第1章第4話 修学旅行当日③
飛行機から降りた俺たち、今までとは全く違う外国の空気を感じ、
これからの3日間に胸をときめかせていた。
「やっと着いたね~。はるかくん」
「そうだな。唯!!まぁ、でもひとまずはこの荷物をどうにかしてほしいよ」
「はは、本当にそうだよな。あ~、重い重い」
「もう!大和、アンタそれでも男なの!?こういう時には女子の分も
すっと持つのが男ってもんでしょうが」
明日香は大和に対しては本当に厳しかったが、大和も満更でもないようだった。
「はぁ。しょうがない奴だなぁ。ほら、貸せよ」
大和はすっと明日香の手元から、
ボストンバックを奪うとそのまま歩き出していった。
「えっ。冗談のつもりだったのに・・・。でもありがとね大和」
明日香も今回ばかりは一枚、上手を取られたと思ったのか素直に感謝していた。
「ほんと、明日香ちゃんと大和君って仲良しだよね。夫婦みたい。ふふ」
「あ~、本当にな!!」
「いつか私たちもあんな風になれるといいな・・・」
俺と唯は大和と明日香のやり取りを見て微笑ましい気分になっていた。
早くアイツらも付き合えばいいのにと思うほどで、
時々恋人同士の俺たちでさえ二人の仲良さには妬くくらいだった。
そして最後に唯は何かを小声で言っていたのだが、その言葉は聞こえなかった。
「それでは今から各班で自由行動となるが、くれぐれも気を付けていくんだぞ。
もし何かあったときはすぐに俺か篠宮先生に電話を掛けるように。
それで15時過ぎには次の場所に行くから10分ほど前にはここに集合な。以上」
俺たちの担任である里見先生と副担任の篠宮先生はそうした注意を行ってから、
俺たちを送り出してくれた。
班の構成は、いつものメンバーだ。
俺と唯、大和に明日香の4人。
この4人でいるときは本当に楽しくて、
これから先もずっとこの関係が続いていけたらいいな。と思う日ばかりで、
この修学旅行でも真っ先に声をかけた。
(まあ、大和も明日香も同じ気持ちだったようで、
声をかけに行った時にはまるで示し合わしたかのように
「一緒の班にならないか?」ってはもって言って、
クラスの皆には注目されてたなぁ。)
そんな他愛無いことを考えながら、
俺たち4人は事前に建てた旅行の計画に従って目的地へと向かっていた。
そんな時に、あの自販機はあった。
それは俺の瞳を引き寄せて離さなかった。
(なぜだろう。なんかあの自販機、すごく気になるなぁ。)
「なぁ。みんな。少しだけここで待っていてくれないか?
俺、飲み物買ってくるよ」
あまりにもその自販機のことが気になってしまった俺は、
みんなの足を止めてもらって、その自販機にやや駆け足になりながら、
足を進めていった。
背後から大和の「俺の分も頼むぞ」という声を聴きながら、
どんな飲み物が売っているんだろうと
今まで感じたことのないほどの好奇心に駆られていた。
その自販機は、今まで見てきたどの自販機と大きく違う点が2つあった。
一つはその自販機の奇抜さ、
俺がこの自販機にくぎ付けになっていた理由がまさにこれで、
一般的な自販機は形が縦に長いものが主流でお金を入れる場所が
自分の手を少し上げれば届く場所に位置し、
飲み物が出てくる場所も長方形の下部に位置することだろう。
しかしこの自販機は、形は三角形で、
なぜかお金を入れる場所が下の方に位置していて、
腰を下ろさなければお金を入れることのできない、
消費者の利便性を全く考慮していないそんな場所に位置し、
それに加えて、飲み物が出てくる場所がまさかの上からなのだ。
つまり、お金を入れる位置と飲み物が出てくる位置が
一般的なものと反対の位置にあるのだ。
そして2つ目は、飲み物の種類
これは近付いてみて初めて気が付いたことだったが、
この自販機にはおよそ一般の常識では考えられないようなことが起こっていた。
そう、上から下、右から左どこを見ても売ってあるのは
たった一種類のラベル。
加えてそのラベルに書かれている文字は読むことのできない字で表記されていて、
俺は必死で頭をひねるもののその答えが分かることはなさそうで、
自分の期待していたようなものはでなかった。
俺が期待していたのはもっと高そうなジュースだとか、
見るからに美味しそうなパッケージで包装されたものだったため、
正直言って残念な気分に陥った。
しかし、ここまで来て買わないというのは少し気が引けるし、
もしかしたらこんなパッケージでも中身はすごく美味しいかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、自販機の飲み物としては
割高の200円を投入して、購入した。
「はぁ~」
本当に今日の俺はなんてついていないのだろうか。
さっき買ったジュースを口に運ぶたびに、ため息が出てしまう。
200円という値段を払ったにも関わらず、このジュースの味は美味しくもなく、
不味くもないといういわば微妙な不思議な味わいだった。
なんだか酸っぱいような甘いような、それでいて時々味が全くない部分もあり、
そうかと思えば、一気に濃縮されたかのような濃さの部分もあったりと、
味よりも製法に気がいってしまうほどだった。
そして、何回目かのため息をこぼした時だった。
突然、体の奥底から火が炊かれたのかというほどの高熱が
俺の体を内部から襲い、俺の視界はたちまち暗転しだした。
あれ?ちょっとおかしい・・・。
と思った時にはすでに遅かったようで、
俺の眼前にはいつの間にかコンクリートが迫っていて、
遠くの方から3人の焦った声が聞こえてきた。
「は、はるかくん!?どうしたの!!え、え、」
「おい!!遥!!大丈夫か!?」
「ちょっ、はるくん!冗談でしょ・・・」
そんな3人の声に応答しなければ。
そう思ってはいるもののどんどんと俺の意識は俺の肉体から
離れていくような感覚がして、3人の声や周りの雑音の一切が、
それから数分も経たないうちに消えていった。
残ったのは、単なる真っ暗な闇だった。