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おじさんはおいしい3


「それで、これから私はどうすれば良いんです。ここで一生を過ごすのでしょうか?」


帰れないと言われたらそれも視野に入ってしまうな。できれば帰りたいものだが。


「ああ、それなら大丈夫だ。ここから主を元の場所に戻す算段はついているからな」


「やっぱり無理か……え?帰れる?」


「無論だ、別に主が初めての迷いというわけでもない。手順を踏む必要があるが帰れる」


「良かったあ……」


まさか普通に帰れるとは……予想以上に異世界が優しい。


「でも……まあ、ここに居たいというなら別にいつまでも居てくれていいのだぞ……?」


「いやいや迷惑だろうから可及的速やかに帰るよ」


「そう……か」


なぜだろうか、しょんぼりしているように見える。厄介払いができて万々歳だと思うけど……。


「それでどうやったら帰れるの?」


「行脚だ、世界にある地脈を踏破してからでないと帰せない」


「あんぎゃ……って徒歩で世界回るってことかな?」


「その通りだ、主の存在を地脈に刻みつつ行かねば中途半端に送り返してしまう」


かべのなかにいる。もしくは上半身だけとかは嫌だなあ。


「それってどれくらいかかるの……?」


俺はもう足腰キツくなってきてるからあんまり歩きたくはないんだけどなあ……どうかなあ……いっぱい歩きそうだなあ……。


「そうさなあ……我ら大神でも一年がかりとなる。主では3……5年ほどかかるやも知れんなあ」


あー……予想の遙か先を行く長期間だったなあ……え……辛い。


「我も一緒に参る故そんなに心配なされるな、きっと指一本囓らせはしないぞ」


どうして長期間なのに嬉しそうなんだろう、俺にはちょっと分からない。


「私はそんなに若くありませんからご迷惑をおかけすると思いますが……よろしくお願いします」


「そんな風に言わないでくれ、これは我の贖罪でありやりたいことなのだ」


「そう言ってもらえると助かるよ」


「では、早速なのだが旅立ちの支度をせねばならぬ。良い思いはしないと思うが市へと出るぞ」


食べられないと良いなあ……。


「あ、名前は……なんて言うの?」


「言いそびれていたか、我は大神家の末子のホロと言う」


「そっか……ホロちゃんよろしくね」


「きゃうん……主よ真名で呼ぶのは二人きりの時だけにして欲しい。普段は字のケウと読んで欲しい、その……真名を呼ばれるとこそばゆいのだ」


「分かったよ」


真名とか字とかあるのか、覚えておかなきゃいけないいけないな。現にホロちゃんをこんなに恥ずかしがらせてしまった。真っ赤だ、ここまで目に見えて赤くなるのは見たことがないな。


「いくぞ主」


手を引かれて玄関まで行くと真新しい草履と思われるものが用意されていた。


「履き方は分かるか?」


「ごめん、分からない」


「よいよい、こういう世話をするのが縁だからな」


すごくてきぱきと履かせてくれた。


しかしこの履き心地は何というか慣れるまで大変だなあ。


「さあ、これで大丈夫だぞ」


「ありがとう、速く自分で履けるようになるよ」


「む?いやいや覚えなくていい。我がやれば済む話ゆえ」


さてはこの子ダメ男製造器の素質があるな?あまり甘えすぎないように注意しなければ。


「ささ、こちらだ」


嬉しそうに引っ張っていってくれるのは嬉しいのだけれど。


「ぜぇ……ぜぇ……ごめんねえ……体力……なくって……」


小走り程度かもしれないけれど……辛いんだ。


「すまない……あまりに嬉しくて早足になってしまった」


「次から……はぁ……ふぅ……少しゆっくり目にしてくれると……はぁ……嬉しい……な」


「心得た、それでこの万屋に来ればだいたいのものが揃う。特に欲しいものがあれば言ってくれ」


ようやく視線を上げられる位には息が整った。


「うわぁ……すごい」


なんだろう、○○屋本店的な非常に大きな和風の店舗だった。いろんなものが並んでるのが見えるけど何なのか絶妙に分からないあたりにやはり異世界だということを感じさせられる。


