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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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イベント

2019.04.14 3話投稿(1/3)

 

 繁華街には地下鉄の出入口がいくつかある。バリケードの内側と外側にそれぞれ入口があるわけだ。


 地下鉄をあまり使ったことはないので場所が分からなかったが、ゾンビの一人が案内してくれた。


 マンションに住んでいた美容師の女性ゾンビだ。ゾンビでもおしゃれな気はする。今度、髪を切ってもらおう。


 おっといかん。まずはエルちゃんの救出だ。


 出入口は結構広い。地下へ行く階段の横幅が10mくらいある。天井までの高さ5mくらいあるし、これならバイクで乗り入れても問題はないのだろう。


 でも、気になるな。なぜこの出入り口周辺にはゾンビがいないのだろうか。


 この辺りのゾンビを駆逐したということも考えられるが、それならゾンビの死体が転がっているはずだ。道路に血痕はあるが、死体はない。掃除したとしてもどこへ?


「ゾンビがこの辺りにいない理由を知ってる?」


 ゾンビにこういう聞き方をして返答があるのかどうか分からないが、とりあえずダメ元で聞いてみた。


 ほとんどのゾンビは首を傾げたが、一人だけ手をあげた。確か学校の先生だったかな。というか、こんなアバウトな聞き方で問題ないのか。


 紙にその理由を書いてもらうと、こう書かれていた。


「生きた人間を囮にしている。バリケードが強固な場所に人間がはりつけにされてた」


 囮? 磔? まさかとは思うが、この出入り口の安全にするために、別の場所で生きた人間を使い、ゾンビたちの注意を引いているのか?


 ……酷いことをするもんだ。だが、ドラゴンファングと言うのがどういう奴らなのか分かった気がする。遠慮は不要と言うことだ。


 おやっさんにも似たようなことをされたけど、多少の信頼関係があれば問題ない行為だ。それにおやっさんたちを助けるのは俺にもメリットがあるからな。


 でも、磔にされているなんて、どう考えても無理やりだ。明らかに繁華街の中にいる奴らが、いけにえとして出しているのだろう。


 やばいな。そう考えたらエルちゃんって結構危ないのかも。ドラゴンファングのボスっぽい奴がそれなりに話せそうだったから、大丈夫だと勝手に思ってた。


 これは急いで迎えに行かないとダメだな。




 地下鉄の通路はまだ電気が通っているようだ。ところどころ消えている蛍光灯もあるが、ほとんどが通路を明るく照らしている。


 床を見ると、タイヤの跡がいくつも残っていた。ここをバイクで通っていたのは間違いないのだろう。このままタイヤの跡に沿って進めば、バリケードの中へ繋がる出入口へ行けるはずだ。


 マンションにいたゾンビたちと一緒に地下鉄の通路を進む。ゾンビたちはそれなりの身だしなみになっているからゾンビとは思われないだろう。ちょっと顔色が悪いけど。


 エルちゃんの救出方法はまだ考えていない。確か組合同士で協力したり戦ったりしているとネットで調べた。まずはどこかの組合から来たということで、中へ入れてもらうしかないだろう。


 そして何かしらの混乱をさせて、その隙にエルちゃんを救出しよう。事前にどこに捕まっているとかを調べないとダメだな。その辺りはゾンビのみんなにやってもらうのがいいかもしれない。


「命令じゃなくてお願いだが、エルちゃんを助けるのに力を貸してくれよ」


 命令とお願いでなにか違うのかは分からないが、とりあえずそう言っておいた。たぶん、こういうあいまいな内容じゃ何もしないだろう。でも、今はエルちゃんを一緒に助けに行く仲間……まあ、むりやり連れてきたんだけど、たぶん仲間なのでお願いくらいはしておかないとな。


 なんだ? みんなが頷いた気がしたけど……気のせいか?


