精霊たちに愛されること
食後の穏やかな陽光がリビングに差し込む中、4人は年季の入った魔導書を広げて向き会っていた。
「さて、せっかく行使者が揃ったんだ。僕たちの本質について、少し深い話をしようか」
カシムが指先を軽く振ると、そこから数片の花びらが舞い落ち、テーブルの上に落ちた。それは本物の花ではなく、純粋な魔力の結晶が形を成したものだ。その証拠に香りが一切しない。
「僕たちは精霊たちから異名を貰う前に、それぞれの適正にあった魔力の形が与えられるんだ。僕の場合は『花びら』。ナディアは、」
「『雪の結晶』です」
ナディアが静かに言葉を添える。彼女が掌を上に向けると、そこには音もなく、精巧な雪の結晶が浮かび上がった。ふわりと舞い上がった雪の結晶は、部屋に静かに降り注ぐ。それでも、不思議と冷たくない。むしろ、ほのかな温かさまで感じる。
「精霊から与えられた形は、そのまま精霊の姿となる。君たちと話す時、精霊はどんな姿になる?」
エメラルダはカシムの言葉に不思議そうに小首をかしげる。
「それなら…私は『光の塊』です」
「俺は『泡』だな。精霊たちは割れない泡になる」
2人の答えに、カシムは満足そうに笑う。
「古代魔術の行使者には、それぞれ固有の特性が与えられる。エメラルダ嬢、君は≪祝福の魔女≫としての『光の塊』。アルベルト、君は≪古代魔術の探狂者≫としての『泡』。これらは単なる演出ではなく、精霊たちが私たちを認識するための『刻印』のようなものなんだ」
「精霊、か……」
アルベルトが自らの周りに浮かび上がった泡を指先で突く。泡はゆっくり揺れ、変わらず浮かぶ。
「そもそも精霊とは何なのか。僕たちの解釈ではね、精霊とは『古代魔術そのもの』なんだよ」
カシムが真剣な表情で語り継ぐ。
「彼らは定まった形を持たない意志ある法則だ。彼らに愛され、その力を貸し与えられること。……それこそが行使者としての適性そのものなんだ」
「彼らが何を基準に選ぶかは、私たちにも分からないの。でも、善人だからとか、努力したからとか、そんな人間的な理由は通用しないわ」
ナディアの言葉を、エメラルダが繋ぐ。
「才能だけ持っていても行使できない、ということですか?」
エメラルダの言葉に、ナディアは頷いた。
「そうよ。数万人の魔術師が血を吐くような努力をしても届かない場所に、精霊に好かれただけの者が辿り着くことができる。残酷な話だけれど、それが古代魔術の真実よ。彼らの気まぐれに愛された者だけが、行使することを許される」
「……だから、古代魔術の行使者はごく稀な存在だったのか」
アルベルトの言葉に、カシムがいたずらっぽく笑う。ナディアもまた、雪の結晶を消すと、エメラルダに向かって少しだけ柔らかい眼差しを向けた。
「どれだけ精霊の気まぐれだとしても、こうして同士と話ができるのはやはり楽しいわね」
ナディアの言葉に、部屋の空気が軽くなる。
互いの特性を認め合う4人の間には、理不尽なまでの才能を持つ者同士にしか分からない、静かな共鳴が流れていた。




