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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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記念病院

2019.05.05 3話投稿(3/3)

 

 アスクレピオス記念病院の正門入口前に一人で立った。


 みんなとは別れた。じいさんがエルちゃん達を引き連れて裏口から入ることになっている。どうやら電子制御している部屋があるらしいので、マコトちゃんをそこへ連れて行くつもりだそうだ。


 正直なところ信用していいのかは分からないが、裏切られたとしてもその時はその時だ。ついてくるのは自己責任だと言ったし、エルちゃんも黙ってやられる感じにはならないだろう。


 マコトちゃんに関しても同様。正直なところ、どうなってもいいとも思ってる。


 情に流されるくらいなら最初から殺し屋なんてやってない。そんな甘い感情はもうなくなった……と思う。


 ちょっとモヤモヤするが、集中していこう。


 アスクレピオス記念病院は、2km四方の広大な敷地にある。言い方が正しいかは分からないが、三つの病棟があり、それぞれ、本館、別館、そして旧本館だ。確か受付は本館でやっているはずなので、そこへ行けばいいのだろう。たしかじいさん達も本館の裏口から入るとか言ってた。


 でも、不思議だな。この周囲には人っ子一人いない気がする。ゾンビもいなければ患者らしき人もいない。結構繁盛していると思ったのだが。


 もしかして患者がここまで来れないという理由なのだろうか。でも、それはゾンビがいない理由にはならないな。まさか受付時間が終了しているとかいうわけでもあるまいし。


 考えていても仕方ないか。早速入ろう。


 正面入り口のガラス張りの自動ドアがある場所へやってきた。当然というかなんというか、自動で開いたりしない。ガラスに血の手形が大量にあるところを見ると、ゾンビがここまでやってきたのだろう。でも、中へ入れずにどこかへ行ったというところかな。


 しかし、入れないとなると困ったな。どうすればいいのだろうか。


「お前がセンジュか?」


 インターホン越しのような声が聞こえた。おそらく電話の相手だろう。


「ああ、そうだ。入れてくれないか? 予約受付は済ませているんだろう?」


「ずいぶんと遅かったな?」


「タクシーが拾えなくてね」


「……なら、次からは救急車を送ってやろう」


「ああ、そうしてくれ。一度も乗ったことがないんだよ。話のネタに乗ってみたい」


 しばらく沈黙がして自動ドアが開いた。どうやら皮肉合戦は俺の勝ちかな。まあ、勝ったところで意味はないんだけど。


 入口から中に入ると、正面に自動受付コーナーみたいな場所がある。多分だが、ここで診察券とかを使って予約状況を確認するのだろう。そして左の奥にある大きな空間は待合コーナーかな。ここで名前を呼ばれたりすると思う。


 さてと、どこへ行けばいいのかな?


「エレベーターを使って3階に来い。そこにアイアンボルトの奴らもいる」


 病院アナウンスみたいな声が響く。


 エレベーターか。受付コーナーの右側かな。


 指示された通りにエレベーターのある場所へ移動した。そしてエレベーターを使い、三階へ移動する。


 エレベーターのドアが開いたときに驚いた。医師や看護師っぽい人がたくさんいる。全員が俺をジッと見つめているようだ。目立ちたくないんだけど。


「やあ、よく来てくれた、センジュ君」


 大量にいる医師たちをかき分けて、一人の男が目の前に現れた。


 髪の毛をオールバックにして眼鏡をかけている若い男だ。自分よりも年上に見えるから、30代くらいだろうか。白衣を着て聴診器を首にかけているところを見ると、この男も医師なのだろう。だが、電話や院内アナウンスで聞こえた声とは違うな。


「ここじゃ人の目が気になって話も出来ないだろう。部屋を用意してある。ついて来てくれたまえ」


「待て。アンタが誰だか知らないが、電話で話をした男じゃないだろう? それにアイアンボルトのみんなはどこだ?」


「ああ、その件も踏まえて話をしたいのだよ。電話に出た男はこの病院の者で自分の部下みたいなものだ。その部屋に来るように連絡したから安心したまえ」


 安心できる要素はないが、ここで駄々をこねても意味はないだろう。ならついて行くしかないな。


「分かった、ついて行こう」


 男が歩き出すと、全員がその通り道を開けた。あれだな、モーセの十戒で海が割れる感じ。


「センジュ君は本当に適合者なのか?」


 男が歩きながら聞いてきた。


「そう言わないとアイアンボルトの連中がどうなるか分かったもんじゃなかったんでね。もしかしたら違うかもしれないな。電話の男に無理やり言わされたと言ってもいい」


「なるほどね。だが、言わされたと言っても本当のことなんだろう? 彼の調査能力は高い。ドラゴンファングを壊滅させたときに、その場で君が適合者じゃないかって話が出ていたらしいよ?」


「話が出ていただけじゃないのか?」


「それはそうだが、そもそも君の体型でドラゴンファングの連中を倒すのは医学的見地から無理だと思うんだがね?」


 殺し屋ならあれくらい出来ると思うんだけど、そんな理由で俺を適合者だと思っているのか?


 殺し屋になってから上司のしごきに耐えて作り上げた肉体だ。無駄をそぎ落として殺し屋として理想の体を作ったのに、それが適合者になったおかげとか言われたら悲しくなるんだが。


 しかも医学的見地で無理とか。もしかしてヤブ医者か?


「答えは無しか。沈黙は肯定……やはり適合者のようだね」


 適合者だけど意味が違う。呆れてなにも答えられないだけだ。


 とはいえ、反論するのもなんだし、もう何も言わないでおこう。そもそも、何のために俺を呼んだのかが分かってない。良くある話だと、実験台とか解剖されるとかだろうけど。


 ……注射は嫌だな。


「さあ、ここだ。入ってくれたまえ」


 男に促されて部屋に入る。


 暗くて何も見えないが、人の気配はする。背後でスイッチか何かを入れる音がすると、部屋の中が明るくなった。


 いわゆる大部屋という部屋なのだろう。入院するときに個別の部屋じゃなくて、多くの人と一緒に入院する部屋。部屋には左右に五台ずつのベッドが置かれている。


 そしてどうやらおやっさん達が仰向けで寝ているようだ。点滴もしているようだが、どんな薬を入れられているのかは分からない。ただ、その息遣いは穏やかだ。


「この人たちへ手荒な真似をしたのは申し訳なかった。どうも部下がやり過ぎてしまったようでね。お詫びと言っては何だが、無料で治療させてもらうよ」


「そうか。なら助かるよ」


 とはいっても、怪しいね。


 おやっさんは巨体だ。どう考えても放っておいた方がいい。かなりの労力を使ってここまで運んだのだろう。それは俺と交渉するためじゃないのか? 大体、部下が勝手にやったなんて信じられないし。


「この人たちがしっかり体を治すまでセンジュ君もこのアスクレピオスにいるといい。もちろん、君が望むならずっといてくれても構わないけどね?」


 男がにこやかな笑顔でそんなことを言った。


 ……エルちゃんと逆で目に感情がないぞ、お医者さん。


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