◆住処は公園ですが、それが何か?
続きですよ~。
3月とはいえ、夜はまだまだ肌寒い。
(で、なんで私はこの人と公園で缶コーヒーなんて飲んでるかな。)
隣に立っているオッサンを横目で盗み見れば、携帯で誰かに連絡を取っている。
多分、迎えの車でも呼んでいるのだろう。
手の中には、すっかりぬるくなった缶コーヒーが、早く飲み切ってしまえと私をせっついている。
(でもなぁー、苦いからなぁー、苦手なんだよねぇー。)
奢って貰っておいてなんだけど、実はコーヒーは、きゅうりの次に嫌いなのだ。
でも、きゅうりは漬物にしたらなんとか食べれるから、本当に嫌いなのは断トツでコーヒーになる。
それでも飲まなければ、非常識だろう。と言うか、ぶっちゃけ勿体無い。
「で、謝罪はなしか。君は」
「謝罪?あぁ、謝れって言うんなら謝るよ。ゴメンナサイ、はい、これで良い?」
苦い苦い黒い液体を飲み下しながら、片手間に口先で謝り、気を逸らす。
ホント、苦いったらない。
こんなマズくて苦い液体物を飲む奴は、私からしてみれば立派なドMである。
将来結婚するのなら、絶対コーヒー嫌いの人にする。
いなければ一生独身でも良い。
「誠意が感じられない」
「ちッ、これだから金持ちのオッサンは。」
変な所で粘着質で性質が悪い。
あぁ、だからあんな処で・・・。
「別れ話は他所でやってよね、良い大人が。」
ふふんと、鼻先で嗤ってやれば、オッサンの眉がピクリと少しだけ反応した。
なるほど。
どうやらこのオッサンは、表情をコントロールするのに長けているらしい。
けど、それも完璧ではないときている。
でも、それも私には関係のない事。
そう自分の中でけりをつけ、欠伸を噛み殺しつつ、公園の時計を見れば。
「無理、もう無理。寝る!!」
夜の12時をとうに過ぎている。
今すぐ寝なければと、肩に掛けていたショルダーバッグを枕代わりにして、椅子に横になろうとすれば、おい、と、呆れた声で呼び止められた。
その声に嫌々振り返れば、オッサンは非常に渋い顔だった。
(あぁ、なるほど。)
私はオッサンの考えている事が手に取る様に解り、にっこりと笑ってやった。
「公園が私の寝る場所ですが、それが何か?」
私のこの躊躇いのない言葉。
これがあんな事に繋がるとは、誰が思い、想像するだろうか。
いや、想像しないに違いない。




