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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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35/93

親子

2019.05.19 3話投稿(2/3)

 

 盾にしたゾンビに、盾にしたことと体を貫通させて医者を狙ったことを謝罪しておいた。俺を見る目が半眼になっていて、そこはかとなく非難めいている。まあ、いつも瞼を半分くらいは閉じてるけども。


 謝罪した後、医者の男のほうを見た。


 わき腹を抑えて苦しそうな表情をしている。かなりの前のめりになって俺を睨んでいるが、男の顔には脂汗が滲んでいて迫力がない。相当痛いのだろう。


 すぐさま致命傷というわけじゃないが、放っておけば死に至る。間接的に俺が殺したことになるので、仕方ないから応急手当くらいはしてやるか。でも、その前に廊下にだそう。この病室の安全を確保しないとな。


 ゾンビたちに命令して医者と傭兵の男を外に出させた。最後に全員が病室からでる。


 すると、スマホが鳴った。どうやらじいさんからの連絡だ。


「センジュ、見ておったぞ。無事に病室から出れたようじゃな。すぐに病室に鍵をかけよう」


「ああ、頼む。ところでじいさんは何をしているんだ? そもそもここへ何しに来たんだ?」


「それは後で話そう。実はこの制御ルームでマコトの嬢ちゃんが色々なものを発見してのう、それを対処せねばいかん。すまんが一緒に対応してくれんか?」


「内容によるが、どんなことだ?」


「どうもこの病院の地下、遺体安置室や別館などにゾンビや人を閉じ込めているようなんじゃ。ゾンビのほうは色々な調査のために必要だったのかもしれないが、人のほうは……」


 じいさんが言い淀んでいる。この医者の男が言っていた人道的や倫理的にまずいことをしていた可能性があるのだろう。もしかしたら、治療をすると称して人を集めていたのか?


「なんとなく察しは付いた。言わなくていいぞ。念のため確認するが、爺さんは知らなかったんだな?」


「当然じゃ。やりかねない、とは思っていたが、まさか本当にやっておったとはな。知っていたら殺してでも止めておった」


「過激だな、じいさん。だが、分かった。信じる。で、どうすればいい?」


 じいさんとエルちゃんは人のほうを助けに行き、俺は地下にいるゾンビたちに命令してマンションに連れて行くことになった。焼却処分ということも考えたそうだが、引き続きウィルス対策の研究をさせてもらうとのことだ。


 それはそれで死者を冒涜している感じではあるが、ゾンビをいいように使っている俺の言うことじゃない。でも、どんどんマンションにゾンビが増えていくんだけど。別のマンションにゾンビ用のマンションを作ろうかな。


 でも、なんでエルちゃんがじいさんと一緒にいくんだ?


「エルちゃんは必要か?」


「閉じ込められている人間の中には女性もおるじゃろう。女性がいたほうが安心するもんじゃ」


「ああ、なるほどね、ちなみにマコトちゃんは?」


「この制御ルームも電子ロックで施錠できるから安全じゃよ」


 なら大丈夫なのかな。それじゃ俺も地下の遺体安置室へ行こうかね。


 そうだ。その前にここにいる奴らのことを相談してみるか。


「この医者と傭兵はどうすればいいと思う? 医者の男は俺のマイルールが影響していて殺せないんだけど――」


「や、やめろ! 私の頭脳はお前なんかよりもはるかに価値がある――」


「同じだ。死んでしまえばな」


 いきなり医者と傭兵の声が聞こえたと思ったら、傭兵の男がナイフで医者の胸を刺していた。そしてすぐさまそのナイフを抜く。医者の胸から血が噴き出して止まらない。


「こ、この、私、が――」


 そしてうつ伏せで倒れ、血の海が広がった。あれはもうダメだろう。


 驚いたな。傭兵の男はもう動けるのか。いや、驚くべきところはそこじゃない。せっかく助けようとしていたのに何してんだ。結局俺が殺したも同然じゃないか。


「殺さないように戦っていたのになんてことするんだ。俺の苦労を返せ。むしろ俺が撃ったゾンビに謝れ。撃たれ損だろうが」


「……すまないな。だが、こいつを生かしておくわけにはいかない。仲間のためにも、俺のためにも……そして娘のためにも」


 話の流れから考えて娘さんがゾンビなのだろう。それを治療する薬をこの医者が作ると騙して男を使っていたわけだ。こいつも被害者なのだろうが、おやっさんたちをボコボコにしたんだから同情はしない。


 傭兵の男は俺を見つめている。まさかとは思うがやる気か? たしかに仲間をゾンビに襲わせたけど。


「適合者のアンタにお願いがある。頼めた義理じゃないが、どうか聞き遂げてくれないだろうか?」


「……本当に義理はないな。だが、話くらいは聞く。でもちょっと待ってくれ。今、電話中だ。じいさん、すまん、医者は傭兵が殺した」


「ああ、かまわん、かまわん。近くにいた元同僚を捕まえて聞いてみたんだが、あいつは全員を騙していたようじゃ。ゾンビを治す薬を作るとな。優秀な男だったが、死んだ方がマシじゃ」


