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生存者

 

 俺はポイントカードさん……なんでだ。あんなに拒否したのに。絶対にポイントカードを作らない方向で頑張っていたのに、付いたあだ名はポイントカードさん。


 はっきり言って嫌すぎる。まあ、俺も彼女にポイントカードちゃんというあだ名を付けたけど。でも、そっちも俺に変なあだ名をつけたんだからおあいこだ。


 よし、名乗っておこう。変なあだ名で呼ばれたくない。


「えっと、ここの店員さんだよね? 俺は八卦千住ハッケセンジュ。当たるも八卦とかの八卦。千住は、数字の千に、住むだね。よろしく」


「え、あ、はい。私は紫神絵留シガミエルです。紫の神と書いて、シガミです。エルは、絵画とかの絵に留まるっていう字です。えっと、よろし……く?」


 こんな状況で自己紹介。いや、こんな状況だからか。普通だったら自己紹介をするような間柄でもないからな。一応、色々と聞いてみるか。エルちゃんは状況が呑み込めていないようだから、いまならポロっと何でもいいそう。


「ここには食料を探しに来たんだけど、在庫って残ってる? 貰ってもいいかな?」


「え、だめです。私が食べる分がなくなるんで」


 つまり、食料はある、と。


 なるほど。ロッカールームの中を見ると、結構な数の段ボールが積まれている。全部お菓子の類だけど、食料にはなるかな。なんとか交渉して分けてもらいたい。


「エルちゃん、だったよね? よく聞いて欲しい。お菓子ばかり食べていると栄養が偏ると思うんだ。若い時からそんなんじゃいけない。それに太るかもしれないよ。君のことをおもっての提案なんだけど、分けてもらえないかな?」


「ゾンビがあふれているこのご時世に何を言ってるんですか。太る? 餓死するくらいなら食べ過ぎで死んでやりますよ!」


 たくましいな、この子。


 よく見ると、髪の毛がショートカットで活発そうだし、ちょっと日焼けしてる。筋肉も普通の高校生にしてはあるほうか? それにバットの持ち方が様になってる。ソフトボール部とか女子野球部に所属しているのかもしれない。体育会系か。


 無理に奪うという手もあるけど、それはしたくないな。このままでも彼女は長くもたないとは思うが、俺がそれをさらに短くするわけにはいかない。


「わかった。なら諦めるよ。邪魔したね」


「え? あ、ちょっと待ってください。どうしてセンジュさんがロッカールームの鍵を持っていたんですか?」


「外に倒れている男のポケットに入っていたんだ。えっと、これだけど」


 手に持っている鍵をエルちゃんの前に出す。


「そうなんですか……」


 なんだろうか。鍵を見ながら考えている感じだ。でも、少し考えたあとに、こちらを見つめた。


「ところでセンジュさんはどこの組合から来たんですか? 物資調達に来たんですよね?」


「クミアイ? なんだいそれ?」


「え? もしかしてソロですか?」


 ソロ? この子は何を言っているんだろう?


「ああ、センジュさんのところではコミュニティとかコロニーって呼んでるんですか? 名称が統一されていないんですかね?」


 コミュニティ? コロニー? さっぱりわからん。


「悪いけど、なにを言ってるのか全然わからない。言葉の意味は知ってるけど、どういう意味で言ってるんだい?」


「ほら、ゾンビパンデミックで生き残った人たちが集まって作った組織ですよ。ドラゴンファングとかアスクレピオスとか……どこかの組合から来たのかと思ったのですが」


 生き残った人たちの組織……なるほど、組合か。1週間くらい寝てたからそういう情報はないな。これはもしかすると情報を得るチャンスかもしれない。


「いや、どこにも所属してないよ。一人だね……ああ、そっか、ソロってそういう意味ね。えっと色々あって情報弱者でね。食料はダメでも、色々な情報を教えてくれないかな?」


「……タダでですか?」


 本当にたくましいな、この子。


「なら、何か欲しいものがあるなら調達してこよう。それでどうかな? いつになるかは分からないけど、悪い取引じゃないと思うよ?」


 エルちゃんは腕を組んで考えこんだ。そしてこちらをちらっと伺う。


「その前に聞きたいんですけど、センジュさんはどこから来たんですか? ソロですけど、どこかに拠点を持ってるんですよね?」


「拠点というか、すぐそこのマンションに住んでるよ。お腹がすいたから食料を求めてここまで来たんだけど」


「マンション……なら、空いている部屋ってありますか? 逃げ出して誰も使っていないような部屋があるかどうかなんですけど」


 空いている部屋?


