◆セカンドコンタクトは、真夜中のコンビニで。
執筆浮気です。
全くもって運命や縁とは不思議なものである。
結論から言ってしまえば、高校進学を諦める事にした私は、夕方から夜にかけてまで、大手の会社が新たに進出したコンビニチェーン店で働く事にした。
本当は真夜中の方が時給は良いのだけれど、そればかりは仕方がない。
それが年齢の壁と言うものだ。
「いらっしゃいませ~」
気持ちを入れ、地道に稼ぐ。
そうでもなければ、この世知辛い世の中、とてもではないが生きてはいけない。
今日は花の週末金曜日とだけあって、売れ行きが良いのは、酒や飲み過ぎに効く液薬、そしておつまみ等の類。
たまに雑誌など買っていく人もいるが、まぁ、その、いわゆるそっち系で、精算する方も、される方も、とても気まずい。
(でもなぁ~、買うなとは言えないしなぁ~・・・。)
お客が何を買うのかは、お客の自由。
人にとやかく言われる筋合いも、言う資格もない。
「ちかちゃん、もうすっかり慣れたみたいだね?」
「あ、店長、お疲れ様です」
私が腕を組み、うむうむと考えている所に、朗らかな声を掛けてきたのは、私の事情を知った上で雇ってくれた恩人でもある、榊 入鶴、28歳のイケメン店長。
榊店長は本社から出向してきている社員の一人で、主に店員の教育に力を注いでいる。
後々は本社に帰る予定でいるらしいと、もっぱらの噂だ。
「もうすぐ上がる時間だね、帰り道大丈夫?」
「はい、平気です。誰も私なんて襲いませんから」
「・・・、何度も言うけど、最近は誰でも危ないからね?本当に大丈夫?」
眉間に皺を寄せた店長は、根っからの心配性で、何かとちょこちょこ心配してくれる。
(もう、大丈夫なのになぁ~。)
人から心配されるのは、慣れてないせいか、少しこそばゆい気もする。
ほわほわとした気分で、にこにこしていると、店の自動ドアが開いた。
すると、榊店長はそれまで纏っていた優しく朗らかな雰囲気を消し、真剣な眼差しで入ってきたお客さんに対して頭を下げた。
「店長?どーしたんですか?」
「あぁ、ちかちゃんは知らないよね?ウチの本社の社長だよ」
入ってきたのは、どこかで見た事のある男の人。
その人は店長から売上簿を受け取ると、パラパラとページをその綺麗で長い指で、次々と捲った。
そして。
「最近、売り上げが良いようだが?」
「あぁ、はい。店員を入れ替えましたので。麻生には辞めて貰いました。彼女の接客態度はいささか問題がありましたので」
「麻生?あぁ、あの女か」
淡々と交わされる会話は、どうにも生々しい。
(仕事、なんか仕事ないの?)
二人の傍で、こうして何もしないで立っているだけではいささか気まずい。
私はそろりそろりと二人から離れ、商品が並ぶ棚をチェックすべく、こそこそと忍び足で移動した。
が。
「で?麻生の代わりに入れた店員は?」
「今日も入ってますよ?ちかちゃん?」
(ひぃ~、私にふらないでよ!!)
なにぶん、事なかれ主義である現代っ子の私は、面倒事が大っ嫌い。
長いモノにも巻かれたくもなければ、関りたくもない。
店長もそれを判ってるはずなのに。
のろのろと、それでも業務命令だと、自分に言い聞かせ、再び二人の傍に戻り、私はぺこりと社長に下げたくもない頭を下げた。
「天海 央子 です。店長にはお世話になってます。」
「子供か。大丈夫なんだろうな、榊。」
「彼女は優秀ですから。クレームも減りましたよ。」
(くっ、この野郎、人を苔にしやがって!!)
人の頭の上で交わすような言葉じゃないだろうと、罵ってやりたかった。
でも相手は社長。
刃向かえば、職をなくす羽目になる。
(我慢、我慢、私は大人、大人。)
理不尽な言い様を我慢し、人が我慢しようとしていたのに。
なのに奴はほざいた。
「あぁ、思い出した」
それはそれは、不愉快だと言わんばかりに。
「あの節は冷たい水をどうも」
と。
この時、私はこの世には本当に悪縁と言うモノがあるのだと、しみじみと実感した。
中々甘くならない。
それが篠宮ワールドです(笑)




