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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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挑戦者

2019.04.14 3話投稿(2/3)

 

 男の案内で通路を進むと、出口が見えてきた。


 外への階段を上がると、普通の風景が目に入る。思ったよりも多くの人がいるようだ。こうなる前の繁華街と変わらない感じだな。


 ただ、全員が疲れた顔をしているし、風呂にも入っていないのか、髪はぼさぼさで着ている服もボロボロだ。立っている人も少なく、地べたに座り込んでいる。


 ここでの生活は良くないのだろう。単に生きているだけ。以前のような生活が送れているようには見えない。見た限り建物などは壊れていないし、それなりの生活は出来ると思うんだけど。


 周りを見ていたら、道路に座っていたおじさんが近寄ってきた。くたびれた感じで、今にも死にそうだ。


「なあ、アンタ、外から来たんだろう? なにか食い物を持ってないか? 金なら……金なら払う。なんでもいい、分けてくれ」


「いや、食べ物は――」


 何かを話そうとしたところで、案内した男が割って入った。


「おい、ここでのルールは知っているだろ? ダサい真似はするんじゃねぇよ」


「そんなこと言ったって、あんな殴り合いなんて――」


「なら死ぬしかねぇな。それが嫌ならバリケードの外へ行けよ。物資は有限だ。弱い奴にはそれなりの配給しかしないのは当然だろ? それともなにか? 俺たちが命懸けで取ってきた物資を何もせずにもっと分けろって言ってんのかよ?」


「……そういう訳じゃない。あんた達には――ドラゴンファングには感謝している」


「ならルールを守りな。ここじゃ金は使えねぇ。何かを得たければ、バトルに勝つしかねぇんだよ」


 おじさんは少しだけこちらを見てからトボトボと座っていた場所へ戻っていった。


 案内の男がこちらをみて、ニヤリと笑う。


「すまねぇな。なかなか教育が行き届いてなくてよ」


「いや、別に構わない。だが、ここのルールって言うのはなんだ? さっき聞いた弱い奴は死ぬって話か?」


「まあそうだな。ここでは強い奴が偉い。そしてここでは金なんて価値はない。価値があるのは強さだけさ。今日はイベントの日だって言ったろ? さっきも言った通り、地下にある闘技場でバトルをしてるんだよ。そこでの勝者には食料が渡される。食料以外にも、いいところに寝泊まり出来るとか、色々な恩恵があるんだ。逆に戦わない奴や負ける奴には何もねぇ。多少の食料は分け与えているが、それすらなくそうって話が出ているところだ」


 なるほど、単純明快だな。


 そして他にも分かったことがある。このバリケードの中にはドラゴンファングと呼ばれている奴ら以外もいるわけだ。さっきのおじさんとかは、ドラゴンファングという訳じゃなく、ここにいるだけか。


 理不尽なルールがあるとしても、バリケードの外で生きるよりははるかに安全なのだろう。


 そうだ、一つ聞いておくか。


「外に磔になっている奴はどうしたんだ?」


「ああ、あれを見たのか。あれはどっかで拾ってきた奴だな。俺たちが物資を探しているときに襲ってきたから返り討ちにしたんだ。ゾンビは人を見るとずっと追いかけるからな。見晴らしのいい場所においてゾンビの囮になってもらってるんだよ」


 おいおい、エルちゃんじゃないよな?


「いつから磔にしてるんだ?」


「2、3日前だと思うぞ。まあ、簡単に死なれたら困るから水や食料は少しだけ与えている」


 エルちゃんじゃないのはわかった。そしてもう一つ分かったことがある。ドラゴンファングは結構なクズだ。俺も人のことは言えないけど。


「さて、それじゃこっちへ来てくれ。すぐにリュウガさんに会わせるから」


「わかった。よろしく頼む」


 案内の男が歩き出したので、それについて行く。


 途中で見かける人は全員が辛そうだな。だが、ほかに行く当てもないのだろう。少量だが物資を分けてもらえているようだし、危険を冒して外へ行こうという気力もないようだ。このままでもジリ貧だと思うけど。


