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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
11/23

◆嘘はもっと上手く吐け

桐崎視点

 野良猫の様な警戒心、とは、古人は良く言ったモノだ。


 野良猫は、一度人間によって酷く扱われたり、捨てられる事で出来上がる。そしてそれを一度体験した猫は、二度と人に懐こうとはしない。


 それは人間も同じなのだろう。


「社長、件の少女の事ですが。」


 粗方の業務の報告を終えた秘書の一人が、眉を不快気に歪め、報告書を睨んでいる。その表情からするに、おそらく素情が悪いのだろう。だが、聞かなければ何も始まらない。


 そんな俺の考えが伝わったのだろう。秘書の一人であるそいつは、俺が促すまでもなく、口を開いた。


「天海 央子、3月3日産まれのA型、母親は現在精神科病棟に入院中で、父親は樋野ひの 流麗りゅうれい氏ですが、こちらは殺人と横領の罪で刑務所に服役中です。高校は私立花宝苑学院に合格したものの、資金面の問題で辞退。中学時代は常に喧嘩が絶えなかったようです。」


 ろくでもない人間だと、最後に断言した秘書は、報告し終えた事をいい事に、さっさと通常業務に戻っていった。だが、保科はそれに酷く憤慨していた。


「本当にそれはあの子の事ですか?風を花粉症だと、嘘もバレバレな言葉を言い張る、あの子の!!」


 その保科の言葉に、俺が今までパソコンのキーボードを弾いていた指が止まる。


 今、保科は何と言った?

 風邪を花粉症だと言い張った?


「保科、タマは風邪を引いていたのか?」


「えぇ、ばっちりと。」


 あれはきっと38度を超えてますね、と言いきった保科に頭痛を覚えた。


 あれほど俺には飯を食えだの、布団で寝ろだのと口煩く言っていたクセに。

 全く、世話が焼ける。


「保科、お前、俺の代わりにタマに付いてろ。」


「良いんですか?俺で。」


「お前以外だとタマは遠慮するだろ。」


 一度拾ったモノは、その本人が出て行くまでは面倒は見る。

 それが必要最低限の義務だと言う事は、誰でも認識していて、心得ている当然の事だだろう。


 俺の言葉を本気かどうか確かめてから、保科は肩を竦め、ポツリと一言呟いた。


 ――相変わらず、判り難い優しさですね、と。


 その保科の判った風な言葉と態度に、腹が立った俺は、犬を追い払うように手を振った。


「解ったらとっとと帰れ。――今日は遅くなる。」


「ハイハイ。判りましたよ。ちゃんと伝えておきますよ。」


 そう、この時は未だ、本当にアイツをペットの様だと思っていた。

 だから一緒に住んでいても平気だったし、何とも思っていなかった。

 


 

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