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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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32/93

先生

2019.05.12 3話投稿(2/3)

 

 どういう経緯なのかは分からないが、ゾンビ達を人質に取られた。全部で9人。連れてきたゾンビは全員捕まったことになる。


 エルちゃん達がどうなっているのかが分からない。ゾンビ達を囮にして別の場所へ向かっているのか、それともすでに捕まっているのか。どっちもあり得そうなんだけど、この場にじいさんがいないなら大丈夫かな。


 でも、一応情報を得ておかないと安心して行動できない。


「全員捕まるとはね」


「お前のほうに意識が集中すれば裏口から入れるとでも思ったのか? だが、お前と違ってこいつらは普通の一般人だ。ずいぶんと舐められたものだな」


 すでに俺が一般人じゃないと思われているようだ。裏口から入るのは俺の提案じゃないから舐めてるも何もないんだけど。


 でも、全員捕まった、という言葉に何も動じなかったな。つまり全員捕まえていると思っているのだろう。ポーカーフェイスをされていたら困るけど、たぶん、エルちゃん達のことは知らないんだと思う。一体何をやっているのやら。


「さて、聞きたいことがある。こいつらを使って何をしようとしていた?」


「さあ?」


「ふざけているのか? そんな余裕がある状況じゃないと思うが?」


 いや、本当に知らないんだけど。


 じいさんは一体何をしにここへ戻ってきたのだろう。少なくともおやっさんを助けるためについてきたわけじゃない。おそらく、じいさんにはじいさんの用事があるはずだ。


 エルちゃんとマコトちゃんは、特に何の用事もないはずだ。エルちゃんは正義感でついてきただけだろうし、マコトちゃんはじいさんにハッカーの腕前を見込まれただけ。


 とはいえ、なにか理由を言わないと逆に怪しまれるかな? こっちのゾンビも陽動だとばれたらエルちゃん達が危ないかも。いきなりは言わずになにかありそうな雰囲気だけ醸し出しておくか。


 でも、ここで時間を稼いでなにか意味があるのかな? 関わりたくないから聞かなかったけど、何をするかくらいじいさんに聞いておけばよかった。


「早く答えろ。人質が無事なうちにな」


 ゾンビたちを襲ったら命令しなくても反撃するぞ。傭兵の男には通用しないかもしれないが、ゾンビたちを連れてきたほうならゾンビでも何とかなりそう。


 別にこのアスクレピオスをつぶしに来たわけでもないから、そうならないようにしないとな……なんで俺が色々と配慮しないといけないのだろうか。おやっさんが捕まったのは俺のせいではあるんだけど、色々と面倒だ。


「ええと、お前達なら俺が何をしようとしていたのか、分かっているんじゃないのか?」


 思いつかないから適当に言ってみた。何かあるぞと思わせて何もない。相手が勝手に勘違いしてくれればいいのだけど。


 というかなんでこんなことになってるのかな。やっぱりエルちゃん達を連れてこないほうがスムーズだったんじゃ?


 傭兵の男は思案顔だが、医者の男が何かに気づいたような顔をして笑った。


「なるほど……ここにある大量の薬を必要としているんだね? たしか、ここから追放した男がドラゴンファングにいたはずだ。それを助けたのが君達なんじゃないか? その関係で薬を求めている……どうだい?」


「さあ? どうだろうね?」


「どうやら図星のようだね」


 図星じゃないけど、まあ当たっているのかな。なかなかするどい……ような気もする。確かにドラゴンファングにいたじいさんを助けた。でも、じいさんが薬を求めているってどういうことだろう? 医者だから薬が必要って意味か?


 傭兵の男がほかの奴に命令をだした。どうやら薬を保管している場所を調べてこいと言っているようだ。すでに薬を取られている可能性を考慮しているのかも。それともほかに人がいそうだと気づいたか? ちょっと余裕を出しすぎたかな。


 そんなことを考えていたら医者の男が満面の笑みになった。


「さてと、紳士的に話を進めるつもりだったが、君はこの病院で盗みを働こうとしたわけだ。ならばこちらもそれ相応の対応をさせてもらおうかな?」


 人質を取るのが紳士的なら、そうじゃなくなった時の対応はどんなものなのかね?


