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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
3/23

◆住処は公園ですが、それが何か?

続きですよ~。

 3月とはいえ、夜はまだまだ肌寒い。


(で、なんで私はこの人と公園で缶コーヒーなんて飲んでるかな。)


 隣に立っているオッサンを横目で盗み見れば、携帯で誰かに連絡を取っている。

 多分、迎えの車でも呼んでいるのだろう。


 手の中には、すっかりぬるくなった缶コーヒーが、早く飲み切ってしまえと私をせっついている。


(でもなぁー、苦いからなぁー、苦手なんだよねぇー。)


 奢って貰っておいてなんだけど、実はコーヒーは、きゅうりの次に嫌いなのだ。

 でも、きゅうりは漬物にしたらなんとか食べれるから、本当に嫌いなのは断トツでコーヒーになる。


 それでも飲まなければ、非常識だろう。と言うか、ぶっちゃけ勿体無い。


「で、謝罪はなしか。君は」


「謝罪?あぁ、謝れって言うんなら謝るよ。ゴメンナサイ、はい、これで良い?」


 苦い苦い黒い液体を飲み下しながら、片手間に口先で謝り、気を逸らす。


 ホント、苦いったらない。

 こんなマズくて苦い液体物を飲む奴は、私からしてみれば立派なドMである。

 将来結婚するのなら、絶対コーヒー嫌いの人にする。

 いなければ一生独身でも良い。


「誠意が感じられない」


「ちッ、これだから金持ちのオッサンは。」


 変な所で粘着質で性質が悪い。


 あぁ、だからあんな処で・・・。


「別れ話は他所でやってよね、良い大人が。」


 ふふんと、鼻先で嗤ってやれば、オッサンの眉がピクリと少しだけ反応した。


 なるほど。

 どうやらこのオッサンは、表情をコントロールするのに長けているらしい。

 けど、それも完璧ではないときている。


 でも、それも私には関係のない事。 

 

 そう自分の中でけりをつけ、欠伸を噛み殺しつつ、公園の時計を見れば。


「無理、もう無理。寝る!!」


 夜の12時をとうに過ぎている。

 

 今すぐ寝なければと、肩に掛けていたショルダーバッグを枕代わりにして、椅子に横になろうとすれば、おい、と、呆れた声で呼び止められた。


 その声に嫌々振り返れば、オッサンは非常に渋い顔だった。

 

(あぁ、なるほど。)


 私はオッサンの考えている事が手に取る様に解り、にっこりと笑ってやった。


「公園が私の寝る場所ですが、それが何か?」


 私のこの躊躇いのない言葉。


 これがあんな事に繋がるとは、誰が思い、想像するだろうか。

 いや、想像しないに違いない。


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