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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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ハッカー少女

2019.05.05 3話投稿(1/3)

 

 今、俺の部屋で四人がテーブルを囲むように座っている。あと、ゾンビが一人、部屋の隅に立っている。


 一人はエルちゃん。いつものジャージ姿がまぶしい。ドラゴンファングでの一件以来、ずっとジャージを着ている。何のアピールなのだろうか。


 もう一人は、梅天源次郎。通称、じいさん。殺し屋専門の医者だ。アスクレピオス記念病院にいたそうだが、追放されてドラゴンファングに捕まった。それを助けたらついてきた。


 そしてもう一人は……なぜか俺のことを殺し屋だと知っている少女だ。エルちゃんよりも幼い感じがするので、歳は15前後だと思う。お腹がすいていたようで、お菓子をバリバリ食べている。


 これからのことを相談するために、全員で意見を言うことになったのだが……正直、こんなことをしている場合じゃないんだけど。


 おやっさんが、アスクレピオスに捕まっているから助けに行かないといけないんだけどな。時間を指定したわけじゃないから、そんなに遅くならなければ大丈夫だとは思うんだが、出来るだけ早く行きたい。


 そんなことを考えていたら、エルちゃんが手をあげた。発言をしたいのだろう。頷くことで発言を促した。


「この子はセンジュさんの彼女ですか?」


 なんでその質問? 


 もっと聞くべきことがあるのではないだろうか。勢いよくお菓子を食べていた少女がちょっとむせてる。じいさんがお茶をすすめて、背中をさすっているようだ。


「いや、初めて会ったけど」


「でも、センジュさんのことを殺し屋だって知ってましたよね? それはどういうことなんですか?」


 エルちゃんの視線が鋭い。浮気を追及されている旦那とはこういう気持ちなのだろうか。そもそもエルちゃんとは付き合ってもいないのに、なんで責められているような感じになるんだろう。


「いや、それを俺に聞かれても……まずはこの子に名前やここへ来た理由を聞いてみようよ」


 少女はお茶を飲み干すと、大きく息を吐きだした。どうやら落ち着いたようだ。


「えっと、私の名前は、霧雷真琴ウライマコト。よろしく」


 少女、マコトちゃんはそう言うと、またお菓子を食べ始めた。


「マコトちゃん、名前はわかったけど、どうしてセンジュさんが殺し屋だって知ってるの?」


「んー? 私ってハッカーなんだよね。ブラックホーネットって殺し屋の派遣会社って分かるかな? あそこにハッキングして殺し屋のランキングを見たんだよね。そこに名前も住所も書いてあったよ」


 マコトちゃんがドヤ顔でそんなことを言い出した。でも、ほっぺたに食べかすがついてる。


 それはともかく、すごいな。あそこは結構なセキュリティがあるから、普通じゃ入れないんだけど。それともゾンビパンデミックでセキュリティが甘くなったか?


「それだとしても、ここへ来るのはおかしいよね? なんでセンジュさんのところへ来たんですか?」


 エルちゃんの追及が終わらない。確かに気にはなるけど、もうどうでも良くないか? 早く病院へ行きたいんだけど。


「偽善者って二つ名だからだね。偽善者だったら助けてくれそうじゃない? やらない善より、やる偽善ってね。たとえ偽善だとしても助けてもらえるかと思って来たんだ。でもさー、逆に聞きたいんだけど――」


 マコトちゃんは部屋の隅にいるゾンビを見つめた。


「なんであのゾンビは襲い掛かってこないの? それにマンションの周りにも明らかに意志があるように動いているゾンビがいるよね? あれ何?」


 エルちゃん、じいさんと顔を見合わせる。言うべきか言わざるべきか。教えたら保護するしかないよな。それに15、6の少女をこのまま放りだすのも良くない気がする。


 エルちゃんが頷いた。つまり、言うってことか。


「マコトちゃん、銃殺と毒殺、どっちがいい?」


「エルちゃん、落ち着いて」


 久々にエルちゃんのサイコパスが出た。こんな子をやる気か。


「このことは知られないほうがいいと思うんです。だからやっちゃいましょう」


「だから待って。だからなんでそんなに危険な思考をしてるの? いつものエルちゃんに戻って。大体、いつも世界を救いましょうって言ってるのに、この子は殺す気?」


「大事の前の小事ってやつです」


「目の前の小事も大事にしてあげて」


 エルちゃんには、殺し屋になるとかならないとか以前に一般的な感覚と言うのを教えてあげないといけない気がする。どこの施設にいたのかは知らないけど、なんでこんなことになってる。


 それは今後の課題と言うことで、今はこのマコトちゃんのことを考えよう。エルちゃんの言葉でまたむせているけど、じいさんがみているから大丈夫だろう。


 そもそも本当のことを言っているのかどうか分からない。でも、嘘を言う理由も見つからないな。どこかに仲間がいるのかもしれないが、偵察でこんな子を送るわけはないだろうし――いや、同情を買うという手か?


 とはいえ、ゾンビが捕まえてきた子だし、この子の周囲には他に誰もいなかったと報告を受けている。一人でいることは間違いないのだろう。


 見た目で判断するのは良くないが、この子は強そうに思えない。受け入れたところで特に危ない状況にはならないと思う。


 それにこのマンションにいる女性はエルちゃんだけだ。エルちゃんも女性が一緒のほうが心強いかもしれない。さっき殺そうとしたけど。


 決まりだな。この子を受け入れよう。役に立つかどうかは分からないけど、ハッキングが出来るって言うし、食い扶持が一人増えたとしても問題ないだろう。


 でも、その前に本人の意思を確認しておくか。


「えっと、マコトちゃんだっけ。ゾンビのことはちょっと置いておいて。さっき、助けてもらえるかと思って来たって言ってたけど、ここで保護する感じでいいのかな? 保護するって言ってもマンションに住むって感じなんだけど?」


「うん、そのつもり。やっぱり強い人のそばに居たほうがいいよね。センジュって殺し屋ランキング2位なんでしょ? ならゾンビに負けたりしないだろうし」


 噛まれたけどね。


「わかった。そういうことなら、保護しよう。ただし、言うことは聞いてもらうよ?」


「いいよ。でも、出来ることと出来ないことがあるから拒否することもあるよ?」


「それはもちろん。わがままを言わなければ構わないよ」


「りょーかい。来てよかった。センジュって意外と格好いいし何の文句もない――なんでこの人はバットを握りしめてるのかな? 銃殺も毒殺も嫌だけど、撲殺も嫌だよ?」


「エルちゃん、落ち着いてバットから手を放して。深呼吸をして意識を取り戻して」


「落ち着いてますよ。すごく穏やかな気持ちです。今ならなんでもやれそうな気がします」


「それは違うから――笑うところじゃないぞ、じいさん。助けろ」


 これからおやっさん達を助けに行かなきゃいけないのに、色々と面倒くさいことになってるなぁ。


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