「あと、気をつけて欲しい事がある。今は我のせいでこうなってしまったがあまり汗をかかぬ方が良いのだ、やはり香りが広がってしまうといらぬ雑事を招く」


「……気をつけます」


無理を言うなぁ……でもまあ心がけるくらいはできるか。


「んん?なんじゃあ、ワシ好みの芳醇で濃厚な匂いがするのう」


早速トラブルに巻き込まれそうな気がする。嫌な予感がひしひしとするぞ。


「主、こちらへ」


隠れられるようなところへ連れてってくれるのかな。


「しばし辛抱を」


「うわっぷ……!?」


粉みたいなものかけられたのか……なんだろうこれ強烈な花の匂い……頭がぐらぐらする。


「これは大神の香だ、本来は薄めて使うが緊急ゆえそのまま使った。強すぎる香りにあてられると良くない。口で息をするように」


そう言ってから近くにあった大きな籠の中に入れられた。


「わか……た」


頭が痛い……もう吸いすぎたのかも知れない。


「ありゃ?匂いがしたような気がししたんじゃが……そこな大神よここいらで人間を見なかったか?」


籠の隙間から見ると着物を着た二本角の鬼の少女がそこにいた、腰までの黒髪を紐でまとめている。


問題はその雰囲気だ、明らかにカタギじゃない。一度ヤのつく自由業の方々と関わることもあったけどそれと一緒で暴力を生業にするものが纏う空気を確かに持っていた。


「我はそのようなものは見ていない、そもそもこんな所に人間なぞいたらたちどころに喰われるか囲われるかするだろうな」


「ま、それもそうか。気のせいかのう、ところでどうしてそんなに強い香を使っておるのじゃ?別に長旅をしてきたわけでもあるまい」


そうか……匂い消しに使うのか……体を洗えない状況もあるしな……。


「なに、我が体の問題ゆえお気になされるな。強いて言えば赤ゆえな」


「赤……なるほど。大神も大変よのう」


「もう慣れた、用件はそれだけか。後ろからお仲間が追いかけてきているようだが?」


「あいつらも年々ワシを見つけるまでの時間が短くなってきておるな……もっと上手い逃げ方を見つけねば……捕まるわけにも行かぬからなこれにて失礼するのじゃ」


危機は去ったか……良かった。


「ああそれと……隠しごとはもっと上手くやらねばならんぞ、誰もかれもワシのように騙されてくれる訳ではない」


はっきりとこちらを見て言った、背筋が凍る。その視線は明らかに捕食者の視線だった。ホロちゃんが俄かに焦った顔になる


「その時はわが牙と爪で相手をするまで、別段問題はない」


「それならば良いのじゃ、しっかりと守らねばすぐになくなってしまうからの」


予想外にあっさりと引き下がってくれた、もっと何か言うかと思っていたんだけど……。


「分かっている」


「また会うことがあればその時はやりあうことになるかもしれん、鬼は気まぐれじゃ気をつけい」


そう言って走り去ってしまった。それから少しして男の鬼の一団が追いかけていく。


「お嬢~~まってくだせえ~~!!」


「親父に叱られますぜ~~!!」


「外に出るたびに逃げ出さないでくださいよ~!!」


お嬢って言ってたな、つまり最初に俺を食おうとしていたのはさっきの……本当に危なかった。


「もう大丈夫だ……主どうした!?」


「あ、ごれはぎにじないで。ただのがふんじょうだがら、へぶしっ!!」


まさな匂いでもダメとは思いもしなかった、次から次へと涙と鼻水が出てくるな。さっきの粉には花粉も混ざっていたのだろうか。


「かふんしょう……病気なのか……!?」


「いやびょうぎといばぞうだけど……だいじょうぶすこしすればおちつくから、くしゅんっ!!」


久しぶりにここまでズルズルになった、花粉の季節じゃなかったから特に薬も飲んでいなかったし。


「あ、あああ、またしても主を窮地に……」


顔色が真っ青だ、そんなに心配しないでほしい。


「あーん」


は?


獣顔、牙、生暖かい息、そして長めの舌。


それらが近づいてくる。


「あの……汚いから舐めらないほうが」


「主に汚いところなどない」


言い切られた。


「でもやめたほうが……」


「……正直に言うと、さっき主がとられるかもしれないと思ってから我慢が効かない。噛みついて消えない傷を残してしまいかねないのだ、償いもかねてぬぐい取らせてほしい」


だったら手ぬぐいか何かでお願いしたいと思ったがこの目はだめだ、何を言ってもきかない類の目だ。この目をしている人に何を言っても無駄だ。


諦めよう。


「じゃあ……お願いします」


「わふっ!!」


この後諸々の液体が止まるまで舐め回されました。そのあとのホロちゃんはやけにツヤツヤしていた気がする










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