表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻洋燈館  作者: サニー
其の壱 蝶の洋燈
1/10

(1)

―― お化け屋敷

 町内の人たちは、その古びた洋館をひそかにそう呼んでいた。

 建てられてから、すでに半世紀以上は経っているだろう。水色に塗られていた板壁はすっかりペンキがはげて、皮膚病のように見える無数の黒いひび割れにおおわれている。夏になると、錆びた鉄柵に囲まれた庭には人の背丈ほどもある雑草が生い茂り、庭の右手にある小さな池には青黒い濁った水が澱んでいた。その池から蛇やとかげなどといった気味の悪い生き物が這い出して、周囲の住人たちのひんしゅくを買った。倒れかけた門扉にかろうじて「大原」と読める表札が下げてあるが、人の住んでいるような気配はほとんどなかった。

 

 しかし、洋館の隣りに住む伊東のおばあちゃんは、ずっとその家が空き家ではないと言い張ってきた。この界隈では洋館とおばあちゃんの家だけが建て替えられず、昔のままの姿で残っている。伊東のおばあちゃんは、回覧板を持っていった時などに洋館の奥さんに会うのだという。

「大原さんの奥さんは、若い頃からきれいな人じゃったけど、相変わらず品があってね。娘さんも奥さんに似て、そりゃあ別嬪さんなんだよ」

 近所の人たちは、もう何年も前から、伊東のおばあちゃんに同じ話を繰り返し聞かされているので、その洋館は空き家ではないと思っていた。

 

 そして、その洋館の近所に住んでいる高坂亜矢という十九歳の女子大生は、ある理由で洋館に人が住んでいることを確信していた。


それは、大学に入学して半年ほどたった、しとしとと霧雨の降る初秋の夕方だった。亜矢は、洋館の出窓がかすかに明るいことに気づいた。よく見ると出窓に古い小さなランプが置いてある。 

 

次の日も、その次の日も、昼間は白いレースのカーテンが下がっているだけの出窓に、陽が落ちてあたりが薄暗くなると、小さなランプが置かれ、灯がともるのだ。それは今にも消えてしまいそうな儚げなオレンジ色の光に、青い蝶の模様がくっきりと浮かびあがる、アンティークなステンドグラスのランプだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