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牡丹灯籠

久しぶりの更新です。ネット小説大賞一次通過したので

 法治国家である日本では個人的な復讐は禁じられている。訴えるという手もあるが、権力や財力をもった相手だと返り討ちあってしまう。金があれば良い弁護士を雇えるのだ。

そして金があれば札束に物を言わせて力づくで解決する事が出来る。下手すりゃ訴え様とした側が行方不明になる事もあるのだ。

来世先生は高校の先生、いわばサラリーマンである。一方の根取はお抱えの弁護士もいる大会社のお坊ちゃま。戦力差があり過ぎる。


「先輩、どうやってと根取と渡り合うんですか?根取数基は何回も訴えられているんですよね」

 晴野さんの言う通り根取は、これまでも人妻に手を出して何度も訴えれている。その束に金で解決してきた。今回は浮気の期間が短いので、取れても数十万が良いところ……本当に理不尽極まりない。探偵小説のヒーローなら、拳銃や拳を使って解決したと思う。


「今回は許可が降りたから、大丈夫だよ。ここからが探偵の本領発揮だ」

 文太の許可が降りたって事は、思記紙が使えるって事だ。そして文太の上役は、高位の神霊。

 つまり多少えげつない手を使っても許されるし、その方が来世先生も幸せになれるって事なのだ。


「でも、どうするんですか?物語みたくは上手いく方法なんてありませんんよね」

 物語りの探偵は正義の味方で八面六臂の活躍をする。事件を解決するし、悪者も退治してしまう。必ず事件をハッピーエンドに導く。

でもリアルな探偵が出来る事は調査だけだ。それも依頼人が指定した調査対象しか調べる事が出来ない……正確に言うと出来なくはないけど、料金が発生しないのである。

浮気なら浮気をしているかどうか。相手を訴えるなら、どんな職業で金をどれだけ持っているか等……今まで根取に奥さんを盗られた人は離婚と慰謝料に重きを置いていたから、そこまで詳しく調べなかった。

 でも先生は奥さんの気持ちを取り戻したいと言った。その為には根取にダメージを与えておいた方が良い。


「調査対象を広げる。根取の悪名は十分広まっているだろうから、こっちの味方になってくれる人がいる筈だ」

根取は名ばかりだけど、店長だ。いわば従業員を管理する立場にある。その店長が既婚者の従業員に手を出したのは流石にアウトだ。


 調べてみたら、面白い事が分かった。根取には弟がいた。これがかなり出来る奴らしい。しかも、創設者である祖父のお気に入り。


「根取の両親は兄である数基に跡を継がせたいけど、周囲が反対しているみたいだ。その所為で派閥が出来たみたいだけど、今は弟派が優勢らしい」

 優勢というか、殆んどの社員が、弟である賢雄よしおについているそうだ。


「数基は優秀な弟賢雄に負けるのが怖かった。女遊びは現実逃避が原因なのでしょうか?」

 きっと晴野さんは、サスペンスドラマが大好きだと思う。優秀な身内に脅威を感じるのは分かるけど、数基の場合人の何倍も恵まれているから同情は出来ない。


「こういう時の理由なんて、本人の良い訳でしかないんだぜ。なんとか賢雄とアポが取れた」

 これまで培ったコネクションを活用し『お兄さんの事で話があります』と伝えたら、直ぐに食いついてきたのだ。

 まあ、探偵から話がありますって言われれば大抵の人がビビる。誰で大なり小なり身に覚えるあるのだ。それが問題児の兄となれば、尚更だろう。


「今回は車で行くんですか?」

 大会社だから当然駐車場はある筈。


「向こうから迎えがくる手筈になっている。出来るだけ外に漏らしたくないんだろうな」

 受付けで『氷室探偵事務所から来た田中です』なんて言ったら、騒動になる可能性がある。

 そして迎えに来たのは、黒塗りのリムジン。俺なら絶対にぶつけてしまうでかさだ。車に近付くとわざわざ運転手が降りてきて、ドアを開けてくれた。


「氷室探偵事務所の田中さんですね……根取賢雄です。また兄が問題を起こしたのですか?」

 広い車内で待っていたのは眼鏡を掛けたイケメン。その隣には屈強なボディーガード。


「依頼者は会社を訴える事も考えているそうです」

 今回の件をまとめた資料を賢雄に手渡す。賢雄は資料をめくる度に深い溜め息を漏らす。


「被害者の方には大変申し訳ない事をしました。会社としても出来る限りの事をするつもりです……それと氷室探偵事務所の田中さんが関わっているという事は、兄に悪い霊がとり憑いているのですか?」

 とり憑いているってレベルじゃないんですけどね。

しかし、大会社のお坊ちゃまが俺の事を知っているとは……うまく事を運べば太客になってくれるかも知れない。


「正直、もう手遅れですね。放置すれば周囲に害が及びます」

 思記紙使用の許可が出たって事は、根取が社会の害悪と認定されたって事なのだ。

 

