◆相手にしてる暇はありません
更新しました。
私の唯一無二の親友だった山野 真波。
その真波は只今出産間近。と言うか・・・。
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To:真波
Sub:あかちゃん
本文:もう生まれたぁ~?
生れたんならお見舞い行くよ~?
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連絡用にと預けられた携帯で連絡を入れれば、すぐに返事が返ってきて、私がそれをにやにやと見ていれば、私の向かいに腰をおろしていた男の人(当然結城さん)が、ピクリと反応した。
本当にこの人は心が狭い。
きっと真波はこの男に騙されているに違いない。
現に真波はこの男にメロメロ(死語)で、私の忠告には耳も貸さない。
だからこれはほんの仕返し。
「良かったねぇー?男の子だって。ほら、可愛くない?名前は結翔君だってさ。」
携帯の画面には、産まれたばかりの可愛い赤ちゃんと、ピースをしている真波の写真が写ってる。
それを見た結城さんの顔ったら、すっごく悔しそうだった。
今にも私の首を絞めるんじゃないかってくらいに。
ふふん、ザマ~ミロっ!!
「エリートともなると、恋人の出産にも立ち会えないなんて可哀そう。私ならそんな男絶対選ばない」
「真波はちかちゃんと違って強くて優しいから。」
「強くて、優しい。ねぇー?本当にそう思ってるんなら、絶対後で後悔するんだから。」
真波はそんなに強くもないし、優しくもない。
真波と私はそっくりだから、真波の考えそうな事は判ってる。
きっと真波の事だから多分・・・。
「ねぇ、桐崎さん。ここって一流の会社なんでしょ?」
「・・・そうだな。」
私の持ってきた書類に目を通しつつ、興味なさげに応えるここの経営者サマ兼私の今現在の家主サマ。
今の彼なら、なんでも簡単に頷くだろう。
「それなら一人くらい、半休とっても潰れたりなんかしないよねぇ~?」
「・・・、そうだな。」
よしよし。
「なら、結城さんとデートしたいから、結城さん借りてくね?結城さん、いこ?」
椅子から立ち上がって結城さんの手を取れば、結城さんは頭を横に振った。
何よ、行けないっての?
私の責めるような視線にそうっと目を閉じたかと思えば、結城さんは私の手を静かに離し、鞄を持って、外へと歩き出した。
(どいつもこいつもっ!!)
なら、好きにすればいいんだ。
後で捨てられても知らないんだからねっ!!
「ねえ、この辺で美味しいケーキ屋さんドコ?」
「・・・知らん。」
「あー、もう。もういいや。今日は帰らないからよろしく。」
こんな無愛想な家主サマに付き合ってる暇はない。
どうせ今日もこの家主サマも帰らないのだから、私も勝手にする。
そう言い残し、私は桐崎さんの会社から友人の入院している病院へと急いだ。