表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
13/23

◆なんだ、コレは。

桐崎視点

「お疲れ様です、桐崎様。」


 マンションの管理人をも務めているコンシェルジュが、俺の帰宅に気付くなり、声を掛けてくる。そして序とばかりに、預かっている手紙や荷物やらの類を、カウンターの下から引っ張り出し、俺に見せてくる。


「今日の分ですが如何致しましょう。」


 ほぼ毎日の様に届くそれらは、目を通す事無く処分するように頼んでいるが、その中に何故か別にされている荷物があった。

 

 俺の視線に気付いたのか、コンシェルジュはあやふやな笑みを浮かべ、すっと、その如何にも怪しげな荷物をカウンターの下に戻した。


 それはまるで、俺から隠す様に。


「それはいらないが、今隠したモノはなんだ?」


「申し訳ありませんが、お答えできません。」


 きっぱりとした拒否に、俺は溜息を吐いた。このマンションは個人情報や安全設備がしっかりと教育されている為、簡単にはぼろを出さない。だが、一度出されたモノを隠されれば、俺でも気になる。


 多分、あれはアイツ宛のもなのだろう。そうでもなければ、一緒には出さない。では、何故一旦出したモノを隠したのか。


 答えは至って単純。それはおそらく他人に見られたくないものか、見せられないモノだからだろう。


 数瞬考えた末、俺は堂々と嘘を吐く事にした。


「もしや、妹のモノではないかと思ってね。十日前から一緒に暮らしているんだが・・・。情けない事に親父の隠し子でね・・・。央子と言うんだが」


 確かそんなような名前だったような気がする。俺はそう思いながらも、視線を逸らさずにその荷物を預かっている管理人に言った。


 管理人は管理人でそれを真実かを見極める為、俺を見ていたが、先に折れたのは管理人の方だった。


「妹さんだったんですか。なら、お預け致します。」


「確かに。妹には渡しておこう。」


 小さな紙袋だけを受け取り、俺はそそくさとエレベータに乗って、部屋のある5階のボタンを押した。そして、エレベータの扉が閉まった所で、半ば騙すような形で手に入れた同居人の荷物を覗けば、白い紙に包まれている箱と手紙が入っていた。


 ここでそれを開けてしまうのは簡単なコトだろう。しかしこれは自分のモノではない。中身が気になるのなら、部屋に着いた後、本人に開けさせた後に確認すれば良い。


 そう結論付けた俺は、部屋がある階にエレベータが着くなり、保科と野良猫の様な同居人がいる部屋へと向かい、カードキーを差し、玄関を開けた所で口元を覆った。


 部屋全体が焦げ臭く、しかも何故か灯の一つも点いていなかったのだ。


「保科?いないのか?」


 呼びかけるが、帰って来る答えはない。しかし、靴は確かにある。


 仕方なく勘だけを頼りに、廊下の灯りとリビングの灯をつければ、保科と同居人の少女が、如何にも不快そうに顔を歪め、仲良く寝ていた。


 保科の膝を枕に、猫の様に身体を丸めて寝ている少女が身体に掛けているのは、薄い毛布のみ。傍にはスポーツドリンクのペットボトルが一つだけ置いてあるだけ。


 何なんだ、コレは。


 思わず漏れてしまった溜息は仕方ないだろう。そうして保科を蹴ってしまった事も。



 とにかく、疲れて帰って来て俺が見たモノは、焦げ臭い部屋で仲良さげに寝ている二人の姿だった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