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価値の定義  作者: 歌多琴
7/10

7

 愕然とした。

 私は一瞬にしてこの男性に対して、まったくもって勝手ではあるが、裏切られた気分だった。

 結局、趣味と思っていた素晴らしいことも、お金のためなのだろうか。

「で、でもいいじゃないですか。それだけ上手いんですもの。それでお金が稼げなくても、全然構わないじゃないですか」

 私はそう言わざるを得なかった。どうにかして、その裏切りを取り消してはくれないか。そう思ったからだ。

「いや、そういうわけにもいきませんよ」

 しかし彼は、困ることなく、照れることもなく、そう言い切った。

「ゲームを作るだけなら誰だってできますからね。それがお金にならないのなら、やる意味がないでしょ? やっぱり売れないと――」

「別にそれは趣味でいいと思いますけど」

 と、私は少し強めの口調で反論してしまった。

 ハッとして彼の方を見ると、彼は驚いている。

「す、すみません」

「いや、気にしないでください」

 そう言って彼は空になった私のグラスを見て「マスター。これと同じものをもう一杯」と言った。

 こんなバーでの典型文をまさか自分が言われる立場になるなんて、と思いつつも、彼の行為をそのまま受け取ることにした。


 そしてカクテルが来るまでの間、しばし沈黙していた私たちであるが、その後再び私が濁ったイエローを口に含むことで、話は再開する。

「なにか、気に触りましたか?」

 まったく、彼は謙虚であった。そういうところは私の夫と似ている。

「いえ、別に……」

 そう直接聞かれると返答に困るものがある。

 しかし彼は私の返答を待つので、もう一口カクテルを飲み、私は渋々答えた。

「そんなにお金って大事ですかね」

 それは彼だけに向けた言葉ではもちろんない。

「仕事でお金は稼ぐじゃないですか。それだけではいけないものですかね。もっと稼ぎたいって、そう思うものですかね」

 と私は吐き出してしまった。

「…………」

 彼は何も言わない。それはそうだろう。今日、先ほど知り合った女性に、趣味を否定されたようなものだ。

 なんだか気まずくなって、私も彼も口を開かなかった。

 またしばらくの時間が流れる。微かなジャズが、こうして聞くと私達を煽っているように聞こえてしまうのだから、私も相当病んでいるのかもしれない。

「それは……」

 と、先に口を開いたのは彼の方である。

「それは、旦那さんの話ですか?」


 なんということだろう。私は今すぐにでもこの場を去りたい気持ちになった。

 ずっと不満に思っていたことを、見ず知らずの男性に愚痴り、それを見透かされ、さらに言うと彼は私よりおそらくだが年下だ。そんな人に見透かされてしまうとは。

 そう感情的に思ってしまうものの、それでも今の流れから彼のように推測することは容易いのだろう。

「そう……かもしれないです」

 私は諦めてそう答えた。

 すると彼は「そうですか」と何も感じさせない相槌を打つと――。

「僕の人生観、と言っていいのかな。……僕の人生の進め方? いや、方針のようなものを語ってもいいですか?」

 そう私に尋ねてきた。

 人生観。または人生の進め方。もしくは人生の方針。

 私はとりあえず頷いておいた。


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