第四話 解かれた鎖
創作文章/御題バトン【壱】
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【7】を使用。
ガンッと物凄い音がして壁に机が激突した。
「おい、落ち着け香取」
「これが落ち着いていられるか?!」
普通にしていても恐ろしい顔が更に恐ろしいことになっている。今ならこいつ、素手で殺しが出来そうだと若干後ずさりしながら友人をなだめた。
「俺達はこういう事態が起きた時の為に訓練を続けてきた。指を咥えて見物する為じゃないぞ!」
更にもう一つの机が壁めがけて飛んだ。今ので壁に穴が開いたかもな~などと他人事のように思いながらもどうしたものかと思案する。大使館が占拠されたという一報が届いてから香取はずっとこんな調子らしい。今は下手に刺激しない方がいいだろうと判断し、彼から離れた。
「笠原、情報部の三笠を探し出して呼んで来い。こっちに来ている筈だ」
暴れている隼人の耳に入らないように遠巻きに立っていた彼の部下に指示をする。手がつけられない猛獣には首輪をつける猛獣使いが必要だ。こんな気が立っている状態では連れ出す許可が出ない。もう少しクールダウンしてもらわないとこちらとしても困るのだ。
30分後、やってきた三笠は廊下に出ている俺を見て眉をひそめた。
「霧島さんでも手がつけられないって何事です?」
「あれだ」
部屋の中を覗けと示す。中からはただならぬ気配が漏れ出ている。視線を転じれば幾つかの机と椅子が散乱し、隼人が黙ってこちらに背中を見せて座っていた、殺気じみた気配を漂わせて。
「うわあ……」
「もう少し落ち着かせてくれ。森永のオヤジに会わせても問題ないように」
「一佐に、ですか?」
「ああ」
「どうして……?」
「重光大臣が待っている」
それで合点がいったと頷くと、三笠は誰も入りたがらない猛獣のいる部屋へと一歩踏み出した。
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「香取さん」
名前を相手が呼ばれて振り返る。その目つきは鋭く知らない人にはヤクザに間違われても仕方がないと思えるものだった。
「どうしてお前がここにいる」
「霧島さんに呼ばれました、貴方を落ち着かせろと」
「俺の、どこが、落ち着いていないと?」
その問いに引っ繰り返っている机や椅子を元に戻しながら黙って彼の顔を見る。これのどこが落ち着いている人間のすることなのかと。
「今のままでは森永一佐に会わせる訳にはいかないと、霧島さんが言ってましたよ」
「森永のオヤジに?」
「少し外の空気を吸いませんか? ここにいても気持ちがクサクサするだけでしょ」
「クサクサなんぞ……」
「してますよね? そんな顔してます」
有無を言わさず香取の腕を取り部屋の外に連れ出した。廊下に居合わせた者達がさっと廊下の脇に移動する。俺はモーゼかと呟く彼に思わず声をあげて笑ってしまった。
「そんな殺気立っていればヤクザだって逃げますよ」
外に出てしばらく歩くと冬の凍てつく外気のせいで頭が少し冷えたのか、顔から少し険しさが消えたようだ。
「まだまだ寒いですね。花咲く季節はまだ先かあ」
それはまるで自分達の歩む道のりのようだと思う。そこまでの道のりは遠く険しく、夢見た大輪の花を咲かせるまでには更に多くの難関が立ちふさがってくるのだろう、と。
「……すまないな。お前まで呼び出して」
「いいえ。私も呼び出しを受けていたから気にしてませんよ。頭が冷えたんでしたら行きますか? 群長と大臣がお待ちです」
険しい表情はそのまま、頭を切り替えると黙って頷いた。
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群長の森永の部屋に入ると、そこには防衛大臣を務める重光がゆったりとした雰囲気を醸し出しながらソファに座っていた。
「少しは頭が冷えたようだな、香取」
自分の上官から厳しい視線が投げられる。
「申し訳ありません」
「お前とお前の部下、三人。直ぐに準備をしろ」
名前の書かれたメモ書きを森永から渡された。
「お前達の他に海自の特警からも四人。変更は認められん。あちらからの指名だ。メモは読んだら直ぐに焼き捨てるように」
森永は厳しい口調で命令すると、横に立つ霧島と三笠に目を向けた。
「お前達もだ」
「我々も、ですか」
驚く二人に対して重光大臣が頷く。
「自分達が集めた情報がどう使われるのか自分の目にしておくことも大事だろう。私の補佐兼警護要員として連れていく」
「我々にとっては重たい一歩だ。その点を肝に銘じろ。出発は0230。以上だ」