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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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双子

2019.04.21 3話投稿(1/3)

 

 闘技場は静まり返っている。


 そりゃそうだ。いきなり銃を撃ったからな。素手での戦いかと思ったらいきなりの反則行為。頭がこの状況に追い付いていないのだろう。とはいえ、このままにしておくわけにもいかない。とっとと騒動を起こしてもらわないとな。


「リュウガは俺が殺した。次は誰だ? 俺はいつになったらその子を貰える? ここにいる全員を殺せば貰えるのか?」


 演技は苦手だが、悪そうな顔を作ってそう言った。


 その甲斐あって、周囲の観客たちは叫び声を上げながら我先にと出口へ駆け出した。


 よしよし、この間にエルちゃんをあそこから救い出そう。


「落ち着け!」


 その大きな声で闘技場が静かになる。誰だか知らないが、服装からするとドラゴンファングの奴みたいだ。


「リュウガの野郎が死んだだけだろうが! それにこっちには人質がいるんだ! 逃げ出さずにその男を捕まえろ!」


 ドラゴンファングの奴らがマンションから連れてきたみんなの首元にナイフを突きつけている。にやにやしているところ見ると形勢が逆転したのだと思っているのだろう。


「お前は強いかも知れねぇが、こいつらは違うみたいだな! 恐怖で動けないみたいだぜ? こいつらの命が惜しいなら、銃をこっちに渡しな! それを使って今日からこの俺がドラゴンファングのトップになってやるぜ!」


 色々とツッコミどころが多くて困る。大体、銃が一丁あるだけで、支配できるのかよ。弾だって有限だぞ。それ以前に人質が人質になりえないんだよな。どちらかと言うと、お前たちのほうが危ない。


「言い忘れていたけど、そいつらはゾンビだぞ? 黒革のジャケットを着ている奴らを襲え!」


 大きな声でそう言うと、ゾンビのみんながドラゴンファングの奴らを襲いだした。近くの奴らを噛もうとしている。


「テ、テメェら! このナイフが怖く――ギャア!」


 リュウガってやつが一番の悪者だとは思うが、ドラゴンファングの奴らをここで見逃してもより危険になりそうだからゾンビにしてしまおう。これまで力に頼って生きてきたんだ。なら文句も言えないだろう。


 ゾンビがいるのが分かったからか、俺が脅しをかけたときよりも、大きな叫び声を出しながら出口へ向かう人たちがいる。黒いジャケットを着ていなければ襲われないんだろうけど、分かる訳もないか。


 よし、今のうちにエルちゃんを助けよう。


 リングから下りて金網の外へ出た。


 リングの下には俺を案内してくれた男が震えて座っている。俺を確認すると、四つん這いで近寄ってきた。


「た、たす、助けてくれ! な、何でもくれてやるから! 食料でも何でもだ!」


「……ここでのルールは知ってるだろ? ダサい真似はするな。死にたくなければ勝つしかない。それも難しいなら逃げるしかないな。ちなみにそこにいるセコンドもゾンビだぞ」


 セコンドのゾンビが男を確認すると、両手を伸ばしながら近づいて行った。


「ひ、ひいぃい!」


 男は恐怖に顔を引きつらせて出口の方へ逃げていった。


 いままで好き勝手にやってきてたくせにいまさら助けてくれはないだろう。繁華街にいたあのおじさんにもう少し優しくしていたら助けてやったんだが、そうじゃないから見捨てる。


 そっちは放っておいて、まずはエルちゃんを助けるか。


 セコンドとしてついていたゾンビに一緒に来るように命令した。


 エルちゃんがいる場所へ来ると、手でガラス張りのケースを叩いている。俺を確認するとちょっとだけ笑顔になった。


 だが、そのケースの前にはなぜか女性が二人いる。結構きわどい感じの服を着たギャル系の女性だ。半袖にホットパンツとか、かなり寒そう。


 ただ、ちょっとおかしい。俺を見てニヤニヤしている感じで、ずいぶんと余裕そうだ。


 よく見たら、リュウガが侍らせていた二人か? なんでこんなところに? それに最初は気づかなかったけど、よく見るとこの二人は双子か? ショートとロング、髪型が違うだけで、二人ともそっくりだ。


 いきなりスマホで写真を撮られた。まさかコイツら……。


「すごい! この人、『偽善者』じゃない! 殺し屋として実質No1の実力者! こんなところでお目にかかれるなんて光栄じゃない!?」


「落ち着きなさいよー。でも、気持ちは分かるわー。どんだけ殺せばランキング上位になるのかしらねー? 尊敬しちゃうわー」


 この会話。間違いない。この二人も殺し屋か。完全にノーマークだった。


 しかも、エルちゃんの前で俺のことをばらしやがった。いや、別に言うつもりだったからいいんだけど、自分が言いたかった。というか、エルちゃんの目がキラキラしているんだけど。助けても面倒なことになりそうだな。


