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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
8/23

◆予定は予定、悋気は幼稚

更新

 あのね?予定はあくまで予定なのよ。

 で、当然その予定は突然無くなったり、キャンセルになったりするワケ。


 コレ、何処の世界でも共通の常識だよね?


「えーっと、なつお兄ちゃん、ちか、悪い時にきちゃったかな?」


 必殺、ぶりっこ能天気の術!!を駆使し、桐崎さん相手に猫被ってるのは、丁度これからって時に、私が何も考えずに帰ってきたから。

 でも、言い訳させてもらえるのならば、金持ちなんだからホテルに行けよって言うのが私の偽らざる本音であって、本心の願いであると同時に、助言でもある。


「やっぱり、前もって電話しておけば良かったよね?ごめんね、気が利かなくて。」


 しおしおと項垂れて見せるのは、綺麗なお姉様に睨まれない為の処世術ってやつ。そうでもなければ、誰が謝るか。


 オールで遊ぼうとも思ったけれど、最近は何処にでも警察や補導員がいる。だから仕方なくお見舞いを終えた後、ぶらぶらと店をめぐり、そこで運良く始まったタイムセールで得た戦利品の牛肉を使って、ビーフシチューでも作ろうと思いながら帰ってきた私を待っていた、この笑えない展開。


 偶然通りかかった洋食屋さんの前で、水を掛けてしまったお詫びにと、すっごく貴重だっていう赤ワインまで貰ってきたのに。(店の人は何処かで見た事のある男の人だった。)


(せめて、冷蔵庫に入れたい。でも、賞味期限、今日だし・・・。)


 スーパーの袋とキッチンの方を何度か見返した私は、食材を選び、桐崎さん達を無視するという実に破天荒で、無茶な道を選んだ。


 キッチンのカウンターに付いていた簡易の仕切りを下し、我関せずの態度を見せ、貫けば、自然と自分の集中力が高まりだすのが判る。


 ぺりぺりと玉ねぎの皮を手際よく剥き、それをタタタタっと、素早くスライスし、フライパンで飴色になるまでバターで炒めてから、圧力鍋に移す。本当は一から時間をかけて作りたいけど、何分光熱費の問題もある。でも圧力鍋ならそれと同様に美味しく作れる。


 牛肉と野菜を圧力に掛けている間に、ご飯を炊き、明日の朝食用のパンの用意もする。

 面倒な事に、桐崎さんの朝の食欲は、私より少ない事が例のおにぎりで判明した。


 私が買い物から帰ると、おにぎりは一つの半分しか減っていなかった。これではあのでかい図体を維持できない。なので、残った手段はご飯より熱量があるものを少しでも食べさせる事だった。


 最初は手っ取り早くバナナを進めてはみたが、バナナは朝食にはならないと言い張る桐崎さんに、私が大人の対応で折れてやり、それならサンドイッチか、クロワッサンを食えと、家主サマに命じた。


 それからは毎日パン食である。


「あ、イチゴジャムとオレンジのマーマレードがない。」


 別に私は無くても構わないけど、果して彼女さんはそれでいいものだろうか。


(まぁ、朝までいればの話だけど。)


 

 そう思いながら、小麦粉を練っては混ぜ、練っては揉んでいる内に、シュンシュンと鍋が音を立て圧力がかかってくる。これで後20分から30分も加圧しておけば、とろとろで美味しいシチューが出来るはず。それまではパン作りに集中していようと、我ながら自分の手際に悦に入っていた所で、突然キッチンカウンターの仕切りが上がった。


 犯人は誰かなど、聞かなくとも言わなくとも判る。


「ねぇ、あなた邪魔なのよ。帰ってくれない?」


(やっぱりね。プライドだけが高いんだこの人。)


 自分に落とせない男はいないと思い込み、信じ、疑っていない痛い女。その人に「あのね、ウチの家主サマ、あなたの事、本気じゃないよ?」って、教えてあげないのは、面倒だから。


 人の恋に首を突っ込む奴は、後々馬に蹴られる。そんなのはごめんだ。


 だから。


「なつお兄ちゃん・・・。」


 面倒な事は家主サマに押し付ける。


 うるるっ、と、嘘泣きで瞳を潤ませれば。

 

「耀子、アレは俺が預かってるんだ。」


 だから、という所で家主サマである桐崎さんの言葉は切れた。その次の瞬間、私に小麦粉がかかっていたのはお約束な話。


 


 


 

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