 ん? 通路の奥に誰かいるな。たぶん、ゾンビではなくて普通の人間だ。おそらくドラゴンファングの奴だろう。このまま近寄って交渉してみるか。


 向こうは二人。黒い革のジャケットとこれまた黒い革のズボンをはいている。スーパーでちらっと見かけたが、おそらくこれがドラゴンファングの正装なんだろうな。


 その二人のうちの一人がこちらに気づいた。


「おい、止まれ。ここからは俺達ドラゴンファングの縄張りだ。どこの組合から来た? それとも難民か?」


 難民と言うのは良く分からないが、いきなり襲ってこないところを見ると、そういうやり取りを結構しているようだな。さて、どうするか……といっても知っているのはあそこだけだな。


 両手をあげて一歩前に出た。


「アイアンボルト、で分かるか?」


「アイアンボルト……? ああ、車の改造をするところか。俺達と会う約束はねぇよな? ここに何の用だ? しかもそんなに大勢連れてきやがって」


「ここに来た理由は営業だ。人が多いのは大目に見てくれ。うちは戦力になる奴が少ないから数で勝負しているんだよ」


「確かに全員がひょろひょろだな。そんな奴らばかりじゃ単独で外は歩けねぇか。まあいい、来た理由が営業ってどういうことだ?」


「ドラゴンファングのリーダーに会わせてくれないか? いい話を持ってきたんでね。悪くない取引だと思ってる」


「どんな取引だ?」


「直接リーダーに話をしたいんだが……実は戦車を手に入れた。自衛隊が放棄したものだな。うちでそのまま使ってもいいんだが、アンタ達のところは物資が大量にあると聞いた。交換してほしいと思ってね」


「そりゃ、また……おい、どうする?」


 二人が俺の話を聞いて、相談を始めた。リュウガって奴に話を持っていくかどうか検討しているのだろう。見た目に反して意外と冷静というか、ちゃんと判断をするようだ。


 1分ほど経ったら、さっきまで話をしていた奴がこちらを見て頷いた。


「いいだろう、俺達のリーダーに会わせる。これから連れて行くが、変なことはするなよ? お前達なら武器を持っていても俺たちに勝てるとは思えないがな」


 そう言って笑い出した。俺も心の中で笑ってる。武器の中でも銃は強いぞ。どんなに鍛えても頭を撃ち抜いたらそれで終わる。もちろん、俺もだけど。


 それはともかく、バリケードの内側には簡単に入れるようだ。俺の出まかせトークも捨てたもんじゃないな。おやっさんたちが戦車を手に入れている事をばらしたけど、問題はないだろ。


 見張りの一人に連れられて、通路を歩き出した。


 ゾンビのみんなは足を引きずるような歩き方はやめて、生前と同じような歩き方をしている。命令すればやれるんだな。少々顔に血の気が足りないが、お腹がすいているからという程度のいいわけで見張りの奴は納得してくれた。


 さっきは冷静だと思ったんだけど、どっちなのか判断が付かないな。見た感じ頭脳派ではないと思うんだが。


 その男が歩きながら話しかけてきた。


「そうそう、今日はイベントがあるから、あんたらもそれを見ていくといい。ここがどれだけ恵まれているか分かると思うぜ? あんたらのところじゃ食う物にも困ってるんだろ? こっちに移住するなら口添えくらいしてやってもいいぜ?」


「イベント?」


「今日はいろんなところで略奪をしてきたからな。そんな日は闘技場で賞品付きのバトルがあるんだよ。勝者には色々なものが手に入るぜ? 食い物、服、酒だってな。それに――」


 男がニヤリと下品そうに笑う。


「女も手に入るぜ? おっと、そっちにも女がいたな。こんな話はいい気分じゃねぇよな、悪い悪い」


 悪いと言いながら全く反省はしていない感じだ。だが、それはどうでもいい。そのイベントにエルちゃんがどう関わっているかが問題だ。たぶん、闘技場での戦いで賞品のような扱いをされる可能性が高い。もしかしたら、そのバトルに参加して勝っているという線もあるけど。


 そうなる前に助け出さないとな……もしかしてエルちゃんが手に入るなら俺がそのバトルとやらに参加すればいいのか?


「それ、俺も出れるのかい?」


「ああ? ハハッ! もしかして腕に自信があるのか? 飛び入りは歓迎だぜ? ただ、死んでも文句は言えねぇぞ。ここは他の組合と違って力がすべてだからよ。弱い奴は死ぬ。それがここのルールだからちゃんと覚えておきな」


 分かりやすいルールだ。それにそのルールには慣れてる。強い奴が生き残る。俺の得意分野だ。


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