「会社としては、もう十分害は出ているんですけどね……でも、田中さんと知り合えたのは不幸中の幸いです。我が社は外食産業がメインです。そういう話が出ると従業員のモチベーションだけでなく、店の売り上げにも悪影響が出ますので」

 よく店にお札が張っていたって会談を聞くが、あれはアウトだ。お札を貼ると、霊はそこから出られなくなり恨みが強くなってしまう。本来はお札で落ち着かせながら、お経や供物で成仏してもらうんだけど……お経が聞こえるファミレスなんて人気が出る訳ない。


 校長にお願いして、来世先生に偽の泊まり出張を入れてもらう。同時に賢雄さんに頼んで、数基と奥さんに連休を付けてもらった。

 今の二人なら、どこかで会う筈……そう思って数日間予定を開けて置いたのに。


「根取、初日から来世先生の家に来ましたね」

 双眼鏡で監視していた晴野さんが溜め息を漏らしながら、報告してきた。我が物顔で来世先生の家に入って行く根取数基。車中には来世先生もいる訳で、非常に気まずいです。


「先生、頃合いを見て家に入りますよ……辛いと思いますが、気持をしっかり持って下さい」

 自分で言っておきながら、無茶振りだと思う。奥さんや間男に制裁を課してやると意気込んでいる人ならまだ良いが、よりを戻したいと思っている先生だと心が壊れかねない。

 文太から連絡が来たので、先生に家のドアを開けてもらう。


「なんですか?この甘ったるい匂いは?それに空気が澱んでます」

 晴野さんの言う通り、室内には甘い匂いが充満していた。でも、決して良い匂いではない。甘い香水を煮詰めたような、吐き気を催す匂いだ。


「この声は妻の……」

 来世先生はそう言ったきり、押し黙ってしまう。その目からは幾筋もの涙が伝っていく。

 部屋の奥からは男女の睦事が聞こえてきている。それは愛のささやきというより、狂った絶叫といった方が近いかも知れない。


「二人共、しめ縄の中に入って下さい……色情霊が寝室から溢れ出てきてら」

 俺は慣れているし、数珠を付けているから平気だ。でも、晴野さんや来世先生が色情霊にとり憑かれたら、まずい。

 2人には電車ごっこの要領で、しめ縄に入りながら進んでもらう。

 

「久世、根取君!全部分かっているんだぞ!」

 先生がドアを力任せに開けるが、二人は構わず事を続けていた。一瞬だけ、奥さんの目に悲しみの色が浮かぶ。


「真面目君!よく見ろ。お前の女房を寝取ってやったぜ。ヒャーハー、女最高……そろそろ変われよ……次は僕の番だぞ」

 根取は先生を嘲笑う。一方の奥さんは無表情だ。


「先輩、根取の声おかしくないですか?まるで、人が変わったみたいです」

晴野さんの顔は恥ずかしさで赤くなっていたが、今は恐怖で青ざめている。


「色情霊に乗っ取られたのさ……出て来るぞ。ここからは無理に見なくてもいいぞ」

 根取の口から何十体物霊が出て来た。全て男の霊だ。年齢も体格もバラバラだけど、皆歪んで笑顔を浮かべている。


「主殿、思記紙を使って下され」

 文太の許可が出た。有り難い事に、うってつけの思記紙を持っている。


「思記紙よ。その力を我に貸し給え……牡丹灯篭さん、お願いします」

 思記紙に念を注ぐと、虚空に消えて行った。代わりに聞こえてきたのは三味線の音と、カランカランという高下駄の音。


「ここ家の中ですよね?なんで花魁道中が……」

 現れたのは幾人もの遊女を従えた牡丹灯籠。その背後には巨大な廓が見える。


「さて、みんなお客様をお店にご案内しなさい」

 牡丹灯籠がそう言うと遊女達が、色情霊の腕を掴む。その手は骨がないかの様に、柔らかくしなやかに色情霊の腕に絡んでいく。


「うちの廓は、地獄行き。現世の廓は女の地獄でしたが、この廓は女を性のはけ口としか見なかった男を地獄へ送る為の物……暴れても無駄ですよ。霊になったら、腕力は関係ないんですから」

 牡丹灯籠は口元を手で覆うと、嫋やかに笑った。色情霊が剥がされた所為か、根取と奥さんの顔が素に戻っていく。


「頼む。金なら幾らでも払う。だから、助けてくれ。お願いだ」

 丸裸で土下座する根取に牡丹灯籠が近付いていく。


「哀れな男。お前は空っぽなの。何も大切な物を持っていない。だから、人が大切している存在を奪って、心を満たそうとした。やり直す機会は、何回もあったのにもう手遅れ……謝罪は地獄で閻魔様にしなさい」

 牡丹灯籠はそう言うと、根取の魂を抜き取り地獄へ通じる廓へと連れて行った。

落選までは更新します

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