第一話 散るは赤き花
創作文章/御題バトン【壱】
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【1】【2】【13】を使用。
スコープの中に捕らえた男はグラスを片手に呑気に笑っていた。
一呼吸置いた後、引き金を引く。一発目、笑っていた男の顔が怪訝なものに変わり自分の服に広がる赤いものに手をやった。二発目、男が膝をつく。三発目、額を穿つ穴が開いて白いゲレンデに赤い花が咲き乱れた。
花なき日の雪の中、足元に散るは赤き花、か。悪党にしてはなかなか詩的な死の舞台ではないか。本来ならば直ぐにでも跡形もなく消炭にしてやるところだが、今回は観客が見ている、こういう演出もたまには必要なのだろう。周囲の人間が騒ぎ出し、護衛の黒服達が銃を片手に周囲を警戒する。
―― ふん……時既に遅しだ、クソ野郎共 ――
遠くから爆音が接近してくる。地面に伏せたまま音の方向に転じると、友軍の戦闘機が超低空で山間に侵入してきた。弾薬を満載したストライクイーグルが二機。
―― ご丁寧に二機かよ……大サービスだな ――
ここに居合わせた人間を誰一人として生かしておくつもりはないらしい。彼が見守る中、イーグルは搭載していた弾薬を全て投下しその場を火の海にした。しばらく旋回した後、こちらに合図を送るように翼を上下に振ると二機はその場を離れていく。
『こちらナイトメア。狼、経過を知らせろ』
「こちら狼。消炭一つ残ってない」
念の為に赤外線スコープで覗くがその場に動くものは何一つない。きれいサッパリ消し飛んだ。
『首尾は上々ということか』
「二機も飛ばして何考えてるんだ、危うく俺も火傷しそうだったぞ」
『念には念を入れてだ。それと彼等と我々の友好の証しでもある』
「友好ねえ……」
胡散くせえ言葉だと鼻で笑うと相手もクスリと笑ったようだった。
『それにしても伝説のスナイパー殿が二発も外すとはな。さすがに耄碌したか』
一発目と二発目のことを言っているらしい。
「足止めさえすれば良かったんだろう? 最終的には消炭なんだからな」
『それは結果論だ』
「一発で仕留めたら見ているそっちにも本当に死んだかどうだか分からんだろうが。いわばデモンストレーションさ。別に外したわけじゃない、俺からのサービスだと思ってくれ」
『なら良いんだが』
「もう少し友人を信用したらどうだ」
『信用していなければこの作戦にお前を呼んだりしない。では合流地点で待つ。以上だ』
「へいへい」
―― 相変わらず食えない野郎だ ――
そう、別に外した訳ではない。そして勿論この様子を見ていた観客の為のデモンストレーションでもない。一発目は奴の女房の、そして二発目は産まれてくるであろう赤ん坊の為のものだ。だが、そんなことは彼等が知る必要のないことだ。本当の理由は我の心の中にのみ眠る、それでいい。
立ち上がると銃を肩に担ぎ、元来た道を戻る為に踵を返す。
―― 守りたいものがある、だから僕はこの手に武器を取る ――
そう言って爽やかに笑った年若い友の顔が青空の中に見えたような気がした。