第1章第7話 修学旅行当日⑥
絶望感だけが胸中に溢れる。
「どうして、どうして、どうして!!」
俺は床を思い切り叩きながら、叫び声をあげた。
自分の口から出ているはずのその声は他人のもので、嫌悪感が増す。
手は思い切り考えなしに打って、徐々に赤みを増していく。
(痛い・・・。)
痛みなんて忘れることが出来ればどれほど良かっただろう。
「はるか!!大丈夫か!!はるか!!!」
大和の声が扉の向こうから聞こえてくる。
その声からは心配がひしひしと伝わってくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
その優しさに再び俺は叫び声をあげてしまう。
今までこんな風に叫ぶことなんてしたことなかった。
ましてや、人前で涙を浮かべるだなんて・・・。
そして、それと共に振り下ろす手の勢いも強く、早くなっていった。
「あ~もう!!」
大和が何かを決意したかのような気がした。
「おらぁ」
瞬間。自分の後ろの方からすごい音が聞こえてくる。
「は、はるか、お、お前何してんだよ!!
かと思うと、大和が怒声を発しながら俺を抱き寄せてきた。
俺は恐る恐る音のした方向を見る。
そこにあった。いや正確に倒れていたのは自分がこの部屋に
閉じこもった時に見た扉で、何が起こったのかを瞬時に理解してしまう。
「え、はる君、ちょ、そ、それ!!」
遅れて入ってきた明日香の瞳に俺の腕が写った瞬間、彼女の顔は青ざめる。
(いったい、どうしたんだ・・・。っ痛っ)
明日香の瞳の先を追った俺は自分が今までしていたことの代償に気付く。
先ほどまで白くて綺麗な指だった自分の手には床を叩き続けたせいで生まれた
傷が痛々しく腫れあがり、所々から血が噴き出している。
指の形も少し変形してしまっていた。
「うっうっ・・・。痛い!痛いよぉ・・・。」
痛みを思い出してしまった俺はまたもや泣き出してしまう。
涙はその痛みがどれほどのものかを物語るように後から後から止まってくれない。
「大丈夫だ。大丈夫だからな。遥」
そんな俺のことを大和は慰めるように背中を摩ってくれた。
さっきまでは自分も男だったはずなのに、なぜだか大和の温もりに
もっと包まれたいと願ってしまう。
知らず知らずのうちに自分の腕を大和の背中まで伸ばし、抱き寄せてしまう。
そんな俺の心をくみ取ってなのか、大和の腕の力も強まった。
それはさながら愛を交わしあう恋人同士のようだった。
「うっうっ・・・。ひっく・・・。うっうっ・・・。」
涙はやっと収まってくれたものの、やはり辛いものは辛い。
手の痛みもさることながら、
鏡に映される自分の変わり果てた姿を見る度に心が抉り取られる