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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
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◆食べ物は大事にしましょう

 私は今、どんな姿をしているんだろうか。


 白い粉が付いているような気がするのは、気のせいだろうか。そうであって欲しい。だって、小麦粉もタダじゃない。1キロ68円の安物だろうと小麦粉は小麦粉。


「・・・、タマ、風呂入ってこい。」


 そこ、笑いたいんなら笑ったらドーデスカ?声が震えてますよ?


 家主である桐崎さんが、必死で笑いを堪えているのをジト目で見やりながら、私は渋々火を止め(IH調理器だった)、シュシュを取って、髪の毛を降ろした。


「小麦粉、無くなっちゃった。」


 全部ぶちまけてくれたおかげで、まだ600グラム近くあった小麦粉が全部空っぽ。

 この人はご飯は食べないんだろうか。食べないからこんな事が出来るんだろうか。それとも気まぐれでこんな事が出来るような人なんだろうか。だったら最悪だ。


「自分の事より小麦粉の心配か、お前は。いいから風呂入ってその粉を早く落してこい。」


「明日、買いに行っていい?」


「別にパンでなくてもいいから早く入ってこい。部屋が汚れる」


 まるで羽虫を追い払うかのような手つきで私を追いやる桐崎さんに恨みを込めた視線を投げ、そのまま浴室へと向かった。


 勿論風呂に入ってこいと言うからには、浴槽にお湯は張ってあるのだろうな、とは思わない。何しろ桐崎さんは火事や炊事の一切をしないからだ。スイッチを押し、お湯を張りながら、服を脱ぎ捨て、身体を洗ったついでに頭もきちんと洗う。


 シャンプや―ボディーソープの類は、特に私専用のものは買ってないので、桐崎さんが使っているモノを拝借している。ここで普通の子ならきっとフルーツ系のものを買おうと思うのだろうけど、私は雇われているような身分。わがままは言わない。それに、あの独特の甘い匂いは、あまり好きじゃない。


 髪も身体も丁寧に洗い終わると、丁度お湯が溜ったので、ザブリと遠慮なく浸かる。ちなみに今日の入浴剤はバスソルト。これは薬局でオマケで貰ったものだからタダだ。


「タダより高いモノはない・・・か。」


 ぽちゃん・・・と、水滴が浴室の天井から落ちてくる。水蒸気が水となって落ちてきたのだろう。


「いつまで、いられるのかな・・・。」


 今は良い。

 あの人のきまぐれで、ここで家政婦の様に暮らせていられるのだから。

 でも、きっといつかあの人も結婚して、奥さんが出来る。そうなったら私はまた一人に戻ってしまう。


 ――アンタなんか産まなきゃよかった!!


 ふいにあの人の顔と声が蘇る。


 私が捨てられた日は、冷たい霙が降りしきる日だった。

 病気だと病院の先生は言っていたけれど、あの人は病気なんかじゃなかった。


 お風呂に入ったのに、その日は何故かそれ以来気分的に寒くて、ご飯も食べずに寝てしまった。


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