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愕然とした。
私は一瞬にしてこの男性に対して、まったくもって勝手ではあるが、裏切られた気分だった。
結局、趣味と思っていた素晴らしいことも、お金のためなのだろうか。
「で、でもいいじゃないですか。それだけ上手いんですもの。それでお金が稼げなくても、全然構わないじゃないですか」
私はそう言わざるを得なかった。どうにかして、その裏切りを取り消してはくれないか。そう思ったからだ。
「いや、そういうわけにもいきませんよ」
しかし彼は、困ることなく、照れることもなく、そう言い切った。
「ゲームを作るだけなら誰だってできますからね。それがお金にならないのなら、やる意味がないでしょ? やっぱり売れないと――」
「別にそれは趣味でいいと思いますけど」
と、私は少し強めの口調で反論してしまった。
ハッとして彼の方を見ると、彼は驚いている。
「す、すみません」
「いや、気にしないでください」
そう言って彼は空になった私のグラスを見て「マスター。これと同じものをもう一杯」と言った。
こんなバーでの典型文をまさか自分が言われる立場になるなんて、と思いつつも、彼の行為をそのまま受け取ることにした。
そしてカクテルが来るまでの間、しばし沈黙していた私たちであるが、その後再び私が濁ったイエローを口に含むことで、話は再開する。
「なにか、気に触りましたか?」
まったく、彼は謙虚であった。そういうところは私の夫と似ている。
「いえ、別に……」
そう直接聞かれると返答に困るものがある。
しかし彼は私の返答を待つので、もう一口カクテルを飲み、私は渋々答えた。
「そんなにお金って大事ですかね」
それは彼だけに向けた言葉ではもちろんない。
「仕事でお金は稼ぐじゃないですか。それだけではいけないものですかね。もっと稼ぎたいって、そう思うものですかね」
と私は吐き出してしまった。
「…………」
彼は何も言わない。それはそうだろう。今日、先ほど知り合った女性に、趣味を否定されたようなものだ。
なんだか気まずくなって、私も彼も口を開かなかった。
またしばらくの時間が流れる。微かなジャズが、こうして聞くと私達を煽っているように聞こえてしまうのだから、私も相当病んでいるのかもしれない。
「それは……」
と、先に口を開いたのは彼の方である。
「それは、旦那さんの話ですか?」
なんということだろう。私は今すぐにでもこの場を去りたい気持ちになった。
ずっと不満に思っていたことを、見ず知らずの男性に愚痴り、それを見透かされ、さらに言うと彼は私よりおそらくだが年下だ。そんな人に見透かされてしまうとは。
そう感情的に思ってしまうものの、それでも今の流れから彼のように推測することは容易いのだろう。
「そう……かもしれないです」
私は諦めてそう答えた。
すると彼は「そうですか」と何も感じさせない相槌を打つと――。
「僕の人生観、と言っていいのかな。……僕の人生の進め方? いや、方針のようなものを語ってもいいですか?」
そう私に尋ねてきた。
人生観。または人生の進め方。もしくは人生の方針。
私はとりあえず頷いておいた。