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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
16/23

◆嬉しい!!

 むっつりとした桐崎さんに、その桐崎さんに甘えるように抱きついている如何にもな人は、何と桐崎さんの実のお兄さんらしい。


 らしいって言うのは、桐崎さんだけの意見だから。

 お兄さんはお兄さんで意見があるらしいんだけど・・・。


「もう、私の事は芽衣って呼んでっていつでも言ってるでしょ。それかお姉ちゃん」


「何が‘芽衣,だ、何が‘お姉ちゃん,だ。気色悪い」


「ひっどーーい。芽衣、悲しい、悲しいわ。」


 さっきからこの調子で、全くというか全然話が進まない。

 まぁ、私は無色だから良いけど、二人は会社があるんじゃないの?仕事あるんじゃないの?

 兄弟中が良いのも良いけれど、程々にしておいた方が良いと思うの。


「おい、その生温い瞳で俺を見るのはヤメロ。コイツとは人種が違う。」


「あら、誰のお陰で社長でいられてると思ってるの、なっちゃんのクセに。」


「・・・・・・っく、」


 ギリギリと歯ぎしりが今にも聞こえて来そうな形相の桐崎さんに、私のお腹は痙攣しそうだった。だって、だって、あの桐崎さんが『なっちゃん』だなんて。


 これが笑えずにいられる?


(ううん、無理。無理ったら無理。例え天地がひっくり返されたって無理。)


 笑いたいのに思いっきり笑えないのは苦しい。ここで私が笑ってもお兄様、――お姉様には怒られないだろうけれど、桐崎さんには恨まれちゃうから笑えない。だけど、だけど・・・っ。


「あー、無理っ。もう無理。なっちゃんって、なっちゃんって、子供扱いされてるし!!しかも女の子みたい!!」



 こんなに笑ったのは本当に久しぶりで、ううん、もしかして初めてかもしれない。とにかく私はお腹が捩じれるくらい大きな声で笑い続けた。


 見るからにイイ大人が、一目見れば心惹かれるだろう男性が、女・子供扱いされるのは下手な芸人のコントより面白い。だから、笑って許してよ。


 でも桐崎さんは、そんなに甘くはなかった。

 そして、だからこそ驚いた。


「央子、笑ってる暇があるんだったら、このろくでもないバカ兄貴を追い出せ」


「・・・(茫然)」


「おい、央子!!」


 あれ?

 やっぱり聞き間違いじゃない。

 今、私の事名前で呼んだよね?

 私の夢、幻、幻聴じゃないよね?


 ゆるゆると緩んでくる頬に、私はとても言葉で言い表せない位の嬉しさを感じて、感謝のハグを、桐崎さんにお見舞いした。


 だって嬉しかったから。


 名前を呼んで貰えるって事が、こんなにも心を揺さぶられる事だったなんて、私は今日、この日のこの瞬間まで知らなかった。

 

 名前一つで嬉しくなっていた私は知らなかった。


 これからの私達の未来を・・・。





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