「ここにいるお仲間を無事に帰してほしいだろう? なら黙って君の体を調べさせてくれないか? そうすればすべてを不問にしようじゃないか」


 人質の数が増えただけで何も変わってない。それに最初におやっさん達を人質に取っておいてよくそんなことが言えるな。どうあっても適合者である俺を調べたいのか。


「先生、待ってくれ。この男にそんな要求は――」


 傭兵の男が医者に向かって何かを言いかけたときに、携帯の呼び出し音が鳴った。しかも複数。あれ? 俺のスマホもか?


 傭兵と医者から目をさらさずにスマホに出る。


「センジュか? 取り込み中のところすまん。病院の制御ルームを制圧したのでな、その連絡じゃ」


「色々と面倒なことになってて大変なんだけどな?」


「それもすまん。小言は後で聞くから、まずは部屋にいる奴らを外へ出してくれ。そうしたらその部屋はこちらでロックする。アイアンボルトのみなを守れるようになるぞ」


「簡単に言うな。だが、分かった。何とかやってみる。ちなみにこっちの状況が分かるのか?」


「監視カメラがあるので大体は分かっているぞ」


 病院にそういうのをつけていいんだっけ? でも、どうでもいいか。


「それじゃ、仕事が終わったらまた連絡する」


 じいさんの返事を聞かずにスマホを切った。傭兵の男が怖い顔でこっちを見ているからな。向こうも何かの連絡を受けていたし、おそらく状況を把握したのだろう。


「まさか制御ルームを奪うとはな。本当に何しに来た?」


「さあ? 俺はあっちの作戦に関してはノータッチで何も知らないよ」


「状況が好転したと思っていないだろうな? こっちには連れてきた人質がいるんだぞ?」


「いや、そんな風には思ってない。そもそも、状況は悪くなってなかったし」


「なんだと?」


「迷彩服のやつらに噛みつけ!」


 俺がそういうと、連れてこられたゾンビたちが周囲に襲い掛かった。それほど悪い奴らじゃないのだろうが、おやっさん達を襲った実行部隊なのだろう。なら遠慮はしない。


「なんだと!?」


 傭兵の男は驚いたが、すぐに身をかわしてゾンビの噛みつきを逃れた。そしてナイフを逆手に持ち、医者の男を庇う。ほかの傭兵たちも三人くらいは無事だ。四人が固まって医者の男を庇おうとしている。


 その医者が急に笑い出した。


「素晴らしい! なんて素晴らしいんだ! 連れてきた者はゾンビだったのか! そして適合者はゾンビに命令を出せるとは! 進化――まさにこれは進化だよ!」


 全員があっけにとられた。ゾンビたちも一瞬動きが止まる。もしかして驚いた?


「先生! 正気に戻れ! 今はそんなことを言っている場合じゃない! 逃げるぞ!」


「ああ、解剖したい、解剖したい、解剖したいいいいぃぃいぃ! 解剖して解剖して解剖して! 進化の秘密を解いてみせるぞぉぉおおぉぉ!」


 おいおいおい、めっちゃ怖いんだけど。目がいってるぞ。俺や傭兵だけじゃなくて、ゾンビ達も引いてる感じだ。あいつが一番危ない。真っ先に狙っておかないといけない奴だ。


「白衣の男にも噛みつけ!」


 ゾンビ達は一瞬嫌そうな顔をしたけど、襲い掛かった。


「くそ! 先生を気絶させてでも連れていけ! ここは俺が何とかする!」


 傭兵の男がゾンビたちに襲い掛かった。持っていたナイフで頭を刺そうとしたので、懐から銃を抜いた。そして撃つ。


 ゾンビの頭にナイフが刺さる前に、ナイフを弾いた。


「なんだと!?」


「ゾンビでも仲間なんでね。悪いが殺させるわけにはいかないな……もう死んでるけど」


「クソ……! お前達、早く行け!」


 傭兵の男はそう促すが、男達は動かない。そして次の瞬間に崩れ落ちるように倒れた。立ってるのは医者の男だけだ。


 そしてその手にはメスらしきものを持っている。血がついているようだがもしかして医者の男が傭兵たちを殺した?


「先生……? 何を……?」


 傭兵の男が訝し気に医者のほうを見ると、医者の男はニタリと笑った。


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