 どうだろうな。それは調べてなかった。でも、よく考えたらマンション内にゾンビがいる可能性はある。そもそもパンデミックで初っ端に噛まれたし。一応、マンションの部屋を全部調べたほうがいいかもしれない。


 おっといかん、まずは返答だ。


「正直なところわからない。これから調べてはみるけど」


「そうですか……なら私もマンションへ連れて行ってください。連れて行ってくれるなら、ここにある食料を分けますし、情報も提供しますよ」


 マンションに住む気なのだろうか?


 個人的には問題はないけど、入れるような部屋なんてあるかな?


「どうでしょうか? 悪くない取引だと思いますよ?」


「まずバットを構えるのをやめてくれるかな? それは交渉じゃなくて脅しだよね?」


「ちなみに私に手を出そうとしたら、このバット『ミョルニル』が火を噴きますよ?」


「すごい名前を付けたね。それは肝に銘じておくよ。そうだね、連れて行くのはいいけど、マンションに空いている部屋があるかどうかは分からないよ?」


「その時は仕方ありません、センジュさんの部屋に泊まります。でも、今日のミョルニルは血に飢えてますから気を付けてくださいね?」


「むしろ、別の部屋だったとしても連れて行きたくなくなったんだけど? とはいえ、食料は大事だから、分けてもらえるなら連れていくよ」


「取引成立ですね。それじゃ、さっそく準備をするのでちょっと待っててください」


 エルちゃんは嬉しそうに準備を始めた。


 こんなご時世だからこそ、自分の身は自分で守るべきってことをちゃんと理解しているのだろう。結構しっかりしているのかもしれないな。いきなり男が住んでいるマンションへ行こうとするのはどうかと思うけど。それとも、ここに籠城するよりもマンションのほうがマシだと思ったのかな。


 もしかしするとゾンビパンデミックが始まってから、ずっとここに一人でいたのかもしれない。何となく強がって見えるのは不安の裏返しなのかも。高校生くらいの子がこんなところに一人で居たら確かに心細いだろう。それに女の子だ。ゾンビ以外にも恐怖の対象はある。それこそ男とか……もしかして人畜無害な感じに思われたのか? 男としてそれはどうなんだろう?


 そんなことを考えていたら、エルちゃんの準備は終わったようだ。ちょっと大きめのスポーツバッグを肩にかけて、バットをしっかりと握っている。スポーツバックの中に入れられるだけの食料を詰め込んだのだろう。結構パンパンだ。


「準備が終わりました。行きましょうか」


「そうだね、それじゃ行こうか」


 ここにはまだお菓子が残っている。何度か往復してマンションに食料を運び込まないとな。そうだ、ちゃんと鍵をかけておこう。


 コンビニを出て、マンションのほうへ歩き出そうとしたら、エルちゃんが足を止めた。


 どうやら、店長らしき死体を見て止まったようだ。


「その人は店長さんかい?」


「……え? ああ、はい」


 ずいぶんと放心しているような気がするけど、どうしたのだろう?


 いや、そうか。知り合いの死体だ。それに俺みたいに死体に慣れているわけじゃない。ショックを受けているのだろう。


「ショックだとは思うけど、ここで止まっているのは危ないかもしれない。弔うのはまた後で――」


「ああ、違いますよ。この店長、セクハラがひどかったので、いい機会だと思って私がやっちゃったんですよね。隙を見てこう、ガツンと」


 この子、サイコパスじゃね?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 殺し屋という設定の割に確認も警戒も甘すぎて違和感 社畜→一般商社みたいなミスリードで後々殺し屋とわかるみたいな展開の方が良かったのでは 1週間で生存者グループがきっちり機能している。…
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