあげようかな。ロリコンっぽいと言ったやつにちょっと話があるからな。


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