 こっちもスマホを取り出して写真を撮った。慣れているのか、二人ともポーズを取りやがった。最近はピースを横にするのが流行りなのだろうか。


「私って横顔を上斜め45度くらいから取られるのが最高なんだけど? もう一回撮り直さない? というか、今のは絶対に消して」


「写真撮るときはー、事前に許可を取るものよー?」


 お前らも俺を許可なしで撮っただろうが。言っていることは無視して、さっそく画像で検索をかける。だいたいだが、どんな奴らなのか分かった。


 鏡姉妹。通称ミラーズ。職業はネイルアーティスト。ランキングは897位か。


「センジュ君さ、会えたのは光栄だけど、リュウガ君を殺しちゃうなんてひどくない?」


「そーそー、せっかく私たちがリュウガ君に貢がせていたのにねー?」


「貢がせていた?」


「あ、聞いちゃう? 実はドラゴンファングの暴走族をもっと組織化してリュウガ君に物資を取ってくるようにお願いしてたんだよね。私たちのために集めてくれたのに!」


「せっかく私たちがプロデュースしたのに台無しだよー」


 なるほど。この二人がリュウガを唆したということか。なんとなくだけど、繁華街にバリケードを作ったり、こんな闘技場で賭け事をやったりするなんて、タダの暴走族がやれるのはおかしいと思ってた。この二人が色々とアドバイスしていたのだろう。


 支配されていると見せかけて、リュウガを――ドラゴンファングを支配していたか。


「それは悪かったな」


「そう! 悪いんだよ! だから責任取って!」


「責任?」


「そーそー、私たちと組もうよー。殺し屋の仕事だって協力するときがあるでしょー? ここでセンジュちゃんをトップにしてあげるからさー、ちょーとだけ私たちに貢いでほしいなー。それになんか知らないけど、ゾンビを操れるんでしょー? こんな世界ならセンジュちゃんのその力は最高だからねー」


「それに、そんな子供よりも私たちのほうが良くない? まあ、その子も欲しいって言うなら別に文句はないけどね」


 そう言って二人は妖艶に笑っている。もしかして色仕掛けか?


 俺にリュウガの後釜をやれってことか……金を積まれたって嫌だ。


「悪いね、あんたらみたいな派手な恰好してる子よりも、そっちのジャージの子が好みなんだよ――あ、うん、エルちゃん、照れないで。言葉の綾みたいなものだから」


「うわ、マジむかつく。着てる服で選ばれたよ。殺し屋とか関係なく殺されても文句言えないね。そういう法律あるから!」


「このロリコンやろー」


 酷い言われようだ。だが、交渉は決裂だな。


「言っておくが、戦うつもりはないぞ。その子が取り返せればいい。お互いに見なかったことにしないか?」


「私達はやる気満々だけど? センジュ君を倒せば2位になれるし」


「そもそも、殺し屋同士がお互いを認識したら殺し合いをするのがルールみたいなものでしょー?」


 俺はもう殺し屋じゃないけどな。でも、こんな状況になってもそのルールを守るのか。面倒くさいな。


 お互いに、にこやかな顔で見つめ合った。


 すぐに懐から銃を取り出そうとしたが、何かを投てきしてきたので躱す動作に移行する。何を投げてきたのかは分からなかったがなにか鋭利な物だろう。


「銃を抜かせる時間なんかあげないよ?」


「接近戦も強そうだけど、私ほど強いかなー?」


 間延びしたしゃべり方をする奴が両手に鋭利なものを持って襲ってきた。


 くそ、速いな。それに、もう一人が最悪なタイミングで投てきしてくる。息が合っているというか、連携が上手い。


「言っとくけどー、私達、二対一で負けたことないからー」


 ゆっくりしたしゃべり方とは裏腹にかなりの速さだ。銃を取り出す暇がない。ここは隙をつくしかないが……いや、俺には銃以外の武器があったな。二対一で負けないなら、もっと増やせばいいんだ。


「なら援軍を呼ぼう。あの女を襲え!」


 大声でそう言うと、闘技場にいたゾンビたちが遠隔攻撃している女のほうへゾンビが移動していった。あの女、で通じるんだな。


 ゆっくりではあるが、ゾンビの数は多い。結構な恐怖だろう。


「うっそ、ヤバいんですけど!」


「そっちはそっちで何とかしてー。こっちをやったら助けるからー」


 形勢逆転だな。さあ、一対一なら俺も負けたことはない。悪いが死んでもらうぞ。


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