第1章第3話 修学旅行当日②
そして飛行機に搭乗した俺たち4人は、近くの席に座った。
左から大和、俺、唯、明日香の順番で、配慮してくれたのかと思った。
しかし、そんな思惑は全く頭にもなかったようで、大和は俺に本を渡してきた。
「な?遥、これ一緒に読もうぜ。お前も好きな漫画の最新刊!!」
大和はそんなことを言いながら、
俺と大和の間にある腕置きのところに漫画を乗せてきた。
(大和、俺は少しお前のことを見直していたんだけど。
こうやって彼女と隣に座らせてくれる配慮のできるやつなんだって!
そ、それなのに、お前ときたら)
俺の感心していた時間を返せとでも言わんばかりに、
俺は大和が一緒に読もうとして置いた本を自分の手元に置いた。
「はは、お前そんなにも今回の巻が気になってたのかよ~。
しょうがないな。一緒に読んで感動を共有しようと思っていたけど、いいぜ。
ゆっくり読みな」
しかし、俺の思惑が大和に伝わることはなく、
逆に一人でゆっくり自分のペースで読みたいとでも取られたようで、
そんなことを言いながら親指を立ててきた。
俺はこのまま読むべきなのか。とチラッと唯の方を見ると彼女は
明日香との話に花を咲かせていて、
やや煮え切らない気持ちのまま大和から強引に奪い取った形になった本を読むことにした。
数十分後
俺は涙が止まらなくなっていた。
それもそのはず、大和から奪い取った漫画が今まで見た話の中で
比較ができないほどに素晴らしく、
それに加えて俺の大好きだった主要人物が主人公をかばって死んでしまい、
主人公がその人物と過去に交わした約束などが回想され、俺の涙腺は完全に崩壊した。
「ううっ!なんでアイツが死ななきゃいけなかったんだよ~。
せっかく主人公と仲直りできたところだったのに・・・」
「そうだよな!!遥!やっぱりお前には分かると思ってた!!
ほら、これ使えよ?俺もこの話を読んだ時には泣いちまってさ、
ティッシュ箱を片手に抱えたものだ」
そう言いながら、ティッシュケースを渡してくれる大和に感謝しながら、俺は鼻を啜った。
この時だけは俺のいつも演じていたクールな顔は見る影もなく、
唯も少し幻滅してしまったかもしれないと感じていた。
しかし、唯はそんなことは気にしていないようで俺の背中を優しくなでてくれた。
ただ彼女に慰められる彼氏ほど恥ずかしいものはない。
俺はまだまだ流れそうな涙を必死に抑え込み、唯の顔を見た。
「もう大丈夫だよ。みっともないところを見せてしまってごめんな」
俺がそうして謝ると、唯は不思議そうな顔をしたかと思うと、俺の頭を軽くなで始めた。
「いいんだよぉ。それに私としては彼女の前では悲しい顔は見せないとかいう人よりは、
私の前でもしっかり泣いてくれる人の方が好きだよ~!
だってその方が悲しみが半分こできるから」
そんなことを言ってくれるとは思ってもみなかった。
(てっきり「女の子の前で泣くとかちょっと」とか思っているものだと思っていた
というか「悲しみを半分こ」って天使かよ。
可愛い上にこの優しさ、本当に俺はなんて幸せ者なのだろうか)
こうして俺の中で唯への愛しさはもう振り切れる一歩手前まで行き、
幸せの絶頂なのではと思うほどだった。そのためか俺は思わず口走ってしまった。
「ああ、本当に好きだなぁ」
ついついそんなことを言ってしまっていた俺は急いで、唯の顔を確認した。
すると唯の顔はリンゴのように真っ赤になっていて、あからさまに照れていた。
「も、もう!!そんなこと言われたら恥ずかしいよぉ~。やめてよぉ」
その後、俺と唯は旅行先に着くまで顔を赤らめていて、
明日香と大和はそんな俺たちを微笑ましげに見ていた。