◆世の中は上手くいかない
お待たせしました。
え?待ってない?そんなこと仰らずに、お付き合い下さい。
――莫迦の相手は疲れる。
腕時計を見れば、会議が始まって既に二時間が経っていることに頭痛を覚える。
先程から会議は遅々として進まず、何度も同じことを問答しているだけで、貴重な時間を無駄にしている。
こんなことならば家で央子を看病していた方がよほど有意義だっただろうに。
吐きたくもない溜息を盛大に吐き出せばそれまで煩わしかった雑音がピタリと止み、それに増々自分の中の徒労感が増してくるのが解る。
あぁ、本当にコイツらでこの先この会社は大丈夫だろうか。
自己顕示欲しかない役員に、会社を結婚紹介所としてしか意識してない一部の女子社員に、足の引っ張り合いするだけで成果を全く出さない野郎共。
俺は何の為にこの会社の社長になったんだ、と自分に問いつめたくなる衝動を抑え、不備が残る書類を机に投げ出すことで、会議の強制終了を示した。
「意見がまとまらないのなら今日はここまでだ。尤も次回もこの場に立てる奴がいるかは保証はできないがな。――能無しは不要だ」
ギシっ、と、革張りの椅子が、俺が椅子から立ち上がることで軋む音を奏で、役目からの解放を歓喜する。
そのまま会議室を出、廊下へと足を一歩踏み出せば、そこには二度と顔も見たくないオンナが俺を待ち構えていた。
オンナ――そいつは忌々しくも未だに離婚に同意しようとしない妻、篠崎塔子。
こいつは会社の金を横領して、その金で男と毎晩豪遊していた。
俺が偏に社長の座を追われなかったのは、このオンナの不正を重役会議と株主総会で告発したからに過ぎない。
そしてその時に提示された条件のうちの一つにこのオンナとの離婚も入っていた。
元々愛情がなかったと言えば嘘になるが、何千何万と言う会社に関わっている人間の生活を守る立場にいる以上、このオンナとのこれ以上の婚姻関係の継続は考えられなかった。
だからこそ俺は一刻も早くこの目の前にいる金の亡者と縁を切りたいのだが。
世の中は上手くいかないんだな。
俺はその金の亡者からもたらされた知らせにより、困惑することとなる。
俺を困惑させた報せ。
それは・・・。
「これが診断書よ。ね?うそ偽りなく貴方の子よ?」
――これで別れられないわね?
もしこの時に戻れるのなら、俺は自分を殴ってやりたくなることになるなど、この時は知る由もなかった。
待たせた挙句がこの完成度でゴメンナサイ。
小石を投げないで下さい。