 しかし、こんなところでも秩序はあるのか。


 エルちゃんを救出してからのことなんて何も考えていないけど、混乱に乗じて助ける、というのが基本方針だ。混乱を起こしたときに何かあるだろうか。暴動とか起きたらここはどうなるのだろう。


 はっきりいってエルちゃん以外はどうなっても構わないと思ってる。自分がしたことで暴動が起きて、中の一般人が死ぬようなことがあったら嫌だな。


 ……考えるのはやめよう。そもそもこのバリケードの中は磔にされた誰かの犠牲の上に成り立っている。中にいる奴らが一般人と言えるかは怪しい。知らないってことはあり得るだろうけど、そこまで明確に一般人とクズを分けるつもりはない。


 何かしらの混乱に乗じてエルちゃんを助ける。あとはどうなっても知らない。これで行こう。


 問題はエルちゃんが正義感を出す可能性があるんだよな。ここにいる人たちを助けましょう、とか言い出したらどうしよう? 気絶させてここから逃げだそうか。


 そんなことを考えていたらいつの間にか到着したようだ。入口の看板には「エルドラド」と書かれている。


「ここだ。階段は薄暗いし、滑りやすいから気を付けろよ」


 案内の男が地下へ続く階段を指してそう言った。ここは繁華街でも裏路地と言えるような場所だ。この周囲には結構な人がたむろしている。さっきまで見てきた人達とは違って元気そうな奴らだ。それに手には食べ物を持っている奴もいる。配給されたということなのかな。


「はぁ、ついてねぇぜ。俺も今日のイベントには参加したかったよ。略奪をした直後だから、物資が多いんだ。物資を使った賭け事もできるのに今日は通路の見張りだもんな。でも、お前のおかげで助かったぜ。連れてきたついでに一試合くらいは賭けられそうだ」


 外にいる奴らは賭けに勝ったということかな。案内の男はそういう事情もあって簡単に連れてきたのか。俺としては助かるけど。


 男の案内でゆっくりと階段を降りる。もちろんゾンビたちも一緒だ。


 階段を降りると、扉があった。扉からは大音量の音楽が聞こえてくる。


 中は結構な広さの場所だった。中央に金網で囲まれたリングがあり、そこで男が二人殴りあいをしている。リングの周囲には多くの人が集まっていて、「そこだ!」とか「やっちまえ!」とかヤジを飛ばしているようだ。


「おお、あぶねぇ。もう最後の試合じゃねぇか」


「これが最後なのか?」


「ああ、そうだ。今日のメインイベントだよ、と言っても5人勝ち抜くまで続けるけどな。さて、この試合の勝者には何が与えられるんだ? ……おお、マジか。女だってよ」


「なに?」


「女だよ、女。ほら、あそこに見えるだろ……なんでジャージ? どこで拾ってきたんだ?」


 男が指したほうを見たら、縦に大きいショーケースみたいなガラス張りの場所にエルちゃんがいた。ガラスを叩いて何かを言っているようだが、声は聞こえない。


 あんな状況ではあるけど、どうやら無事のようだ。


「このまま見ていてぇが、まずは仕事だな。こっちだ。リュウガさんに会わせるぜ」


 男がそう言った直後に歓声があがった。どうやら決着がついたようだ。そして「あっと一人! あっと一人!」と盛り上げている声が聞こえる。そして挑戦者を募っているようだ。


「嘘だろ、もう4人抜きしたのか。本当にギリギリだ。やべぇ、早く来いよ。最後の試合くらい賭けてぇんだ」


 おいおい、もう一人勝ち抜いたら終わりなのか?


「いや、そっちは後にしてくれ。俺はこれから挑戦者として名乗りをあげてくるから。5人抜きすれば、女を貰えるんだよな?」


「マジか? いいねいいね! 部外者が挑戦者として名乗り上げるなんて盛り上がるぜ! 俺が手続きしてきてやるから、リングの近くに向かおうぜ!」


 接近戦、しかも素手じゃそれほど強くないからちょっと心配だが、素人に負けるほどでもないだろう。これでエルちゃんが戻ってくるなら儲けものだ。とっとと5人抜きしてエルちゃんを取り戻そう。


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