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恋のラスト・オーダー  作者: 篠宮 梢
10/23

◆花粉症です。風邪ではありません。

 コンコン、グスグス。

 ゲホゲホ。


 朝から長袖長ズボン、白マスクの完全装備の私だけど、これはカゼじゃない。春の風物詩の一つの花粉症であって、決してカゼなんかじゃないったらない。


「風邪ですか?」


「違います。花粉症です。お迎えご苦労さまです。保科さん」


 家主サマの迎えに来た秘書兼運転手の保科ほしな すぐるさん、29歳を迎え入れ、いつものようにコーヒーを出す。そのコーヒーを保科さんが飲んでいる間に、冷蔵庫から適当に野菜やチーズを取り出し、焼き上がったばかりのパンに挟み、それをアルミで巻き、これまた適当なハンカチで包んで保科さんに渡す。


「これ、桐崎さんとお昼にでも食べて下さい。どうせまた性懲りもなく、お昼ご飯食べに行く暇なんかないんでしょうから」


「・・・、助かります。」


「要らなかったら、置いて行っても良いですよ。食べなかったら食べなかったで使い道ありますから。」


 マスク越しの会話故に、声は若干聞きにくかったようだったけれど、保科さんは頭を振り、即席のサンドイッチを鞄に入れた。


 それを見届けた私はダイニングテーブルに突っ伏した。


「やっぱり風邪なんじゃないんですか?」


「・・・・・違います」


「社長並みに意地っ張りですね。」


 失礼な、と、言いたかった私の口は、言葉を発する事無く、力尽きた。


 ただ咳と鼻水が出るだけで、熱は出てないのだから、花粉症に決まっているじゃないか。風邪なら熱が出る筈だ。


「なんだ、タマ。こんな処で寝るな。寝るなら寝床に行け。」


 コイツ、いいかげん人を猫扱いするなよ。


 起き上がって、出勤の支度を終えた家主サマの相変わらずの言葉に、私はダルイ身体に鞭を打って顔を上げ、テーブルに手をつき、与えられた個室へと向かった。


「社長、彼女ですが「――保科さん」」


 余計な事を言おうとするお節介な秘書の名を呼べば、彼はやれやれと盛大な溜息を吐き、両手を上げた。その意味はどうやら【降参】を表わしているらしい。


 そう、それでいいのだよ、保科君。(某名探偵風。)


 満足げに頷く私を心配気に見つめてくる彼と家主サマに手を振り、見送った後、私は与えられた個室で密かに上がってきていた高熱と戦う事になった。


 それでもなお私は。


(カゼなんかじゃない、風邪なんかじゃない)


 と、自分に言い聞かせるように布団の中で意地を張り、猫のように丸まっていた。

  

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