 死んだ方がマシって酷い言われようだ。でも、俺もそう思う。生きてても仕方なさそうな奴だった。


「では、センジュ、地下のゾンビのほうは任せたぞ」


「ああ、とりあえず人を襲わないようにしてマンションのほうへ行くように指示を出す。ちなみにここにいるおやっさん達は大丈夫なんだよな?」


「うむ、病室はロックしたから安心じゃ。こっちが終わったら儂が治療をしよう」


「分かった。一応、そっちも気を付けろよ。こういう医者がほかにいるかもしれないし」


「そうじゃな。そこにいる男一人だけでこんな大掛かりなことはできまい。何人かは同じ思想の奴がいるんじゃろう。もちろん注意しておく。そっちは頼んだぞ」


 電話が切れた。


 さて、と。この男の話を聞くか。


「それで、俺に何をしてほしいんだ?」


「……娘のことだ。アンタはゾンビに命令が出来るんだろう? 娘に人を襲わないように命令してくれないか。あの子は虫も殺せないような優しい子なんだ。あの子が人を襲うなんてたとえゾンビになったとしてもさせたくない」


「分かった。もしかして地下の遺体安置室にいるのか? ならさっそく行くぞ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、その、言っておいてなんだが、いいのか?」


「もともとそこにいるゾンビを外へ連れ出そうとしていたところだ。それくらいのお願いなら聞いてやってもいい。だが、二度と俺達を襲うなよ?」


「……ああ、もう襲わないさ」


「ならいい。場所を知っているんだろ。連れて行ってくれ」


 医者の死体をそのままにして、その場を後にした。




 本館地下の遺体安置室へ到着した。


 大きな病院ということで、遺体安置室も結構な広さらしい。ここも電子ロックされているので、どうしたものかと思っていたら、制御ルームにいるマコトちゃんに連絡があって、これから開けてくれるとのことだ。


 カチンと音がして鍵が開いた。


 中は暗かったが、入ろうとすると自動で電気がつく。中には何体かのゾンビがベッドと言うか台の上にベルトで縛った状態で寝かされていた。


 ゾンビなのに静かだなと思っていたら、俺を見た瞬間に唸りだした。暗い場所にいたから寝ていたのかもしれないな。


「大人しくしていろ」


 そう命令すると、唸り声はなくなり静かになった。


「これからベルトを外すけど、人を襲うなよ」


 そう言った後、傭兵と手分けしてベルトを外していった。ベルトを外してもゾンビたちは大人しいままだ。


 全員のベルトを外したが、傭兵の娘というのはどこだろうか。男の年齢から考えて娘だとしたら結構若いと思うのだが。


「娘さんはここにいないのか?」


「いや、いる。こっちの部屋だ」


 男に連れられて安置室の外にある別の扉へ来た。どうやら別の扱いだったようだ。


 男はノックをしてから、扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。そして鍵を開ける。


 部屋の中には拘束衣を着た高校生くらいの女の子が椅子に縛られて座っていた。こちらを見ると唸りだす。


「大人しくしろ」


 その命令で少女は大人しくなった。その少女に傭兵の男は近づいていく。そして少女の頭を撫でた。


「これが死んでいるように見えるか? これは病気だ。いつか治療薬が出来る。そう思ってあの男に従っていた。どんなこともやった。それこそ人道的に許されないことでもだ。でも、どんなことをしてもこの子は元には戻らないんだな……」


 そして男はおもむろに少女の口の前に腕を出した。


「おい!」


 慌てて声を掛けたが、少女は男の腕を噛んだ。


 大人しくしろとは命令したが、人を襲うなとは命令していない。普通に噛まれやがった。


 ……いや、もともとそのつもりだったか。贖罪のつもりか、それとも生きるのが嫌になったか、それとも両方か。


「俺がゾンビになったら、この子と俺に人を襲わないように命令してくれるか? あと、この子にはいろんな場所を見せてやりたい。この子は体が弱かったが、ゾンビなら問題ないだろう。こんな世界になる前に、体が良くなったら二人で旅をする、そう約束したんだ」


「虫のいい話だな。お前のせいでひどい目にあった奴がいるのに、お前は娘と楽しく過ごすつもりか」


 男は何も答えない。いや、答えられないんだろう。


 ……仕方ないな。偽善者は偽善者らしくしないと。


「だが、お前はもう死者だ。死者を敬えというのは上司の教えでね。その願いは聞き遂げよう。二人一緒に好きなところへ行けとも命令してやる」


「恩に着る……そうだもう一つ、俺の部下たちをよろしく頼む」


「お前、頼み過ぎだぞ。でも、まあ、分かった。面倒見てやるから安心しろ」


 そう言ってからその部屋を出た。




 30分後、男はゾンビになった。男は迷彩服のままだが、少女は拘束衣から普通の服に着替えていた。今どきの可愛らしい服だ。


 約束通り、男とその娘に人を襲うなと命令して、さらには親子仲良く二人で旅をしろ、とも命令した。あと、男には身の危険を感じたら殺さない程度に反撃しろとも付け加える。


 なんとなく二人とも感謝しているような顔だったが、それは俺の願望かもしれない。二人は歩き出して、一度だけこちらを見てから、そのままこの場を離れた。


 あれでよかったのかは分からない。でも、本人が望んだんだから、外野がどうこう言うのは野暮ってものだな。


 それにしても高校生か。なんとなくエルちゃんのことを考えてしまった。


 エルちゃんがゾンビになったらどうするべきなのだろうか。その時は頭を撃ち抜いてやるべきなのだろうか。それともあの少女のように、ゾンビとして生き続けさせてやるべきなのだろうか。


 ……その時にならないと答えは出ないな。それにそうならないようにしてやるべきなんだろう。


 さて、それじゃ俺もエルちゃん達と合流しようかね。


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