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後悔させるために救済を


「我が名は、エメラルダ・ヴァインベルク」 

「我が名は、アルベルト・エルダンジュ」



「 「ただいまより、古代魔術の行使を宣言する」 」


 

 凛とした声で、堂々たる宣言が響いた。ローブを纏った2人は、隕石の降り注ぐ天に向かって真っすぐ手を伸ばした。


 その瞬間、光の塊と美しい泡が一切に広がる。それは時折弾け、怪我を治し、地面を補強し、人々を守り続ける。隕石も打ち砕き、その被害を無にする。砕かれた隕石の破片さえも、光の粒子に変わっていく。


 大災害はあっという間に終息し、王都に静けさが戻った。


 アルフォンスは、ただ呆然と、エメラルダとアルベルトの偉業を見ていた。かつて自分が「可愛げがない」と言い放った女性が、国を救ったのだ。


「エメラルダ、?」

 

 アルフォンスの言葉は、小さく小さく零れ落ちた。フードが取れ、彼女の素顔が露わになる。名前を呼ばれたエメラルダは、そっとアルフォンスに近づいた。


「お久しぶりです」


 エメラルダの瞳は、静かな光を宿している。


「エメラルダ……!なぜ、ここに?もしかして、僕のことが、」

「いい加減にしてください」


 エメラルダはそれはそれは綺麗な笑顔で、伸ばされた手を勢いよく叩き落とした。


「私のことを捨てたくせに。その愚かな口をさっさと閉じて、少しでも国民のために動いてください」

「えめ、らるだ、?」

「本当に使えない。何ならできるんですか?王族としての威厳どころか、人としての何たるかから学び直してください」

「な、」

 

 

 「おーおー。よく言った。スカッとしたわ~」


 

 アルベルトは楽しげに笑いながら、フードを自ら外す。その瞬間、現国王が驚いたように声を発した。


「ア、アルベルト、!?お前、生きていたのか!!!」

「ははっ、どーも。俺のことを捨てたっきりだったか、クソ親父」


 私の隣に立ちながら、口悪く言い放つアルベルト。突然のことにエメラルダが驚いていると、アルベルトは笑う。


「俺は、あのクソ親父と愛人の間にできた子どもだ。バレると面倒だからって、辺境拍をしていた遠い親戚に俺のことを押し付けたんだよ。ほら、エメラルダの元婚約者に名前似てんだろ」

「な、なんでそれを、」

「あ?それぐらいのことなら調べられるわ。どれだけ自分の血で古代魔術の研究したと思ってんだ」

 

 口悪く煽り散らかすアルベルト。エメラルダは止めるどころか、心底楽しそうに笑う。


「もういい?」

「ああ。言いたいことは言えて満足した」


 エメラルダはアルベルトに確認を取ってから、大臣たちに向き直った。

 

「我々が救いの手を差し伸べるのは、今回きりです。今後、救済する気は一切ありません」

「今回だけでも救いがあっただけ、マシだと思え。エメラルダの寛大さに感謝しろよ」


 2人はそれだけ言うと、さっさと帰ろうとする。長居する気はない。用事は全て終わったし、大満足だ。


「エメラルダ……!どうか、私の元へ戻ってきてほしい!今なら分かる!お前こそが、この国に必要な人なのだと!!」


 足がもつれながら、アルフォンスはエメラルダに縋りつく。しかし、途中で足が動かなくなった。


 アルフォンスの足元には、先ほどまで人々を救っていた光が絡みついてる。意思を持つように、ギチギチとアルフォンスの足を締め上げていた。骨が軋み、アルフォンスは苦しげに唸った。


 その声でようやく気が付いたとでも言うように、エメラルダは優雅に振り返る。冷たく、そして静かに言い放った。


「殿下、ご冗談はよしてください」


 無感情な声に、その場にいる人全員が小さく悲鳴を上げる。全員が、彼女が本気で怒っていることを察する。下手に刺激すれば殺される。そんなことを本能で感じてしまうほどの殺気。


「あっ、そうだ。リリアーナ聖女」

「ひぃ、」


 思い出したかのように、エメラルダは視線をリリアーナに向ける。彼女は怯えているが、エメラルダは優しげな表情だ。


「あなたの愛らしさは、私も惚れ惚れするほどものです。しかし、それを自分にだけ向けてくれていると勘違いする馬鹿は五万といます。どうぞ、扱いには注意してくださいね。自分の武器で自分の首を絞めては、元も子もありませんから」

 

 それだけ言うと、2人は王都を去ったのだった。



◇◇◇



 後日、平和な辺境伯の屋敷で2人はお茶会をしていた。

 その日は執事のトーマスに、研究に熱中しすぎだと説教され、1日研究を禁じられた日だった。


「にしても、愛嬌まで計算済みってか」

「東洋の言葉に『能ある鷹は爪を隠す』というものがあるそうよ。私の愛嬌は、まさに最終手段。そもそも、聖女に愛嬌は不要よ。人を必要以上に誑かしかねない」

「面白い言葉だな。その完璧さで、さらに爪まで隠していたとは」


 カップをソーサーに置きながら、エメラルダはアルフォンスをじとっと睨む。


「それを言うなら、私だってあなたが王族の血を引いているとは存じ上げなかったわよ」

「言う必要がないと思ったんだ」

「知っていれば、」

「俺の元に来なかった?」


 一瞬、中庭が静かになる。アルベルトは目を伏せ、エメラルダの言葉を待った。


 少しの間の後、

 

「王族の愚痴をもっと共有できたじゃない」


 むすっと頬を膨らませ、エメラルダはクッキーを齧った。そんなエメラルダを、アルベルトは愛おしそうに見つめる。


「今からでも遅くないんじゃないか」

「でも本人にぶつけたスッキリしちゃった」

「あれは良かったな~。今思い出しても最高だ」

「アルベルトの煽りだって、聞いていて楽しかったわよ。口は悪かったけれどね」

「あの後、王妃と揉めたらしいな。ざまあみろってんだ」


 

 楽しげに笑う、エメラルダとアルベルト。

 

 古代魔術が繋いだ不思議な縁は、きっと切れることはないのだろう。


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